85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 440
ALL タケ漣 大河タケル 牙崎漣 カプなし 花園百々人 天峰秀 くろそら 百々秀 鋭百 100本チャレンジ モブ 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 わからん アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ76「寒」(2020/11/06)野良猫は懐かない 最近の寒暖差はなんだと言うのだ。 今月に入ってから少し寒いが、羽毛布団を出すのは億劫で厚着をして眠っていた。そんなことをしていたら一週間前にポカポカ陽気がやってきて、慢心していたらその三日後には凍えていたような気がする。で、羽毛布団を出したら翌日の陽気は九月。ふわふわした熱の塊をベッドの端に押しやって眠れば朝には凍えていて、アイツが床からベッドに移動して俺で暖を取っていた。そんな距離も昨日は遠のいて、今日は寒いのにアイツはいない。寒くなければ来ないアイツも、今日は暖かいと読み違えたんだろう。 アイツは雨の日だとか、寒い日とかにやってくる。今月は来るタイミングを間違えっぱなしだ。ふらりと来た夜が暖かいと、なんだか妙にいたたまれない顔をして、床で転がって静かにしている。俺はそんなアイツを見るのがなんだか嫌だ。 2761 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ75「ハロウィン」(2010/10/30)ハッピー罰ゲーム 玄関の扉を開けば、台風がそこにいた。 「トリック・オア・トリート! チビ、持ってる菓子全部よこしな!」 仮装も何もせずに、コイツはそう言い放って手のひらを差し出した。 俺はと言えば、呼吸や思考が止まるほどではないが、ちょっと驚いた。 「……ハロウィンは知ってるんだな」 「あ? 常識だろ」 常識ではない。まぁ菓子がもらえる祭ってのは記憶してるんだろう。それでもやはり気になってしまうのだ。部屋にコイツを招き入れながら問いかける。 「……いつ知ったんだ?」 コイツの人生の転機はふたつある。俺に殴られた瞬間と、アイドルになった瞬間。出会いから俺はずっとコイツと一緒にいるけれど、知らないことは山ほどある。 「んー……ああ、旅してたときにヤギのいる村でなんかそれっぽいことをやった気がすんだよな。そんときゃ意識してなかったが……あれがハロウィンだろ。なんか言うと菓子がもらえるってのはこっち来て知った」 1914 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ73「奪」(2021/02/05)余生は二人で旅に出ようか 少し寄りたいところがある。そう言ったのは道流だった。 タケルはじゃんけんで負けたので重たい缶詰の詰まったエコバッグを持っていたが、文句を言うことはしない。数歩先を歩いていた漣が面白くなさそうに歩調を緩め、道流の数歩後ろに移動した。 立ち寄ったのはクリーニング屋だった。普段は利用しない店だ。彼らの衣装はいつも他人の手によって整えられているし、クリーニングが必要な衣類には出番があまりない。そもそも、タケルと漣は手入れが必要な衣類自体を持っていない。漣に至っては、ここがどういう店なのかすら理解していなかった。 道流が引き取ったのは真っ黒な服だった。タケルは少しだけ心当たりがある。礼服か、喪服だろう。どちらなのか、それを聞くことはしなかった。 3985 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ52「あか」捏造しかないクロファンです。(2020/07/26)あしたにはさよなら クローがナンバー持ちになるそうだ。アイツとしては念願が叶うということなのだが、オレは複雑な気分でもある。実のところ、アイツの願いはオレと一緒にいることであって、ナンバー持ちというのは手段だからだ。 まあ、ナンバー持ちには条件がある。誰もがみんな通る道だ。単純に、目を弄る。それだけ。 弄られた目は赤くなって、みんなで仲良くお揃いって寸法だ。これを『家族』の証と言うから笑わせる。まっとうな家族があるやつはこんな仕事してねえよ。寄せ集めのガラクタでもう意味なんてなくなる単語に縋っているのは滑稽を通り越して哀れだ。まあ、ここにマトモなやつはいねえから、オレが憐れむ男は一人しかいない。 で、クローも目を弄くられてオレとおそろいになるわけだが、それはナンバー持ちになる最終試験と言ってもいいだろう。オレも経験したくだらねえ試験──目を弄られると、数日は世界が真っ赤に見えるって言うくだらねえ現象だ。ここで発狂なんてしようものなら人生単位の落第だが、ここまで残るやつで気の触れたやつは見たことがない。だって、どうせもう狂ってるんだ。いまさら狂いようもない。 3154 85_yako_pDONE漣が万能薬になる話です。少し血が出たりします。不穏ですが多分しれっと治るししれっと生きます。(2021/09/18)毒にも薬にもならないアイツが万能薬になった。なってしまったとも言える。万能薬なんてゲームの中の存在だと思ってた。アイツがあれば、どんな病気だって治るってことに、なってる。 なぜアイツの髪や爪が万能薬になるとわかったのかを俺は知らないが、その事実を知られたアイツの髪はあっという間に出会ったときよりも短くなった。最近はそれなりに整えられていた爪は深爪気味になって、そこからささくれが絶えなくなったあたりでアイツは数日姿を消した。姿を消したと言っても行き先はみんな知っていたし、アイツもそこに行くことを拒否していなかったから俺はなにも言えない。もっとも、そこに行くことを喜んでいるようには見えなかったんだけど、それだけじゃ俺はなんにも言うことができない。 2621 85_yako_pDONE飲酒すると夢見心地で宙に浮くタイプの牙崎漣(成人の姿) 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ116「ライブ」恋愛感情じゃないけど、将来的にタケ漣なのでタケ漣です。(2021/08/20)ワンサイドゲーム『ライブ中継』の文字が左上にへばりついている午後三時。画面の中には大河タケルがいる。 「タケル、頑張ってるなぁ」 道流の言葉を肯定も否定もせずに漣はひとつあくびをした。タケルの緊張は道流の部屋を満たすほどではないが、真剣な目つきからはそれなりの緊張が伺える。 タケルはいま、生放送で新作ゲームをプレイしている。ノーミスでステージ3までをクリアできるか、というかがこの番組の趣旨らしい。この企画には事務所のゲーム好きたち数名が参加していて、いまのところ成功者は恭二ひとりだった。くじ引きで決まったことだが、タケルの順番は最後だった。 漣は不思議な気持ちだった。画面のなかのチビは見たことがある。いっそ見慣れたと言ってもいいだろう。個別の仕事が増えてから、自分のいない画面に彼がいるのは当たり前のことで、でもそれは過去の大河タケルなのだ。この状況は初めてだ。 1688 85_yako_pMAIKINGミハレナ。これで完成でもいいんだけど、本題には入っていないんだよなぁ~って感じ。(DoS本編出てすぐくらい?)運命なんてクソ食らえ 抱けるもんだな、ってのが正直な感想だった。同僚でも、男でも、大嫌いな人間でも。 大嫌いな男はたいそう賢いバカだった。仕事はできて指示は的確で発言は理路整然。そのうえ他人の表情も感情だって読めるくせに、勝手に懐に入れた人間にはどうにも頭が回らない男。それがレナートという男だった。 俺はレナートが大嫌いだった。エリートなんてみんな嫌いだと思っていたが、どうやらコイツは特別みたいだ。特別に嫌いだった。大嫌いだ。 うんと嫌いだったから、とびきりに優しくする必要があった。糖衣のような甘さで何重にも本心を覆い隠して、出会い頭にぶん殴らないように笑顔を張り付けて、要望はなるべく叶えて、なんならついでにコーヒーだって淹れてやった。全部、特別だったからだ。特別に大嫌いだから、特別に扱わなくちゃ会話どころか同じ空間にいることだってできなかったから、おれはいつだってアイツを大切に扱った。 1206 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ114「遊」(2021/08/06)不公平ゲーム「シユー?」 「試遊、な」 「ふーん」 俺の手元を覗きこんでいたコイツは頬に触れそうなほどの距離をあっけなく離す。シユーの意味を聞かなかったのは興味がなかったわけではなく、単純に面白くないという気持ちが勝ったのだろう。 さっき散々プロデューサー相手に騒いでいたから、言いたいことはもうないらしい。それでも気が済んでいるかといえばそうではなく、俺のことをじっと見つめている瞳は不満げだ。 「……なんだ?」 「チビだけかよ」 「オマエはゲーム好きじゃないだろ」 俺の手元には、まだ販売されていないゲームがある。俺が何度かインタビューやトークで「好きなんだ」と話していたゲームの続編、そのテストプレイをなんと俺が担当することになったのだ。 4855 85_yako_pDONE真実が正しいとは限らない 85_yako_pDONE七夕のドラスタ 85_yako_pDONE勉強出来ないタイプのメガネ 85_yako_pDONE理解が浅い時代に神速ヤクザに脅されて20分で書きました。こうやって言い訳をする時点でお察しなのですが、記念にアップしました。(2018より前)黒野玄武は嘘を吐く 黒野玄武は嘘を吐く。 極稀に、意味のない嘘を。 朱雀はと言えば玄武の言動、その一つ一つを全面的に信用しているため、騙される。それはもう簡単に。 玄武は吐いた嘘をその場で撤回するため害はないが、もしも玄武がその嘘を黙っていたら、きっと困る。だが、朱雀は玄武を疑わない。 まだ、冬ではない。でも、冬のように寒い。朱雀はこの季節の名前を知らない。秋と呼ぶには冷たすぎる。でも、暦の上では冬でもない。名も知らぬ季節の風に晒されながら、玄武ならこの季節の名前を知っているのだろう、と思う。名前も知らない存在が、朱雀にはたくさんある。 「布団、まくるなよ」 「ああ」 朱雀の忠告を玄武はそのままに受け入れる。だから朱雀はいつも理由を言い逃がす。こたつの中ににゃこがいるから。理由が宙ぶらりんのまま、二人はコタツで暖をとる。 1209 85_yako_pDONE聖職者モブが漣に狂う話。情欲はない。(2020/01/28)と或る聖職者の独白と或る聖職者の話 朝がきた。平穏な、代わり映えのない、満ち足りた朝が。 私は小さな協会を任されている聖職者だ。昼は小さな教会に、夜はもっと小さな家に住んでいる。 不足無く、過剰無く。家はこのくらいの大きさが一番いい。妻と住んでいたときは多少手狭に感じていたが、いまとなってはこの家が私にしっくりときている。手の届く範囲のものがいい。 少しの上り坂を歩いたところにある小さな教会が私の仕事場だ。居場所と言った方がより正確か。シンプルな、建物が教会を名乗るために必要な最低限の設備だけがある。壁が白いところと、毎年ツバメが巣を作る祈りの場が、私は特別に好きだった。 ひとりのとき──あるいはここに訪れた人が言葉を必要としていないときに聞こえるのは町内放送の音、鳥の鳴き声、子供の声、そして、遠くに町の息遣いだけだ。差し込む木漏れ日にも音がある。私は人々には音を聞くように伝えている。 4227 85_yako_pDONEミハレナ。ミハイルは死んでいる。(2021/07/18)愛していたと言ってくれ. 髪を切ったから、もしかしたらすぐには僕だと気づかないかもしれない。墓参りへの道中、そんなことを思う。 なんせミハイルは死者だ。死者には記憶の更新ができないだろうというイメージが、僕の中にはふわりと存在していた。 髪を切ったのはイメージチェンジなどではなく、そこに僕の意志はない。単純に制圧対象に髪を掴まれ身動きが取れなくなっていた僕の髪をダニーのナイフが切り裂いて拘束を解いてくれたことがあったという、それだけの話だ。 僕はそれ自体になんら問題はないと感じている。それなのに、ダニーは自分が信じられないと、ただ僕に対して謝罪をしてきた。自分の腕なら髪ではなく、敵の手を貫くことができたはずだ、と。 「そんな時もあるだろう」 1933 85_yako_pDONEファッショナブル道漣。友人へ捧げました。(2021/07/09)4匹の勇者猫と真っ赤なピエロのパイナップル(mikan). 正直、嫉妬している。年下の恋人に執着して、あろうことかその友人──16才の少年相手に嫉妬をしてしまっている。 自分は寛容な方だと思っていた。なるべく漣には自由にしていてほしいし、束縛する気は毛頭ない。そのつもりだったがこんなに些細な、漣に言わせたらくだらないと一蹴されそうなものごとにこだわるとは。 漣はよく人から服をもらう。 自分もジャケットをあげたことがあるが、たいていは四季からもらった服を着ている。確かに四季はセンスがいいし、その季節に着やすい服を選ぶし、ちゃんと漣のために動きやすい服を見繕う。それでいて四季からもらったと一目でわかるような個性もある。この個性が問題なのだ。正直に言うと、恋人をほかの男に染め上げられているようで、ほんの少しだけ気になってしまう。本当に少しだけ、だ。それでも一度気にするとそれは意識に度々浮上してしまう。 5331 85_yako_pDONE道漣。意気地なしな大人の道流です。クイズに正解したフォロワーに捧げました。(2021/07/06)全問不正解「らーめん屋」 さっきまで寝っ転がっていた漣が音もなくそばによってきてぴたりと寄り添った。じとりとした上目遣いでこちらを見て、無言で何かを待っている。 これは漣が最近覚えた遊びだ。自分たちTHE虎牙道がテレビに出るようになって知った遊び。もっとも、本人が遊び以外の意味を見いだしていたとして、それは自分にはわからないのだが。 漣は最近、自分にクイズを出してくる。 漣はクイズを知らなかった。いや、問いかけは当たり前にしていただろう。しかし、それを勝負のように扱うことを初めて知った。 漣はクイズ番組を知らなかったのだ。 知ってるか、知っていないか。それがそのまま勝負になるのだと知った漣は、しかしそれをタケルに仕掛けることはなかった。 1554 85_yako_pDONE道漣。劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライトを見てもらったお礼に書いた。推敲してない。(2021/07/07)六畳一間ホームシアターバトル「円城寺さん、これ」 タケルから差し出された袋の心当たりはなかった。大きさは台本よりは小さいほどか。バラエティの台本よりも一回り薄い。 きょとんとしていたら、困惑はタケルにも伝播してしまった。タケルもきょとんとしたあとに、困ったような、苦いコーヒーを口にしたときのような表情をする。 「えっと……アイツから聞いてないのか?」 「……漣が?」 要約するとこうだ。 タケルと隼人、そして恭二の三人で映画の話をしていたらしい。とても面白い映画で、タケルはDVDを買ったそうだ。 あそこが面白かった。ここが熱かった。そんな話に花を咲かせていると、ふらりとやってきた漣が聞いてきたらしい。 「それ、おもしれーのかよ?」 5033 85_yako_pDONEDob/Subタケ漣。(2021/06/26)俺はオマエの運命じゃない俺はオマエの運命じゃない 世の中には決まりごとがある。 沈んだ太陽が必ず昇るだとか、降り止まない雨はないだとか、生き物は一日ずつしか年が取れないだとか、いつか人間は死ぬとか、そういうの。 俺みたいな一部の人間が持っている性もそのひとつだと思ってる。持っているって言ったけど、押しつけられてるって言ってもいいかもしれない。世間とか、心とか、いるとしたら神様あたりに押しつけられたどうにもできない衝動だ。 ダイナミクス。生殖器で区別のつかない第二の性別。 人間の分け方はいろいろあって、ダイナミクスでも人は分類できる。俺みたいにSubのことを支配したいって思うDomと、俺みたいなDomに支配されたいって思うSub、あとはどっちでもない人とか、どっちにもなれる人とか。 12002 85_yako_pDONEDoS幻覚。スパイ×交渉人立ち絵のみの情報で書きました。(2019年?)プレゼント・フォー、「よう姫さん! ちょっといいか?」 俺の軽口にくるりと銀のしっぽがなびく。俺の持っている荷物を認めると、笑みは少しだけ深くなった。 「なんだ? またオレ様に献上品か。懲りないな、アンタも」 「ま、そう言わずに受け取ってくれよ」 くしゃ、とキレイに包装されたプレゼントを手渡せば、呆れ顔で同期がため息をついていた。俺がこのお姫様に何かしらを貢いでいるのは多くの人間にとって見慣れた光景だ。こうやって俺は呆れるほどかわいい子猫の気を引きつつ、大人気なく周囲を牽制してみせる。まあ、戦いしか脳のないやつ曰く、それは無駄な行動らしい。誰もこの性悪をかっさらっていったりはしない、だと。そんなことはないと思うんだがな。 2832 85_yako_pDONEDoSの幻覚。名前以外情報がない状態で書きました。(2019?)餌付けをしてる交渉人「……オマエら、またやってんのか」 大股でソファに座るミハイルと、その足の間に座り込んだ見た目だけはいい男。丁寧に整えられた爪でテーブルに乗ったピオーネをつまみながら、その体重をミハイルの胸板に預けている、レナートとかいう交渉人。 何度か見たが、見慣れない光景だ。長いこと友人をやってきたが、ミハイルのこんなバカ面を拝む日がくることになるとは。 「お? なんだ。羨ましいか?」 低く威圧感のある声はどろどろに砂糖がまぶさっていて、子煩悩の父親に情欲を足すとこんな感じになるんだろう。本心でも冗談でも通用しそうな言葉に少し頭が痛くなる。羨ましいわけ、ないだろ。 「そう思うならよっぽど脳がイカれてるぞ。仕事以外でソイツと関わりたくない。一人で食う飯のほうがうまいだろ」 1699 85_yako_pDONEプロミにおったまげて書いた天道と桜庭。(2018/03/20)王手「王手」 パチリ、という小気味よい音が事務所に響く。桂馬が盤上を駆ける音。 天道はニヤリと笑い、自らの勝利を確信した上機嫌な言葉を桜庭に投げかける。 「なぁ、『天道のことなら十手先まで読める』んじゃなかったのか?」 「ヘタクソな物真似をやめろ。不愉快だ」 そう腹立たしげに言葉を吐きながら桜庭が銀を動かす。パチリ、という先ほどよりは小さな音。この一手は桜庭の意志ではない。こう動かさないと「詰み」だからだ。 「そうしないと負けだもんな。わかるぜ。ああ、俺のほうがよっぽど、桜庭のこと、わかってるみたいだな?」 そう言って天道はまた駒を進める。得意げな笑みで、あと二手で終わりだと宣言までして。 ところが桜庭は天道の思い通りには動かなかった。少し前に奪った角を盤上に叩きつけ、天道の顔を見やる。「王手」の言葉と共に。 515 85_yako_pDONE××の独白。捏造。(2018/05/11)とある男の独り言 日本にはひさびさに来た気がする。ここは食べ物こそうまいが、利便性のある街は決まってくだびれたスーツの群れがゾンビのように徘徊しているか、日本という閉鎖空間で独自の文明を築いた若者が自分のようなオジサンには理解不能な行動を取っているかのどちらか、あるいはその両方だ。 今日も例に漏れず、女学生達が群れている。相変わらずよくわからない。だが、華やかでいいことだと嫌みなく思う。子供は好きだ。若者は宝だ。見ていたい、関わっていたいと掛け値なしに思う。そんな彼女達は操られたように首を上に傾け、頭上のモニターを見つめている。何かが始まるらしい。 突然、爆音とともにモニターに流れる映像と音楽。ひきつけを起こしたように一斉に黄色い歓声をあげる彼女達。何事かとモニターを見るより早く、耳に馴染んだ懐かしい声が大音量で鼓膜を揺らす。 1524 85_yako_pDONEどうあがいてもタケ漣。(2018年くらい)ラブソングのように 口付ける、噛み付く、舐める、飲み込む。 そんなことよりも、もっと簡単に愛は確かめあえるはずなのに。 「オマエは俺のこと、好きって言わないな」 好き、って言葉が形になる前に不満が出た。正直、やっちまったと思った。 でも、今更撤回もできやしない。本心だ。 俺の目をじと、と睨み付けて、アイツはつまらなそうに出て行った。 一日目、耳元にはらりと舞った葉が「好きだ」と囁いた。振り向いても、誰もいなかった。風が、笑い声みたいな高い音で空に昇った。 二日目、眺めた月が静かな声で「好きだ」と呟いた。通りすがりのカップルがキスをしてた。世界で、確かに二人きりだった。 三日目、しゃがんだ膝に乗り上げて、頬に擦りよった銀の猫が「好きだ」と耳を舐めていった。ひらり、膝から飛び降りた猫は路地裏に消えた。 687 85_yako_pDONEクローとセブン(2018/05/29)冬空に硝煙 初めて人を殺した感覚を未だに覚えている。 大きい、壁みたいな背中。そこに思い切り体当たりをするつもりでぶつかった。 殺意はあった。死んでしまえと思ってぶつかった。どうしても、どうしても邪魔で、明確にその死を願って大きな背を押した。 セブンがその孤児院を訪れたのは、早い話が下見だ。そこにターゲットが通っていた。それだけの話だった。決して、慈善事業に目覚めたわけではない。 ターゲットは俗に言う地上げ屋の類だった。組織に依頼をしたのはその地上げ屋に立ち退きを強要されている孤児院の主、その人だった。報酬は決して安くないのに、人の命を奪うことなのに、孤児院の主は依頼を撤回することはなかった。それだけの覚悟を持って依頼をしたということだろう。 1692 85_yako_pDONEA-30(ファング)とC-13(2018/05/25)友達「A-30」 呼び声は二度、三度と続いたが声をかけられている青年は下を向いたまま反応がない。 呼びかけていた(こちらはお世辞にも青年とは言いがたい)少年はつまらなさそうに目を細め、青年へと近づいた。 少年が無遠慮に青年の肩を掴めば、その手は思い切り引かれ背中から地面に叩き付けられた。空いた手で拳銃を構える青年を少年は相変わらずつまらなそうに見上げている。 「……なんだ、C-13。上のお人形さんかよ」 人を地面に押さえつけた人間とは思えないほど不遜な態度でA-30と呼ばれていた青年は少年を解放した。少年は一貫してつまらなさそうな態度で、青年に対して口を開く。 「珍シい。反応が鈍い」 「ああ?うっせ」 「ファングと呼んだ方がよかったか?」 1337 85_yako_pDONE友達の書いたプロットを私が書くやつだった。クリスさんの話。(2018年くらい)ネオンテトラ 海が好きだった。でも、水槽は、苦手だった。 海にいれば争うことのない生き物たちも、水槽に押し込めると争いを始めてしまうことがある。狭い世界。そこで何かが狂うのだろうか。そうして歪になってしまった小さな世界をいくつも見てきたし、そのうちのいくつかを経験してきた。 一番最初にその水槽の中に放たれたと意識したのはずいぶんと昔の話だろう。背はこんなに高くなかった。私はまだまだこどもだった。 教室。きっと、誰もが初めて投げ入れられる水槽はここだ。私も、同じようにここに放たれた。 そうして、自分が放たれた水槽のバランスが崩れていくのを見た。自分にはその理由がわからない。水槽の中にいる誰かに聞けば、わかるのだろうか。考えて、否定する。きっと、答えなんてないと思う。誰もが狂っていくバランスを理解しつつ、その原因も、自分自身のこともわかっていなかった。なんとなく、そう思う。 1997 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2019 その2。ポケットにはひとつだけ 普段は入らない雑貨屋に寄った。無意識だったけれど、もしかしたら近づいてきたアイツの誕生日が関係しているのかもしれない。 店内のめまぐるしさは、慣れない。圧、とでも言うのだろうか。俺の背より高くに詰まれた商品はそれぞれが主張しあっていて、譲らないぞとでも言うように色彩を撒き散らしている。BGMは騒がしくて、なんだか不思議な、正体のわからない匂いがする。 忙しい場所だな、と思う。雑貨屋で働いてたという、年上の後輩を思い出す。この喧噪の中で働いていたということか。純粋に、すごいと思った。 賑やかさの渦の中、ここにアイツが欲しがるものはないのかもしれないと、そう思った矢先にそれを見つけた。 灰色の手触りのよいまんまる。ボタンが二つと三角の皮。口と鼻こそないが、それは猫の形を模したがま口だった。 2883 85_yako_pDONE友達の誕生日祝いに書いた春隼(昔に書いた)プロデューサー!おめでとう! なんで未だにバイトを続けてるかって言うと、純粋に楽しいから。 そりゃ、部活とかアイドル活動とか恋人とのデートとか、優先順位が高いものはたくさん増えてきた。それでも、今までお世話になって一緒に笑い合ったりしていた人との時間をゼロにできるかと言ったら答えはノーだ。高校を卒業して、環境が変わったら変わってくる関係もあるとは思うけれど、プロデューサーがこうやって自由になる時間を作ってくれているんだ。まだ、そこまで大きく変わることはないんじゃないかなって、そう思う。 それに、バイトが最優先事項を連れてくることもある。オレはそろそろ上がり。隼人は仕事が終わってしばらく経った頃。 挨拶をして、おつかれさまでした。ついさっきまで誘導灯を振っていた場所から数分程度の公園に向かう。行き道であったかいコーンスープを買ったりして、ひんやりとしたベンチに座る。 3439 85_yako_pDONE同棲10年目の虎牙。牡蠣を食べてるだけ。(2020/04/28)醤油、レモン、ポン酢 コイツと暮らし始めて十年。俺たちがこの家に住み始めて今年で八年目。 愛とか恋とかじゃなくて、ただ隣りにいるのが自然だった。妹を見つけて、弟を見つけた。俺たちが納得できる高みにだって到達した。その気になればマンションだって買えるんだ。現に円城寺さんはビルをまるっと買い上げたわけだし。 それでも俺はコイツとのんびり暮らしている。下町にはなりきれない、でも田舎と言うのは失礼な穏やかな場所。小さな駅には改札が一つしか無くて、八百屋があって魚屋があって、馴染みの洋食屋が一点。スーパーは二つ。老人が多い町だ。接骨院と銭湯が多め。そんなところ。駅から十五分近く歩いたところに立ってる築五十年の木造一軒家。二階建て庭付きで驚きの6LDK。毎年家中の畳を取り替えて暮らす、そういう生活。 3202 85_yako_pDONEサイバネの少年兵におったまげて書いたカイとレッカの会話。後に矛盾する。(少年兵を知った瞬間に書いたやつ)ダイナー・タバコ・チョコレート 生きることにしがみついていた人生だが、振り返ってみると器用に生き延びたほうだと思う。生きたかった意味は忘れたが、死にたくないと思っていたことは確かだ。 飯が食えるって聞いたから、兵を見つけたときに真っ先に志願して生活を変えた。銃が使えれば生き残る確率が上がるから銃を覚えた。俺は飲み込みが早かったから弾除けや地雷避けで捨て駒にされる回数が減って、俺の代わりに矢面に立たされたみたいなやつらを見送った。 同じような年の連中が死んでいく中で、俺はずいぶん大きくなったほうだと思う。そういえば、チョコレートだって一番多くもらっていた。その日アンドロイドを一番殺したやつがもらえる甘い菓子。欲しい物だって、手に入れてきたんだ。 2814 85_yako_pDONE薔薇の世話をするミハレナ(2020/09/06)薔薇の棘も知らず 朝と夜は涼しくなったが、まだ暑い。少しばかり手心を見せた日差しは凶悪さこそ身を潜めたが、夏は終わらないと言いたげな光を惜しげもなく降らせて目の前で揺れる銀のしっぽをきらめかせた。 そんな季節でもスーツを脱がない男が今日は作業着を着ている。エリートが農夫の真似事をしているのは少しばかり愉快だが、コイツと二人きりで歩いているものだからおれの機嫌はよろしくない。そして、その不機嫌を表に出せないことは、どんなに窮屈なスーツを着込むことよりも息苦しかった。だから、おれは毎日息が詰まっているんだ。 しかしジーパンの似合わない男だ。半袖だって似合わない。要塞みたいな、バリケードみたいな、そういう服装ばかり見てきたから、どうにもこうにも無防備に見えてしょうがない。神経質そうな色白の肌はラフな格好に溶け込むこともなく、頼りなく陽の光に晒されていた。あっという間に真っ赤になりそうなもんなのに、それははまだ透き通った白さ以外の表情を見せたことがない。肌の色さえ、気に入らない。 3368 85_yako_pDONESF(少し不思議)四季漣(2021/02/22)Moonlight drops 月がきれいですね。 意味を知ったばかりの言葉をぽつりと呟いた夜は美しい満月の夜だった。寒くて真っ暗な冬の日だった。星のきれいな、それだけの夜だった。 素敵なことが始まる予感なんてひとつもなくて、ただオレは冷たい夜をテクテクと歩く。のんびり今度カラオケで歌おうと思ってるヒットソングなんかを歌ってみたら、街灯に照らされてオレの息が白く濁った。 コンビニに、行くだけ。恋も、冒険も、ファンタジーも始まる予感はない。別に明日でも済むような用事を後回しにしなかった理由を、どうやらオレは覚えていない。 何を買ったのかも覚えていない。あの日はオレにとって、寒い日でもコンビニに行った日でも受験の三日前でもない、特別な日だったから。 3581 85_yako_pDONEコインランドリーとタケ漣(2018/10/18)コインランドリー汚したシーツを放り込もうと洗濯機の蓋を開けた俺の目に飛び込んできたのは、昨日同じ理由で汚したシーツが湿り気を帯びたままで布の塊になって鎮座している様だった。そういえば、昨日洗濯機をまわしてそれっきりだった。 替えのシーツはこれしかない。さてどうしたものかと悩んでいると、狭い洗面所に風呂上がりのアイツが出てきた。バスタオルを渡してやるが、ろくに髪を拭かない。髪、乾かしておけよ。そう言って入れ違いに風呂に入った。アイツほどではないけど、俺だって汗まみれだったし汚れてもいた。 風呂から上がっても、シーツは汚れたままだしアイツの髪は湿っていた。考えたくもないが、床には脱ぎ捨てた衣類も転がっている。 丸裸のベッドを見て考える。シーツをかけないで寝るか、バスタオルでもしいて寝るか。深夜一時半を刻む秒針の音に思考を委ねていたらふと思いついたことがある。 2362 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2020。大人数でわちゃわちゃ。One-off letter アイツに手紙を書くのが流行っている。 大河タケルはそれをただ眺めていたが、傍観者ではいられなくなった。 * きっかけはタケルと共にゲームをよく遊ぶ友人間の遊びだった。 今五人が夢中になっているゲームでは、友人に手紙を出せる。大吾が手紙関係の仕事をしたことも相まって、メモ程度の小さなものだがお互いに現実世界でも手紙を送り合うのがちょっとしたブームになっていたのだ。 こういったことは伝染していく。恭ニはみのりやピエールに。隼人はバンドメンバーに、大吾は大好きな二人へ、志狼は大切な友人に手紙を出した。素直な二人は思いのまま、何気ない話なんかを。素直になれない二人は普段言わない気持ちなんかを。それが人を笑顔にしていく様子を、タケルは少しの思い出とともに見つめていた。 6509 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2019。これ(https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=722200&TD=4695085)の続き。選ぶならこっち 何か、選ばせてやりたかった。きっと、アイツも何かを選んだことがないと思ったから。 選ぶということが幸せなのかはわからなかったけど、それはきっと寂しいことではないから。 「いろんな種類のある食べ物?」 「ああ……俺はカップラーメンくらいしか思いつかなくて……」 事務所には年の近い人間が集まっていた。食べ物なら巻緒さんや咲さんが詳しいだろうと思って声をかけると、そばにいたHigh×Jokerのみんなが集まってきた。 「カップラーメンでは駄目なんですか?」 旬さんが不思議そうに訪ねてくる。「ラーメン、好きなイメージがありますけど」 「いや、好きなんだが……なるべくならラーメンは避けたい」 ラーメンは円城寺さんがアイツに振る舞う。俺もその場所にいる予定なのだ。カップラーメンはかぶってしまうし、円城寺さんのラーメンと比べたら見劣りするだろう。 5597 85_yako_pDONE大河タケル生誕祭。たぶん2018年。イチゴの乗ってないケーキ 言い方は悪くなるが、不器用とバカってきっと紙一重だ。もう夜も遅い時間に現れた来訪者にそんなことを思う。 ちゃぶ台の上に乗せられた、バカでかい箱が四つ。その箱を開ければ色とりどりのケーキが、数えるのもバカバカしいほどに入っている。そのケーキはどれもこれもが傾いたり崩れたりしていて、この箱を運んできた人間がコイツであることを証明するみたいに佇んでいた。 部屋には俺とコイツしかいない。事務所のみんなとだって分け合えそうな量のケーキは、俺と、コイツ、二人で分け合うにはあまりにも多い。 「なんだよ」 不機嫌そうに、コイツが言う。早く選べ、とケーキを指差す。一つとして同じ種類のないケーキは、何件も何件もケーキ屋をハシゴして、全部の店で、そこにあるケーキを全部買い占めたんだろうな、っていうのがわかる。 2125 85_yako_pDONEタケルと漣のすれ違い。(いつ書いたのかわからない)ずれていくアイツの声が出なくなった。 昨日の夜は大雨で、泊めたアイツが目覚めたのがさっきの話。金魚のようにパクパクと動く口からはなんの音も出てこない。昨日の夜は、雨音が意識の外に向かうほど快活に踊っていた声が、失われている。 表情と、現状。大方朝飯のことを言っているんだろうとあたりをつけて、トースターで温めたパンを差し出せば、不機嫌そうな顔で何やら言っている。きっと、量が足りないんだろう。 「これしかないんだ。オマエが突然くるのが悪い」 不満げな顔。動く口元。パクパク。 「事務所に行く途中に何か買ってけばいいだろ」 きっと、仕方ねぇとかそんなことを言ってるんだろう、パクパクと動きながら、薄っぺらいトーストを飲み込んでいく口。 742 85_yako_pDONEワードパレット14「マタル」キーワード「曇天・滴る・水溜まり」四季と漣。(2019/07/25)マタル 曇天。普段は憂鬱なそれをオレは受け入れた。まるで、この空がオレの気持ちを代弁してるみたいって思ったから。 泣いちゃいたかったけど、代わりに泣いたのは空だった。一過性の通り雨が、悲しみのように勢いを増す。きっと雨は通り過ぎるけれど、このぐちゃぐちゃな気持ちにゴールなんて見えない。 ぽた、ぽた。髪から滴る雫はそのまま水溜まりの一部になる。オレのもやもやみたいなものが、地面に広がっていく。上も前も向きたくなんてなかったから、その憂鬱な池を見ていた。 こんなの、すぐに止む。それが癪だった。雨が終わっても雲が切れても、意地でも顔をあげたくなかった。オレはずっと、この悲しみをネコっちを抱くように温めていたかった。自分の持ち物なんて、たったこれだけだと本気で信じていた。手放したら、心のどっかもくっついてって、なくなっちゃう気がしてた。水溜まりにはぐちゃぐちゃの自分。映し出された悲しみが水滴で揺れる。 942 85_yako_pDONEタケ漣とアイス(2020/09/20)おうちでできること 例えばアイスがその筆頭。そもそもが向いていないものばかりだけれど。 片手が塞がるのが致命的。まぁ、これはほとんどがそう。冷たいのもいまはいただけない。一気に食べると腹が冷えるから、ゆっくり食べるしかなくなるわけで。もうひとつは溶けていくこと。制限時間があるから放っておけない。あげく、このタイプは溶けたら手を汚す。この手でぺたぺたと触れたら確実に汚れてしまうだろう。 まぁ、ゲーム中にものを食べるなという話だ。 それでも俺はいま、アイスを食べている。厳密に言うと、食わされている。 俺がポッキンソーダと呼んでいた、馴染みのないアイスだ。ガリガリくんに真ん中から切り取り線をいれたみたいなこのアイスは棒が二本ついていて、はんぶんこを前提に作られているものだとわかる。(そう、俺は三人兄弟だから無縁のアイスだったのだ) 2113 85_yako_pDONEナンジャサイバネがきたときの発狂(2019/06/18)踊る阿呆に踊らされる阿呆「いやぁ、たまにはこういうお祭りもいいもんだな!」 エンドーの陽気な声に、カイは短く同意を返す。カイ自身はと言えば、祭りに乗っかるには少しばかりの羞恥はあったのだが、たまの息抜きだと楽しめたのは事実だ。 戦いあったアンドロイド達と、一時全てを忘れて餃子なんかを食べたりしたのは何だか不思議な気持ちだった。仏頂面のアンドロイドは最後まで笑うことはなかったけど、同じ味の餃子をずっと食べていた。アンドロイドに食べ物の好みがあるのか。そう問えば「そういう祭りだ」と返された。 だが、帰宅してしまえば祭りは終わりだ。夢から自らを解放するように、つけていた猫耳としっぽを外す。手には非日常の象徴が残り、それが感傷のようなものを引っ張り出す。「ああ、終わったんだな」 1625 85_yako_pDONEお題をもらって書いた短文。じろちゃん。(かなり昔)味に例えば 溶けたアイスが手首を伝う。 なんてことない、たんなる比喩だ。夏空に溶けた青春の思い出なんてものが、べたべたとこの手を汚していく。 ぺろり、舐めてみようか。甘い味なんてしない。わかってるよ。甘い味どころか、必死に汗をかくことすら忘れたこの体からは塩気すらしない。漂うのは、諦めたような肉の味だけだ。 そんな自分も指導者とやらになって、少しは味のある人間になったつもりだった。 だってね、出会うなんて思ってなかったんだ。この身を焼き尽くす情熱というやつに。 「できれば君たちにも手伝ってもらいたい」 隣からはやるやる、と気軽な声。おじさんを射止める二つの視線。ああ、夢見る一攫千金よ。 こくり、頷いて見せる。こうなりゃやってやろうじゃない。その情熱に焼かれてみるのも悪くない。 384 85_yako_pDONEタケルと漣とブランケット(2019年あたり?)ふわふわとごわごわ アイツの持ち物を俺は一つしか知らない。 それを知ったのは秋の頃だったと思う。寮にアイツの居場所があるのを知ったのも、その日が初めてだったはずだ。 部屋番号を聞いて、歩いて、ノックをして。ノックをしても返答はなくて。 そのまま帰ってしまえばよかったんだ。それでも、苦し紛れみたいにドアノブをひねったのは意地以外の何物でもない。ただ、俺は円城寺さんの焼いたマフィンを持ち帰る先を知らなかったんだ。円城寺さんの家に置いておけば、きっとアイツは食べたはずなのに。 ドアノブをひねればいとも簡単に扉は開いた。歓迎なんてされているわけもないのに踏み入れる。無造作に転がった靴は、主の存在を示している。声は聞こえない。歩みは止まらない。 1661 85_yako_pDONEミハイル死後のミハレナ。DoS設定発表前(2020/08/02)ミハイルと煙草とくだらない夜 もともと生きているって実感なんざ痛みと苦さと酩酊くらいしかなかったが、死んだ実感ってのは生きている実感以上に希薄なものだ。そもそも死んでもなお意識がある人間ってのがどんだけいるのかはわからないが、亡霊の信憑性が薄いのだ。これはレアケースなんだろう。 おれは死んだ。ユーリーとかいうガキに殺された。いや、単純に引き金に指をかけたのがアイツだっただけで、おれを殺したのはイグニスで、世間で、生まれだろう。そのどれもをおれは恨んでいて──ああ、恨んでいると言えば、いけ好かないメガネのことも恨んでる。なんでコイツだけをと思ったが、きっとキールのことはあまり恨んでいないのだ。だって、おれはいま、レナートにだけ取り憑いているんだから。 5103 85_yako_pDONE大河タケルの見た夢。極彩色と銀夢を見た。現実ではありえない光景だったのに、見ている間は夢だと認識できない。そんな夢。 極彩色に埋もれている。最初は部屋の一角にぽつんとあったオモチャやカラフルなお菓子は、夢特有の突拍子のなさで爆発的にその量を増していく。 やがて部屋一杯になったそれは津波か雪崩かのように俺を押し流して外へと溢れていった。外にでてもそれらの増殖は止まらない。 カラフルな雪崩にせき止められてクラクションを鳴らす車もまた原色で色とりどりの列をなしている。目がちかちかする。 ああ、こんなんじゃ。見つけられない。 泣き出すか、叫び出すかしたかった。すると目に一瞬だけ銀の光が目に入った。光を反射した、アイツの髪だった。 目を覚ますと、まるで縋るようにタオルケットを抱きしめていた。 3015 85_yako_pDONE道流の見た夢の話。(2018/06/17)月と海と銀の猫「円城寺さん、コイツ死んでる」 突拍子もない言葉が背中から投げかけられる。それでも俺はそれを明日の天気予報を聞くような感覚で受け入れた。 一通り夕飯で使った皿を洗い終えてから振り向けば、ちゃぶ台の横で丸くなっている漣の髪をタケルが手で梳いていた。 「死んでるのか?寝てるんじゃなくて?」 「うん。死んでる」 近寄って漣の顔を見る。普段から真っ白な顔は作り物めいていて、生きているだとか死んでいるだとかはちょっとよくわからない。少し離れて見るぶんにはそれは普段の漣のような気がした。 「埋めなくちゃ」 挨拶をされたら挨拶を返しましょう。それくらいの義務感でもってタケルは言う。俺はと言えば動かなくなった漣の頬に触れてみたところで、その陶器のような温度と手触りに、ようやく漣が死んでいることを実感した。 1936 85_yako_pDONEタケルと漣の夜会話(2018/09/15)夜は子供たちのためにきっと漣がタケルの家に来たのは、星の見えない夜だったから。 ここのところ、涼しくなってきて雨が多い。その雫をよけるようにすいすいと、いろいろな屋根の下をうろつく猫のようなこの生き物を、タケルは少しのため息と共に受け入れた。 漣は相変わらず文句が多い。先日言った温泉がどうもお気に召したらしく、タケルの家の風呂を狭いと言っていた。 着替えを貸せば小さいと文句を言われる。だったらオマエが着替えを持ってこい。タケルはそう思う。 電気を消してしばらく、タケルが思いついたように口を開いた。 「オマエでも、約束とかするんだな」 「は?」 心当たりがないと言った様子の漣に、タケルはリンゴの赤さを教えるように口を開く。 「温泉で。ほら、来年の話、してただろ」 1058 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2018。2017年の母の日に書いた母の日の話です。蜂蜜色の夢拝啓 お母様へ 街に華やかな広告が増えたように思う。鮮やかな赤。呼応するように花屋の店先には真っ赤なカーネーションが並んでいる。広告塔がせっつくようにまくし立ててくる。『母の日の準備はお済みですか?』 「母の日ぃ?」 アイツのどうでもよさそうな疑問符。その疑問は俺に向けられたものではない。アイツは俺に何も聞かない。 質問を向けられた円城寺さんは少し困ったように答える。いつも通りのやりとりだ。 「ああ、漣は知らないのか。えっと……母の日って言ってな。まぁ、母親に日頃の感謝を伝える日だな」 一番よくあるのは赤いカーネーションをあげることかな。あとは晩ご飯を作ってあげたり、家事を手伝ってあげたり。カーネーション以外の贈り物をする人もいるだろうな。過去にそうしたことがあるのだろう、記憶を辿るように円城寺さんが口にする。アイツはそれをつまらなそうに聞いている。自分で聞いたくせに。 7011 45678