85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONE後輩をからかう先輩二人です。100本チャレンジその13(2021/12/28)放課後アフタートーク 悪戯心にも満たない出来心だった。のんびりとただ三人で同じ空間にいるだけ時間に、僕は言葉を落とす。 「アマミネくんって天才なんだよね?」 改めて口にすると、なんだかすごい問いかけだと思う。そんな質問にアマミネくんは平然と答えた。 「ですね」 アマミネくんのこういうところ、すごいよなぁっていつも思う。アマミネくんが自信満々に返した言葉は、僕の望んだものだった。 「じゃあ、聞いたら何でも教えてくれる?」 「そうですね。俺が今わからないことでも調べればわかりますし、大抵のことは教えられますよ」 情報収集は得意なんです。そう誇らしげに胸を張るアマミネくんに笑いかける。 「じゃあ、教えてほしいことがあるんだ」 「はい、なんですか?」 870 85_yako_pDONE秀+百々人。恋になりそうにない話。100本チャレンジその12(2021/12/28)キミに恋してない たまにアマミネくんがきらきらしてるのって、なんでなんだろう。 例えば今みたいに三人でぼんやりとどうでもいい話をしているときなんかは、きらきらしてるって思わない。してるのかもしれないけど、ちょっとわからない。それでも、たまにアマミネくんはきらきらに見える。それは僕がアマミネくんに抱くぐちゃぐちゃした感情のせいなのかもしれないけど、それできらきら見えるってどういうことなんだろう。そんなことを思っていたら、アマミネくんはエスパーみたいに口にした。 「そういえば、好きな人がきらきら輝いて見えるって言うじゃないですか」 「え?」 「聞いたことがあるな」 マユミくんは賛同したけど、僕はとっさに「知らない」って言ってしまった。でも、「違う」と言わなかっただけ褒めてほしい。だって輝いて見えるのは好きでもなんでもないアマミネくんだったから困ってしまったんだ。いや、嫌いじゃないけど、こういうときに言う『好き』とは絶対に違うってわかってる。 1564 85_yako_pDONE○○しないと出られない部屋に閉じ込められたクラファです。嘔吐表現があります。(2021/12/27)羊の不在「状況を整理しましょう」 異常事態において、状況の把握は重要だ。俺の提案に百々人先輩も鋭心先輩も頷いた。幸い身の危険はなさそうなので、じっくりと腰を据えて考えよう。 「認識を共有しましょう。まず、俺たちは事務所の扉を開けた。ここまではいいですね?」 「ああ」 「そうだね。変なところもなかったよ」 よかった。ここから違っていたとしたら話にならない。いや、話をするまえに言うべきことが、まずあった。 「話の腰を折りますけど……先輩たち、俺の見てる夢ですか?」 「さっきビンタしあったじゃない。ちゃんと痛かったでしょ?」 「痛かったな。これは現実で……現実ではなくても、現実だと仮定して進めた方がいざという時に動けるだろう」 15458 85_yako_pDONEアイツの概念が欲しいタケル。カプなし。100本チャレンジその10(2021/12/19)結局天井した アイツがいない。アイツがほしい。いや、語弊があるな。俺はアイツの演じたキャラクターが欲しかった。 俺たちがハマってるゲームに新規実相されたキャラクターの声を当てたのは、よりによってアイツだった。そのキャラクターのカードを入手すると読めるエピソードには既存のキャラクターもたくさん出てくるらしく、俺の好きなキャラクターもでるらしい。おまけにそのキャラクター自体も見た目がかっこよくて、しかも強いときた。紹介エピソードを見る限り、かなりの好青年であることも知っている。声がアイツなのにいいやつだとか、バグみたいだ。 最高レアリティで実装されたアイツ──便宜上アイツと呼ぼう──を手に入れようとして、手持ちのアイテムをすべて使ったけどダメだった。まぁ、とにかくこない。あと二万円使えば確実に手にはいるのだが、なんとなしにそれは癪だった。いわゆる『天井』と呼ばれる行為の初めてを、よりによってアイツに捧げるというのは、なんかムカつくから。 1233 85_yako_pDONE仲良くなったクラファ三人の仁義無きクソ土産バトルです。100本チャレンジその8(2021/12/14)仁義無きクソ土産バトル 突然だが、話は半年前へと遡る。 半年前と言えば、俺たちの仕事も軌道に乗って個別の仕事や地方ロケも増えてきた頃だ。仕事に慣れるのと同時に俺と先輩たちの距離も近づいて、俺たちはそれなりに気の置けない仲になっていた。そう、俺たちは出会った頃に比べてかなり仲良しなのだ。これは俺が今からする話において重要な点なので念頭に置いてほしい。 そう、俺たちは冗談を言い合える仲になっていた。けしかけて、じゃれあって、みたいな。そうしたいわゆる悪ふざけの延長で、俺と百々人先輩の抗争は勃発したのであった。 「はい、アマミネくんのぶん」 そう言って手渡された地方ロケのお土産は鋭心先輩に渡されたお土産とはサイズ感がだいぶ違っていた。鋭心先輩へのお土産はおいしそうなフルーツゼリーで、なんでも百々人先輩が試食したなかで一番おいしかったのだとか。 1614 85_yako_pDONE牙崎の死が受け入れられないPです。100本チャレンジその6(2021/12/11)空洞です。牙崎さんが死んでしまいました。 私が見つけたときにはもう絶命していて、どうにもこうにもならなかった。悲しすぎて涙すらでない。 困る、というよりは単純に悲しかったので、蘇生することに決めてからは早かった。私は悪魔と契約して、牙崎さんを見事に復活させたのだ。 ところがこの悪魔が適当な仕事をしてくれた。この牙崎さん、なんと、笑うのだ。恩を魂に刷り込まれたのか、私にだけ、ひどく柔らかく笑う。 無意識なんだろう。一度だけ肩を強く掴み「笑わないでください」と懇願したのだが、彼はいつもの不機嫌な声で「アァ? 笑ってねぇよ」と言うのだ。だからその言葉を信じようとして、あの笑顔を全部忘れようと努めて──また裏切られる。彼はふわりと、にこりとする。綻ぶ花のようなくすんだ黄色は、仏花の水仙を想起させた。 420 85_yako_pDONEタケルと漣。名前が奪われた! 85_yako_pDONE牙崎のための言語が生まれる話です。オリP注意。100本チャレンジその5(2021/11/26)最小の宇宙 先日、世界に新たな言語が誕生した。その名も『牙崎言語』である。名の通り、アイツのためだけに作られた言葉だ。 『牙崎くんが日本語を喋ってるの、違和感あるよねー』 そう言ったのは自他共に認める変人だった。この変人は世界的に有名なクリエイターで、アイツを指名して曲を作りたいとオファーをくれたのだ。 『だから……牙崎くんのための言語、作っちゃいました!』 彼のこだわり、あるいは思いつきにより、世界には新たな言語が誕生した。牙崎言語。それはA4の紙に束ねられて俺の手元にもやってきた。どうやら数日間、アイツはこの言語しか話せないらしい。 「すごいよね。一から言葉を作っちゃうなんて」 プロデューサーは感心したように呟く。すべての言葉が網羅されているわけではないが、これで日常会話は賄えるらしいから驚きだ。発音はわからないが、とりあえず一通り目を通す。ふと、気がついたことがある。 839 85_yako_pDONEクラファ。桜に攫われる鋭心先輩です。100本チャレンジその3(2021/11/26)桜リタルダンド 鋭心先輩が桜に攫われてしまった。何を日科学的でバカなことをって思うでしょ? 俺もそう思う。 鋭心先輩と、俺と、百々人先輩。桜並木を名乗るには少しばかり力不足と言えるような、まばらな桜の中を俺たちはのんびりと歩いていた。丁寧で暖かい時間だったと思う。俺たちは仕事帰りで、次の仕事の話なんかをしながら、たまに視界を横切る桜の花びらに目を細めていた。 あっ、という間だった。眼前を完璧な形で通り過ぎた桜の薄桃色に視界を奪われた刹那、その向こう側に鋭心先輩の姿はなく、呆気に取られたような百々人先輩が頼りなく眉を下げていた。 「……消えた?」 「……どこにもいない……よね?」 消失マジック。ドッキリ企画にしては非現実的で撮れ高もない。こういうとき俺の取る行動は天才に相応しくない凡庸なもので、咄嗟にできたのはスマホを取り出して鋭心先輩に電話をかけることくらい。 1478 85_yako_pDONE虎牙道。桜に攫われる漣。100本チャレンジその1。(2021/11/25)グラム98円 アイツが桜に攫われた。バカな話だが、真実だ。 今日の昼間の話だからハッキリと覚えてる。アイツを挟んで俺と円城寺さんは歩いていた。アイツは俺たちに挟まれてなお、一人でたいやきを食べながら歩幅をかったるそうに併せて同じく空間にいた。いつもどおり、有り体な光景だ。 仕事帰りだ。今日は円城寺さんに晩飯を食わせてもらうから俺は円城寺さんと一緒に円城寺さんの家に帰る。コイツはあがりこむために、同じ方角へと歩を進める。 なにげなく円城寺さんを見た。視界に見慣れた銀髪がチラつく。普段はやいのやいのとうるさいくせに、こうも静かにされるといよいよ俺はコイツに話しかけることがなくなるのだ。 俺は円城寺さんに今日の晩飯を聞いたんだ。円城寺さんが口を開く直前、唐突な春一番が吹き抜ける。春一番ってなんなのかわからずに使っている言葉だけれど、俺は桜を散らす乱暴な風を春一番と呼ぶのだと思っている。それが、一番春っぽいって思うから。 1826 85_yako_pDONEセックスしないと出られない部屋 VS 秀&百々人です。エロいことしないし、くっつきません。秀+百未満(2021/11/14)セックスしないと出られない部屋に百々人先輩と閉じ込められたアマミネくんの話。 暑くて、溶けそうだ。自分の血流がどくどくと脈打って、数少ない音である俺と百々人先輩の荒い息にノイズをかける。 「ぁ……はぁっ……アマミネくん……僕……っもう無理……!」 百々人先輩は規則的に動かしていた腰の動きを止めて、俺に泣きつくように声を出した。限界が近いのだろう──声がうわずっていて、掠れている。たったひとつを口にするために、ありったけの息を吐き出さなければ音にもならないほどに彼は追い詰められていた。は、と熱い呼吸を吐き出して、限界に近いからだを震わせている。 「へたってても……いいですけど……っ! 俺は、まだっ、動きますよ……!」 そう宣言したはいいものの、俺だって酸欠で頭がチカチカしている。ほんの少し動くだけで汗が滲んで感覚が宙に浮く。熱がじわじわと脳の裏側まで侵食してきて、悲鳴のような百々人先輩の吐息と俺の呼吸の境界を曖昧にしていくから、なんだか俺は意識が部屋の温度とぐちゃぐちゃに混ざっちゃって、自分が自分でなくなるような恐怖があった。 6973 85_yako_pDONE百々人くんが想楽くんと旅をする話。(2021/11/11)キミと一人旅。 部屋が散らかっている。必要な物、不要な物、必要だったはずのもの、もう価値のないもの。 必要な物は必要な場所に。不要な物はまとめてゴミ袋に詰めた。そのあたりで手が止まる。必要だったはずのものは無価値に成り果てて、嘲笑うみたいに僕の部屋に転がっている。 テニスのラケットはもう要らないな。僕は個人戦で三位だった。 書道の道具もいらないな。僕は佳作をもらった記憶がある。 そんなことを言ったら、ここらへんに散らばった賞状やトロフィーなんてもっといらない。賞状は裏が白いからメモ用紙にできるけど、トロフィーの使い道は本気で思い浮かばなかった。捨てたらマユミくんが怒るんだろうなぁって考えて、気が滅入る。こんなのあったって邪魔なんだから、大事だと思うんならもらってくれればいいのに。マユミくんの家って広そうだし、置いといてよ。 12583 85_yako_pDONE野宿する百々人を保護する牙崎。カプなし。昔書いたから牙崎くんへの呼び方間違ってます。(2021/11/06)星屑ダイアローグ 今日、夏が終わったことを知った。僕が着てるのは半袖だし、ぴぃちゃんがくれた差し入れはアイスだったし、晩ご飯はそうめんが食べたかったけど、それでも今日という日は夏の死骸みたいなものだったようだ。 空が、少しだけ高い、気がする。遠くまで塗りつぶされたような夜空だから、気がするだけ。見上げた星空には夏の大三角が見当たらず、僕は暇潰しの道具をひとつ失った。たったみっつしか数えるものがなくたって、それで数時間はのんびりとするつもりだったから。 星は脆い光を放っている。弱々しくて、砕けたクッキーみたいだ。数え切れないほど遠くに光った星を見ながら、僕はこのまえ食べた新発売のクッキーを思い出す。思えばそういうところに秋の足跡があったのかもしれない。そろそろきっと、さつまいものお菓子がでるだろう。 10350 85_yako_pDONE秀と百々人の会話。(2021/10/19)ワールドエンド・アンチヒーロー「あ、また死んだ」 口に出したのは僕だったかアマミネくんだったか。わからないけれど、この言葉は特に拾われずに独り言になる。どちらが言った言葉にせよ、どちらも思っていたことだから拾い上げてまでシェアをするのは手間だった。 コンティニューの文字なんかもすっ飛ばして、アマミネくんの分身はさっき挽肉になった地点の三分前へと戻される。何度も何度も死んで、何度も何度もトラップにかかり、何度も何度もゾンビの集団にタコ殴りにされ、それをひとつひとつ覚えて次こそはと先に進む。敵の位置を覚えては殺され、鉄球の下敷きになってはタイミングを悟り、と、よくもまぁ挫けずに進めるものだ。 アマミネくんがやっているのはいわゆる『死にゲー』と呼ばれるものだ。どこまで真剣にやっているのかはわからないけれど、合間合間に僕を気にして視線を寄越している様子を見るに、さほど真剣ではないのだろう。僕は僕でアマミネくん本体よりもこのゲームに感心があって、つい視線はアマミネくんの手元に集中してしまう。同じ空間にいて、同じ時を過ごし、お互いを気にしているのに視線はあまり絡まない。そんな時間は悪くない。良くもない。つまり、普通。 4546 85_yako_pDONEまだ理解が浅い。秀くんと百々人くんのSF(少し不思議)です。(2021/10/10)絵画旅行 秋晴れの日だった。そのたったひとつの印象さえ日常に希釈されて色を亡くしている、ありふれた日になるはずだった。 そういう類の無味なキャンパスを俺たちくらいの学生はノートの余白のように持て余してして、例えば両手をペンキまみれにした子供がいきなり触れてくるような奇跡を待ち望んでいる。でも、得てしてそういった色は思ったように絵にはならず、大抵は混ざり合って泥のような色になってしまう。図工の時間から知っているはずなのに、俺たちはいつまで経っても懲りることがない。 そんな秋晴れの日だ。生徒会の仕事が中途半端な時間に終わり、俺はのんびりと下校していた。帰りに買い物でも行こうか、と思案する。隣に親友の姿はないが、通りの靴屋は勝手にセールをやっているしコンビニのホットスナックは一人分より余計に温まっている。別に、肉まんとピザまんを一人で買ったっていい。誰かと半分こなんてしなくても、晩ご飯が食べられる程度には男子高校生というものは食べ盛りなのだ。俺には俺がいる。自分に似合う靴くらい、ひとりで選ぶことができる。 5626 85_yako_pDONE百々人くんの幻覚。口調と呼び名がサイスタPと若干違います。Pと百々人くんの交流です。(2021/09/27)キムチ以外。 花園百々人にはかわいいところがある。 くぅ、と鳴った音に百々人くんが困ったように笑う。時計を見れば午後三時。育ち盛りはお腹が減る時間だろう。 事務所は平素を鑑みれば、ビックリするほど静かだった。賢くんはあと少しでくるとして、ここにいるのは百々人くんと、いつの間にかソファで眠っていた漣くんだけだ。 学校帰りの子供たちで賑わう平日に比べ、休日は静かなものだった。それでも百々人くんはその静寂を好んでたびたび閑散とした事務所に訪れる。最初は事務仕事を手伝うつもりだった彼も、私の言葉に自分のやるべき仕事を見つけたようだ。のんびりと休んで、たびたび私と一緒に仕事をする。休むこと、それすなわち仕事のうち、だ。 1750 85_yako_pDONE漣が万能薬になる話です。少し血が出たりします。不穏ですが多分しれっと治るししれっと生きます。(2021/09/18)毒にも薬にもならないアイツが万能薬になった。なってしまったとも言える。万能薬なんてゲームの中の存在だと思ってた。アイツがあれば、どんな病気だって治るってことに、なってる。 なぜアイツの髪や爪が万能薬になるとわかったのかを俺は知らないが、その事実を知られたアイツの髪はあっという間に出会ったときよりも短くなった。最近はそれなりに整えられていた爪は深爪気味になって、そこからささくれが絶えなくなったあたりでアイツは数日姿を消した。姿を消したと言っても行き先はみんな知っていたし、アイツもそこに行くことを拒否していなかったから俺はなにも言えない。もっとも、そこに行くことを喜んでいるようには見えなかったんだけど、それだけじゃ俺はなんにも言うことができない。 2621 85_yako_pDONE飲酒すると夢見心地で宙に浮くタイプの牙崎漣(成人の姿) 85_yako_pDONE真実が正しいとは限らない 85_yako_pDONE七夕のドラスタ 85_yako_pDONE勉強出来ないタイプのメガネ 85_yako_pDONE聖職者モブが漣に狂う話。情欲はない。(2020/01/28)と或る聖職者の独白と或る聖職者の話 朝がきた。平穏な、代わり映えのない、満ち足りた朝が。 私は小さな協会を任されている聖職者だ。昼は小さな教会に、夜はもっと小さな家に住んでいる。 不足無く、過剰無く。家はこのくらいの大きさが一番いい。妻と住んでいたときは多少手狭に感じていたが、いまとなってはこの家が私にしっくりときている。手の届く範囲のものがいい。 少しの上り坂を歩いたところにある小さな教会が私の仕事場だ。居場所と言った方がより正確か。シンプルな、建物が教会を名乗るために必要な最低限の設備だけがある。壁が白いところと、毎年ツバメが巣を作る祈りの場が、私は特別に好きだった。 ひとりのとき──あるいはここに訪れた人が言葉を必要としていないときに聞こえるのは町内放送の音、鳥の鳴き声、子供の声、そして、遠くに町の息遣いだけだ。差し込む木漏れ日にも音がある。私は人々には音を聞くように伝えている。 4227 85_yako_pDONEプロミにおったまげて書いた天道と桜庭。(2018/03/20)王手「王手」 パチリ、という小気味よい音が事務所に響く。桂馬が盤上を駆ける音。 天道はニヤリと笑い、自らの勝利を確信した上機嫌な言葉を桜庭に投げかける。 「なぁ、『天道のことなら十手先まで読める』んじゃなかったのか?」 「ヘタクソな物真似をやめろ。不愉快だ」 そう腹立たしげに言葉を吐きながら桜庭が銀を動かす。パチリ、という先ほどよりは小さな音。この一手は桜庭の意志ではない。こう動かさないと「詰み」だからだ。 「そうしないと負けだもんな。わかるぜ。ああ、俺のほうがよっぽど、桜庭のこと、わかってるみたいだな?」 そう言って天道はまた駒を進める。得意げな笑みで、あと二手で終わりだと宣言までして。 ところが桜庭は天道の思い通りには動かなかった。少し前に奪った角を盤上に叩きつけ、天道の顔を見やる。「王手」の言葉と共に。 515 85_yako_pDONE××の独白。捏造。(2018/05/11)とある男の独り言 日本にはひさびさに来た気がする。ここは食べ物こそうまいが、利便性のある街は決まってくだびれたスーツの群れがゾンビのように徘徊しているか、日本という閉鎖空間で独自の文明を築いた若者が自分のようなオジサンには理解不能な行動を取っているかのどちらか、あるいはその両方だ。 今日も例に漏れず、女学生達が群れている。相変わらずよくわからない。だが、華やかでいいことだと嫌みなく思う。子供は好きだ。若者は宝だ。見ていたい、関わっていたいと掛け値なしに思う。そんな彼女達は操られたように首を上に傾け、頭上のモニターを見つめている。何かが始まるらしい。 突然、爆音とともにモニターに流れる映像と音楽。ひきつけを起こしたように一斉に黄色い歓声をあげる彼女達。何事かとモニターを見るより早く、耳に馴染んだ懐かしい声が大音量で鼓膜を揺らす。 1524 85_yako_pDONEクローとセブン(2018/05/29)冬空に硝煙 初めて人を殺した感覚を未だに覚えている。 大きい、壁みたいな背中。そこに思い切り体当たりをするつもりでぶつかった。 殺意はあった。死んでしまえと思ってぶつかった。どうしても、どうしても邪魔で、明確にその死を願って大きな背を押した。 セブンがその孤児院を訪れたのは、早い話が下見だ。そこにターゲットが通っていた。それだけの話だった。決して、慈善事業に目覚めたわけではない。 ターゲットは俗に言う地上げ屋の類だった。組織に依頼をしたのはその地上げ屋に立ち退きを強要されている孤児院の主、その人だった。報酬は決して安くないのに、人の命を奪うことなのに、孤児院の主は依頼を撤回することはなかった。それだけの覚悟を持って依頼をしたということだろう。 1692 85_yako_pDONEA-30(ファング)とC-13(2018/05/25)友達「A-30」 呼び声は二度、三度と続いたが声をかけられている青年は下を向いたまま反応がない。 呼びかけていた(こちらはお世辞にも青年とは言いがたい)少年はつまらなさそうに目を細め、青年へと近づいた。 少年が無遠慮に青年の肩を掴めば、その手は思い切り引かれ背中から地面に叩き付けられた。空いた手で拳銃を構える青年を少年は相変わらずつまらなそうに見上げている。 「……なんだ、C-13。上のお人形さんかよ」 人を地面に押さえつけた人間とは思えないほど不遜な態度でA-30と呼ばれていた青年は少年を解放した。少年は一貫してつまらなさそうな態度で、青年に対して口を開く。 「珍シい。反応が鈍い」 「ああ?うっせ」 「ファングと呼んだ方がよかったか?」 1337 85_yako_pDONE友達の書いたプロットを私が書くやつだった。クリスさんの話。(2018年くらい)ネオンテトラ 海が好きだった。でも、水槽は、苦手だった。 海にいれば争うことのない生き物たちも、水槽に押し込めると争いを始めてしまうことがある。狭い世界。そこで何かが狂うのだろうか。そうして歪になってしまった小さな世界をいくつも見てきたし、そのうちのいくつかを経験してきた。 一番最初にその水槽の中に放たれたと意識したのはずいぶんと昔の話だろう。背はこんなに高くなかった。私はまだまだこどもだった。 教室。きっと、誰もが初めて投げ入れられる水槽はここだ。私も、同じようにここに放たれた。 そうして、自分が放たれた水槽のバランスが崩れていくのを見た。自分にはその理由がわからない。水槽の中にいる誰かに聞けば、わかるのだろうか。考えて、否定する。きっと、答えなんてないと思う。誰もが狂っていくバランスを理解しつつ、その原因も、自分自身のこともわかっていなかった。なんとなく、そう思う。 1997 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2019 その2。ポケットにはひとつだけ 普段は入らない雑貨屋に寄った。無意識だったけれど、もしかしたら近づいてきたアイツの誕生日が関係しているのかもしれない。 店内のめまぐるしさは、慣れない。圧、とでも言うのだろうか。俺の背より高くに詰まれた商品はそれぞれが主張しあっていて、譲らないぞとでも言うように色彩を撒き散らしている。BGMは騒がしくて、なんだか不思議な、正体のわからない匂いがする。 忙しい場所だな、と思う。雑貨屋で働いてたという、年上の後輩を思い出す。この喧噪の中で働いていたということか。純粋に、すごいと思った。 賑やかさの渦の中、ここにアイツが欲しがるものはないのかもしれないと、そう思った矢先にそれを見つけた。 灰色の手触りのよいまんまる。ボタンが二つと三角の皮。口と鼻こそないが、それは猫の形を模したがま口だった。 2883 85_yako_pDONE同棲10年目の虎牙。牡蠣を食べてるだけ。(2020/04/28)醤油、レモン、ポン酢 コイツと暮らし始めて十年。俺たちがこの家に住み始めて今年で八年目。 愛とか恋とかじゃなくて、ただ隣りにいるのが自然だった。妹を見つけて、弟を見つけた。俺たちが納得できる高みにだって到達した。その気になればマンションだって買えるんだ。現に円城寺さんはビルをまるっと買い上げたわけだし。 それでも俺はコイツとのんびり暮らしている。下町にはなりきれない、でも田舎と言うのは失礼な穏やかな場所。小さな駅には改札が一つしか無くて、八百屋があって魚屋があって、馴染みの洋食屋が一点。スーパーは二つ。老人が多い町だ。接骨院と銭湯が多め。そんなところ。駅から十五分近く歩いたところに立ってる築五十年の木造一軒家。二階建て庭付きで驚きの6LDK。毎年家中の畳を取り替えて暮らす、そういう生活。 3202 85_yako_pDONEサイバネの少年兵におったまげて書いたカイとレッカの会話。後に矛盾する。(少年兵を知った瞬間に書いたやつ)ダイナー・タバコ・チョコレート 生きることにしがみついていた人生だが、振り返ってみると器用に生き延びたほうだと思う。生きたかった意味は忘れたが、死にたくないと思っていたことは確かだ。 飯が食えるって聞いたから、兵を見つけたときに真っ先に志願して生活を変えた。銃が使えれば生き残る確率が上がるから銃を覚えた。俺は飲み込みが早かったから弾除けや地雷避けで捨て駒にされる回数が減って、俺の代わりに矢面に立たされたみたいなやつらを見送った。 同じような年の連中が死んでいく中で、俺はずいぶん大きくなったほうだと思う。そういえば、チョコレートだって一番多くもらっていた。その日アンドロイドを一番殺したやつがもらえる甘い菓子。欲しい物だって、手に入れてきたんだ。 2814 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2020。大人数でわちゃわちゃ。One-off letter アイツに手紙を書くのが流行っている。 大河タケルはそれをただ眺めていたが、傍観者ではいられなくなった。 * きっかけはタケルと共にゲームをよく遊ぶ友人間の遊びだった。 今五人が夢中になっているゲームでは、友人に手紙を出せる。大吾が手紙関係の仕事をしたことも相まって、メモ程度の小さなものだがお互いに現実世界でも手紙を送り合うのがちょっとしたブームになっていたのだ。 こういったことは伝染していく。恭ニはみのりやピエールに。隼人はバンドメンバーに、大吾は大好きな二人へ、志狼は大切な友人に手紙を出した。素直な二人は思いのまま、何気ない話なんかを。素直になれない二人は普段言わない気持ちなんかを。それが人を笑顔にしていく様子を、タケルは少しの思い出とともに見つめていた。 6509 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2019。これ(https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=722200&TD=4695085)の続き。選ぶならこっち 何か、選ばせてやりたかった。きっと、アイツも何かを選んだことがないと思ったから。 選ぶということが幸せなのかはわからなかったけど、それはきっと寂しいことではないから。 「いろんな種類のある食べ物?」 「ああ……俺はカップラーメンくらいしか思いつかなくて……」 事務所には年の近い人間が集まっていた。食べ物なら巻緒さんや咲さんが詳しいだろうと思って声をかけると、そばにいたHigh×Jokerのみんなが集まってきた。 「カップラーメンでは駄目なんですか?」 旬さんが不思議そうに訪ねてくる。「ラーメン、好きなイメージがありますけど」 「いや、好きなんだが……なるべくならラーメンは避けたい」 ラーメンは円城寺さんがアイツに振る舞う。俺もその場所にいる予定なのだ。カップラーメンはかぶってしまうし、円城寺さんのラーメンと比べたら見劣りするだろう。 5597 85_yako_pDONE大河タケル生誕祭。たぶん2018年。イチゴの乗ってないケーキ 言い方は悪くなるが、不器用とバカってきっと紙一重だ。もう夜も遅い時間に現れた来訪者にそんなことを思う。 ちゃぶ台の上に乗せられた、バカでかい箱が四つ。その箱を開ければ色とりどりのケーキが、数えるのもバカバカしいほどに入っている。そのケーキはどれもこれもが傾いたり崩れたりしていて、この箱を運んできた人間がコイツであることを証明するみたいに佇んでいた。 部屋には俺とコイツしかいない。事務所のみんなとだって分け合えそうな量のケーキは、俺と、コイツ、二人で分け合うにはあまりにも多い。 「なんだよ」 不機嫌そうに、コイツが言う。早く選べ、とケーキを指差す。一つとして同じ種類のないケーキは、何件も何件もケーキ屋をハシゴして、全部の店で、そこにあるケーキを全部買い占めたんだろうな、っていうのがわかる。 2125 85_yako_pDONEタケルと漣のすれ違い。(いつ書いたのかわからない)ずれていくアイツの声が出なくなった。 昨日の夜は大雨で、泊めたアイツが目覚めたのがさっきの話。金魚のようにパクパクと動く口からはなんの音も出てこない。昨日の夜は、雨音が意識の外に向かうほど快活に踊っていた声が、失われている。 表情と、現状。大方朝飯のことを言っているんだろうとあたりをつけて、トースターで温めたパンを差し出せば、不機嫌そうな顔で何やら言っている。きっと、量が足りないんだろう。 「これしかないんだ。オマエが突然くるのが悪い」 不満げな顔。動く口元。パクパク。 「事務所に行く途中に何か買ってけばいいだろ」 きっと、仕方ねぇとかそんなことを言ってるんだろう、パクパクと動きながら、薄っぺらいトーストを飲み込んでいく口。 742 85_yako_pDONEワードパレット14「マタル」キーワード「曇天・滴る・水溜まり」四季と漣。(2019/07/25)マタル 曇天。普段は憂鬱なそれをオレは受け入れた。まるで、この空がオレの気持ちを代弁してるみたいって思ったから。 泣いちゃいたかったけど、代わりに泣いたのは空だった。一過性の通り雨が、悲しみのように勢いを増す。きっと雨は通り過ぎるけれど、このぐちゃぐちゃな気持ちにゴールなんて見えない。 ぽた、ぽた。髪から滴る雫はそのまま水溜まりの一部になる。オレのもやもやみたいなものが、地面に広がっていく。上も前も向きたくなんてなかったから、その憂鬱な池を見ていた。 こんなの、すぐに止む。それが癪だった。雨が終わっても雲が切れても、意地でも顔をあげたくなかった。オレはずっと、この悲しみをネコっちを抱くように温めていたかった。自分の持ち物なんて、たったこれだけだと本気で信じていた。手放したら、心のどっかもくっついてって、なくなっちゃう気がしてた。水溜まりにはぐちゃぐちゃの自分。映し出された悲しみが水滴で揺れる。 942 85_yako_pDONEナンジャサイバネがきたときの発狂(2019/06/18)踊る阿呆に踊らされる阿呆「いやぁ、たまにはこういうお祭りもいいもんだな!」 エンドーの陽気な声に、カイは短く同意を返す。カイ自身はと言えば、祭りに乗っかるには少しばかりの羞恥はあったのだが、たまの息抜きだと楽しめたのは事実だ。 戦いあったアンドロイド達と、一時全てを忘れて餃子なんかを食べたりしたのは何だか不思議な気持ちだった。仏頂面のアンドロイドは最後まで笑うことはなかったけど、同じ味の餃子をずっと食べていた。アンドロイドに食べ物の好みがあるのか。そう問えば「そういう祭りだ」と返された。 だが、帰宅してしまえば祭りは終わりだ。夢から自らを解放するように、つけていた猫耳としっぽを外す。手には非日常の象徴が残り、それが感傷のようなものを引っ張り出す。「ああ、終わったんだな」 1625 85_yako_pDONEお題をもらって書いた短文。じろちゃん。(かなり昔)味に例えば 溶けたアイスが手首を伝う。 なんてことない、たんなる比喩だ。夏空に溶けた青春の思い出なんてものが、べたべたとこの手を汚していく。 ぺろり、舐めてみようか。甘い味なんてしない。わかってるよ。甘い味どころか、必死に汗をかくことすら忘れたこの体からは塩気すらしない。漂うのは、諦めたような肉の味だけだ。 そんな自分も指導者とやらになって、少しは味のある人間になったつもりだった。 だってね、出会うなんて思ってなかったんだ。この身を焼き尽くす情熱というやつに。 「できれば君たちにも手伝ってもらいたい」 隣からはやるやる、と気軽な声。おじさんを射止める二つの視線。ああ、夢見る一攫千金よ。 こくり、頷いて見せる。こうなりゃやってやろうじゃない。その情熱に焼かれてみるのも悪くない。 384 85_yako_pDONEタケルと漣とブランケット(2019年あたり?)ふわふわとごわごわ アイツの持ち物を俺は一つしか知らない。 それを知ったのは秋の頃だったと思う。寮にアイツの居場所があるのを知ったのも、その日が初めてだったはずだ。 部屋番号を聞いて、歩いて、ノックをして。ノックをしても返答はなくて。 そのまま帰ってしまえばよかったんだ。それでも、苦し紛れみたいにドアノブをひねったのは意地以外の何物でもない。ただ、俺は円城寺さんの焼いたマフィンを持ち帰る先を知らなかったんだ。円城寺さんの家に置いておけば、きっとアイツは食べたはずなのに。 ドアノブをひねればいとも簡単に扉は開いた。歓迎なんてされているわけもないのに踏み入れる。無造作に転がった靴は、主の存在を示している。声は聞こえない。歩みは止まらない。 1661 85_yako_pDONE大河タケルの見た夢。極彩色と銀夢を見た。現実ではありえない光景だったのに、見ている間は夢だと認識できない。そんな夢。 極彩色に埋もれている。最初は部屋の一角にぽつんとあったオモチャやカラフルなお菓子は、夢特有の突拍子のなさで爆発的にその量を増していく。 やがて部屋一杯になったそれは津波か雪崩かのように俺を押し流して外へと溢れていった。外にでてもそれらの増殖は止まらない。 カラフルな雪崩にせき止められてクラクションを鳴らす車もまた原色で色とりどりの列をなしている。目がちかちかする。 ああ、こんなんじゃ。見つけられない。 泣き出すか、叫び出すかしたかった。すると目に一瞬だけ銀の光が目に入った。光を反射した、アイツの髪だった。 目を覚ますと、まるで縋るようにタオルケットを抱きしめていた。 3015 85_yako_pDONE道流の見た夢の話。(2018/06/17)月と海と銀の猫「円城寺さん、コイツ死んでる」 突拍子もない言葉が背中から投げかけられる。それでも俺はそれを明日の天気予報を聞くような感覚で受け入れた。 一通り夕飯で使った皿を洗い終えてから振り向けば、ちゃぶ台の横で丸くなっている漣の髪をタケルが手で梳いていた。 「死んでるのか?寝てるんじゃなくて?」 「うん。死んでる」 近寄って漣の顔を見る。普段から真っ白な顔は作り物めいていて、生きているだとか死んでいるだとかはちょっとよくわからない。少し離れて見るぶんにはそれは普段の漣のような気がした。 「埋めなくちゃ」 挨拶をされたら挨拶を返しましょう。それくらいの義務感でもってタケルは言う。俺はと言えば動かなくなった漣の頬に触れてみたところで、その陶器のような温度と手触りに、ようやく漣が死んでいることを実感した。 1936 85_yako_pDONEタケルと漣の夜会話(2018/09/15)夜は子供たちのためにきっと漣がタケルの家に来たのは、星の見えない夜だったから。 ここのところ、涼しくなってきて雨が多い。その雫をよけるようにすいすいと、いろいろな屋根の下をうろつく猫のようなこの生き物を、タケルは少しのため息と共に受け入れた。 漣は相変わらず文句が多い。先日言った温泉がどうもお気に召したらしく、タケルの家の風呂を狭いと言っていた。 着替えを貸せば小さいと文句を言われる。だったらオマエが着替えを持ってこい。タケルはそう思う。 電気を消してしばらく、タケルが思いついたように口を開いた。 「オマエでも、約束とかするんだな」 「は?」 心当たりがないと言った様子の漣に、タケルはリンゴの赤さを教えるように口を開く。 「温泉で。ほら、来年の話、してただろ」 1058 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2018。2017年の母の日に書いた母の日の話です。蜂蜜色の夢拝啓 お母様へ 街に華やかな広告が増えたように思う。鮮やかな赤。呼応するように花屋の店先には真っ赤なカーネーションが並んでいる。広告塔がせっつくようにまくし立ててくる。『母の日の準備はお済みですか?』 「母の日ぃ?」 アイツのどうでもよさそうな疑問符。その疑問は俺に向けられたものではない。アイツは俺に何も聞かない。 質問を向けられた円城寺さんは少し困ったように答える。いつも通りのやりとりだ。 「ああ、漣は知らないのか。えっと……母の日って言ってな。まぁ、母親に日頃の感謝を伝える日だな」 一番よくあるのは赤いカーネーションをあげることかな。あとは晩ご飯を作ってあげたり、家事を手伝ってあげたり。カーネーション以外の贈り物をする人もいるだろうな。過去にそうしたことがあるのだろう、記憶を辿るように円城寺さんが口にする。アイツはそれをつまらなそうに聞いている。自分で聞いたくせに。 7011 85_yako_pDONE東雲さんと漣。(2019/06/29)甘い香りに騙されて 牙崎漣が様々な屋根の下を渡り歩いて覚えたこと。その中のほんの一部。 彼が「カフェなんとかのケーキ作るやつ」と呼ぶ男──名を東雲という──の家に行けば甘いものが食べられるということ。甘く満ちる香りの温度を自分は案外好きだと言うこと。パンケーキの生地を生のまま舐めるとやんわりと窘められるということ。 そして、その男は気まぐれに来訪しても自分を無碍にしないこと。 今日、牙崎は甘いものが食べたかった。ラーメンではなく、甘いものが食べたかった。だから、足は彼がらーめん屋と呼ぶ人間の家には向かず、普段は曲がらない角を右に。 当然のように目当ての家の扉を叩けば、いつものように東雲が出迎えた。彼は漣を見て柔らかく笑ったあと、まだ何もできていないこと、これから気まぐれな来訪者の為に何かを作るということを告げた。 995 85_yako_pDONEラーメン食べたい夜に書いた。タケルと漣。(2019/06/24)なんてことない夜になんてことのない夜に うまくいかない日ってのはある。きっと、誰にでも。 今日は行きがけにベッドの足に小指をぶつけた。変装用の帽子が木枯らしに吹き飛ばされて川に落ちた。仕事では納得の行く演技ができなくて撮影を長引かせてしまったし、気に入っている靴の紐は切れた。男道ラーメンは味玉が売り切れていたし、帰り道は猫にも会えない。 今日だけだ、わかってる。だけど、こんな日は何もかもうまくいかない気がしてしまう。そんなもんだから、寒いというそれだけの理由でうちにきた銀色の猫に、なんだか安心してしまった。なんか、それだけはいつもと変わらないことのようなことの気がしたから。 「ラーメン食いてぇ」 その言葉に振り向くと、コイツは一切の遠慮もなく、俺の服を着て我が家の安いベッドの上に転がっていた。風呂上がりの髪がぺしゃりとしている。せめて、今夜みたいに冷える冬の夜くらい、乾かせばいいのに。 4860 85_yako_pDONE穴を掘る漣。遭遇するタケル。(2018年頃?)穴 ザク、ザク、ザク。 定期的に音が聞こえてくる。その音を合図に意識が浮上する感覚。どうやら眠っていたようだ。ザク、ザク、ザク。さして大きくもない音が響いている。その音以外は見当たらない。やたらと静かな空間。 そもそも、俺は眠っていたのだろうか。ぼや、と靄のかかったような思考は寝起きのそれだ。だが、何か違和感がある。でも、その正体が掴めない。まぁ、眠っていたんだろう。 ぱち、と。目を開いても視界は暗いままだった。夜なんだろうか。明かりをつけようとリモコンに手を伸ばすが、手が掴んだのはざら、という感触の何か。 いつも枕元に置いているリモコンがない。いや、そもそも枕がない。あろうことか、布団すらない。 2702 85_yako_pDONE牙崎メイン。全員死ぬ。(2020/01/25)河岸の白魚 全員死んだ。 最初はらーめん屋が血を吐いた。ケホ、と一度咳をしたと思ったら、次の瞬間には両膝をついてアスファルトを血まみれにした。円城寺さん、って言いたかったんだろう。チビが口を開いて「え、」と言ったが、次いで口から出たのは言葉ではなく血で、ぐらりと倒れたチビは派手に倒れて鈍い音を立てた。 意味がわからなかったが、異変は止まらない。あらゆる人間が血を吐いて地面に突っ伏していく。あっという間に人間の絨毯が出来上がった。 らーめん屋の電話を取り出して片っ端から電話を掛ける。下僕、四季、それからもう事務所の人間全員。誰も出やしない。電話の鳴る音をかき消すように派手な衝突音が聞こえていた。 振り向けば、車がそこかしこに突っ込んでぶっ壊れていくのが見える。コンビニだとか、知らないビルだとか、定食屋だとか。割れたガラスが太陽をきらきらと反射していて、今日は日差しが暖かいってことに気がついた。 2051 85_yako_pDONEケーキが食べたい漣の話。(2019年頃……?)優しい人星が見え始めた寒空の下、牙崎漣は苛立っていた。クリスマスという文化に苛立っていた。それは宗教上の理由でも、彼が今たった1人でクリスマスと言う日を歩いているからでもなかった。それは今に始まった話だった。彼はほんの一時間前までは上機嫌だったのだ。 彼が初めて体験したクリスマス。そこで彼が得た恩恵は計り知れない。色とりどりのケーキ。かぶりつけと言わんばかりの骨付きチキン。バラエティに飛んだピザの群。食べ盛りを満足させる、肉がたっぷりと乗ったサラダ。飲み慣れない、しゅわしゅわとした爽やかな飲み物。そして、事務所の全員で交換しあったプレゼント。重ねて言おう、彼は本当に上機嫌だったのだ。 小さな子供もいる事務所だ。帰りを待ちわびる家族がいる人も少なくない。事務所でのパーティーは昼前から始まり、夕方には終わった。後片付けなど面倒だと、誰にもバレないように彼は事務所を出た。本当は、数人にはバレてることに気がついていた。ただ、それが優しさなのかは彼にはわからなかった。 2523 85_yako_pDONEカイとケイン。殺伐。(2019/09/22)みつけてくれて、ありがとう『お前ら人間は死ねていいよなぁ! 俺はただ、壊れるだけだ!』 そう叫んだのはいつだったっけな。空の色なんが覚えちゃいない。でも、こんな曇天じゃなかった気がする。どうでもいいんだけどさ。 死ぬなんて思ってなかったのが偽りの記憶のなかにいるガキの俺。 死ぬつもりはなかったのが人間だと思い込んでいたときの俺。 もう二度と死ぬことができないのが、今の俺。 ああ、壊れるんだな。俺は。 「……抵抗は不可能だ。お前はもうじき死ぬ」 真っ青な髪はこの世界に似合わない。もう、久しく青空を見ていない。コイツの言葉は、俺の世界からもう消えちまったんだ。 「……俺が、死ぬのか?」 俺は、壊れるだけだ。それなのに、何を勘違いしたのかコイツは言う。 590 1234