桜リタルダンド 鋭心先輩が桜に攫われてしまった。何を日科学的でバカなことをって思うでしょ? 俺もそう思う。
鋭心先輩と、俺と、百々人先輩。桜並木を名乗るには少しばかり力不足と言えるような、まばらな桜の中を俺たちはのんびりと歩いていた。丁寧で暖かい時間だったと思う。俺たちは仕事帰りで、次の仕事の話なんかをしながら、たまに視界を横切る桜の花びらに目を細めていた。
あっ、という間だった。眼前を完璧な形で通り過ぎた桜の薄桃色に視界を奪われた刹那、その向こう側に鋭心先輩の姿はなく、呆気に取られたような百々人先輩が頼りなく眉を下げていた。
「……消えた?」
「……どこにもいない……よね?」
消失マジック。ドッキリ企画にしては非現実的で撮れ高もない。こういうとき俺の取る行動は天才に相応しくない凡庸なもので、咄嗟にできたのはスマホを取り出して鋭心先輩に電話をかけることくらい。
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