85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。 歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。 明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。 4310 85_yako_pDONEヘキだけで書いたタケ漣です。タケルくんが非常に失礼です。憐憫萌え。(2024/8/20)所有「オマエ、プール行ったことないだろ」 チビがそう言ってオレ様を見た。真っ青な瞳の奥に憐れみに似たものを感じて嫌になった。蝉も鳴けないような陽射しの下で、言葉がカゲロウに揺らめいている。 チビがオレ様を憐れむことはないと言い切れるが、チビは自分の当たり前をオレ様が知らないと、どうしようもないほどに苦しそうな顔をする。チビは憐んではいないんだろうが、オレ様がその視線に名前をつけるとしたら『憐れみ』という言葉が一番しっくりくるんだからどうしようもない。 そういう、チビ自身が気がついていない妙な癖にオレ様は気がついている。 プールに行ったことがないなんて、これっぽっちも口にした覚えはない。ただ少し前に学校で撮影があったときに、コイツの前で学校には行ったことがないとは口にした。その時からなんだか小骨が刺さったような顔をしていたから、きっとプールってのは学校に行ったことがない人間には縁がないところなんだろう。 2581 85_yako_pDONEデキてるカイレ(タケ漣)のいちゃつきです。レッカが小悪魔で終始優位。タイトルの半分はまえだちゃんが考えました(2024/8/18)おめかしハニー 紐付けというのはなかなかどうして馬鹿にできない。条件反射とも言えるそれはうまく仕組めればこれほど面白いものはないと、レッカという男は思っている。 ただでさえ人を食ったような男なのだから、他人が自分の思い通りに動いたり困惑したりすることに罪悪感などはなく、愉快だという気持ちしかないのだろう。 パブロフの犬、だなんて言葉があるくらいだから、目の前の人間が犬のように自分の行動に従う様はさぞかし彼を満足させるに違いない。そして彼が興味を持っている人間は数少ないのだから、その少数が餌食になることは想像に難くなかった。 わかりやすく、御し易い。そして何よりレッカのお気に入りであるという条件を全て満たすのは彼のバディであるカイだった。何も全てのおいて可愛らしい彼を振り回し、管理まがいのことをしたいわけじゃない。毒は一滴だけ垂らすから望み通りに回るのだと、聡明なレッカはわかっている。 2334 85_yako_pDONEクロファン(タケ漣)です。ファングがスラム育ちで文字が読めないという捏造があります。(2024/8/16)フロム、ダーリン ファングには週に一度、手紙が届く。 ハートのシールが貼られたそれは俗に言うラブレターで、差出人はクローだ。便箋にはクローの気持ちが綴られているのだが、封筒が開封されることはない。 「なんだその手紙は」 「知ってて聞くな。クローからのラブレターだよ」 「読んでやればいいのに」 セブンの口調は揶揄というよりは苦言を呈するものだった。その苦笑いの意味をファングはわかっている。 「わかってんだろ。オレは読み書きなんざできねぇんだよ」 彼が育ったスラム街では文字の読み書き以上に大切なことなどいくらでもあったから、読み書きができないこと自体はファングにとってなんの負目でも問題でもない。 そんなファングの事情を理解した上でラブレターを渡してくる少年のことをファングは好ましく思っている。手紙を受け取っても理解することのできない男のために、人を殺すための指先で愛を綴る。その行為はファングにとって、どうしようもなく愚かで愛おしいものだった。 1606 85_yako_pDONEカイレ(タケ漣)です。レッカの安心毛布の話。嘔吐あり。(2024/8/16)鉄屑まみれのシャングリラ 部屋は鉄屑とオイルの匂いに満ちていた。 その部屋の主はきらきらとした銀の髪を闇に沈めて深々と眠っていた。猫のように、あるいは胎児のように体を丸め、はちみつ色の双眸を目蓋の下に隠している。その周囲には鉄屑や解体されたガジェット、そして工具が散乱している。子供が玩具箱をひっくり返して、その全てを自分の手の届く範囲に散らかしてそのまま眠ってしまったようだった。 部屋の主人はレッカという、アンドロイドに育てられた人間だった。彼の世界には埃とオイルと鉄屑が満ちていた。もっとも人生の大半はこの組織に所属してからのものだから単純な時間にしたらその割合は多くないが、幼少期の記憶というのは在り方を左右するほど大きく離れ難い。だから彼にとって、安眠を呼び込むのはいつだって冷たく鋭利な金属とべたべたとした油の匂いだった。 2303 85_yako_pDONE夏の夜とタケルと漣と死体です。タケ漣です。雰囲気です。(2024/8/12)サマー・ナイト・ダンス 深夜、だったと思う。時計を見る前に電話に出たから正確な時間はわからないが、頭がぼんやりとして仕方がなかった。 「ぁい……」 「チビ」 その声に飛び起きてスマホを落としてしまった。急いで拾い上げた画面にはアイツの名前があって、脳が一気に覚醒する。アイツが電話してくるだなんてよっぽどの……いや、初めてのことだった。しかもこんな夜中に、だ。 何があったのかと身構えてしまうのは当然で、心臓がバクバクいっている。これでたんなる気まぐれだったら文句のひとつやふたつ言う権利はあるだろう。 俺はコイツの言葉を待った。コイツがなかなか喋らないから、ずいぶん長いこと黙ってたと思う。 「……おい、用がないなら」 「死んでる」 4644 85_yako_pDONEタイミングが悪かったタケ漣のギャグです。このあと両思いになる。100本チャレンジその56(2024/6/26)本当に関係ない 三日後のクリスマス、俺はアイツに告白する。 好きだと気がついたのはいつからだろう。いきなり現れて俺をチビと呼び追い回し、アイドルになってからも当たり前にそばにいて、それが日常になって。 多分明確な境界などはなく、陽が自然と高く昇るようにいつの間にか好きになっていったんだと思う。気がついてしまったらどうしようもなかった。隠し通すことも考えたが、自分自身の気持ちに区切りをつけないとうまく呼吸ができないんだ。 クリスマスに告白するのは良くないだろうか。もしかしたらせっかくのクリスマスに嫌な気持ちにさせるかもしれない……いや、断られてもアイツの記憶に残れるという薄暗い打算があったのかも。単純にきっかけが欲しかっただけかもしれないし、俺が意外とロマンチストだって可能性もある。 640 85_yako_pDONEデキてるタケ漣とタケ漣を理解してる道流の宅飲みです。初恋トークします。捏造です。(2024/6/26)初恋トークで盛り上がろうぜ タケルが酒を飲めるようになって数ヶ月が経った。タケルと漣と自分の三人で酒が飲める日を待ち侘びていたが、三年は経過してみればあっという間だったように思う。 タケルはいろんな種類の酒が飲めるから居酒屋で飲むのが嫌いではなかったが、漣は明らかに宅飲みを好んでいたから、三人で飲むときは自分の家が多い。家に酒の種類は多くないが、つまみは自分で言うのもなんだがうまいと思う。今日も自分がつまみを作り、タケルと漣が持ってきた酒で宅飲みをした。 二人は愛し合って付き合っているのだから自分抜きで飲んでもいいと思うが、こうして来てくれるのは素直に嬉しい。こうやって飲んで、いろいろなことを話して、二人が同じ家に帰るのを見送る。たまに二人を家に泊める。昔と変わらない──いや、それ以上に深くなった関係は変わらずに心地よかった。 1662 85_yako_pPASTダニレナ(タケ漣派生)のギャグエロです。経験のないレナートがえっちなお姉さんを目指す話。(ダニーはそこそこ経験があります)フォロワーが書いた嘘表紙の中身を書きました。だいぶ昔に書いた話です。全体的にノリで読んでください。 15154 85_yako_pPAST昔出したタケ漣同人誌です。かなり昔のものです。半分猫の連です。イチャイチャしてます。解釈とか無視して猫の連を愛でたい気持ちで書いた素直な話です。Love Me Moreこの本の漣はネコチャンなので甘えたです。 普段の解釈を無視してただ猫になった漣を愛でたい気持ちだけで書きました。 全体的にイチャイチャしてます。 --------------- 1 オレ様は猫である。名前は牙崎漣。 厳密には人間なんだが、全部が全部人間かと言われるとそれは違う。まぁ猫と呼ぶには人間すぎるんだけど。 そもそもオレ様は人間だと猫だのって枠には収まらないからどっちだろうが関係ない。最強大天才は最強大天才だ。半分だけ猫になれるってだけだ。 一応、これは秘密ってことになってる。最強大天才に隠し事なんてのはいらないが、親父が「このことは心から信頼できる人間以外には言うんじゃない」とか言うもんだから、まぁそのくらいなら聞いてやってもいいかと思ってるだけだ。別に言いたい相手もいないし、言いたいとも思わない。秘密ってか、『言ってないこと』とか『言う必要のないこと』ってのが正しいだろう。 39969 85_yako_pDONEできてるタケ漣。COD連動ストーリー前の話です。タケルが漣の気持ちをひとつも知らないのが好きです。(2024/3/25)食物連想ゲーム 人は誰かを忘れる時、まずはその声を忘れる。 こんな嘘か本当かもわからない話を聞いたのはドラマの撮影現場だった。円城寺さんが出演したドラマを見学しに行った時に、なんとなく見覚えのある男優がそう言っていた。 もちろんこんなのはセリフでしかないし本当かどうかもわからない。それでもその言葉は脳にこびりついて鈍色に揺れている。なんだか試されているみたいで気分が悪かった。 妹と弟の声はまだ覚えている。大丈夫、と何度目になるかもわからない納得を自分自身に与えながらぼんやりとテレビを見ている。ひとりだったらきっと「大丈夫、」って口に出していたかもしれないけど、いまは隣にコイツが転がっているから意識して口を閉じていた。 1859 85_yako_pDONE事後のタケ漣です。100本チャレンジその45(2023/12/9)水の音、手繰る心音 だだだだだ、っていう水の音を聞いている。 水音をなにかに喩えようとしてすぐにやめた。俺は言葉も物事も知らなければ洒落た言い回しも知らないし、これは何に喩えるでもない、たんなる水の音だから。 横に座ったコイツは俺の肩に頭を預けて目を閉じるでもなくぼんやりとしている。俺たちの接触っていうのはさっきまで散々お互いを引っ掻きまわしていた性的なやりとり以外には存在しないと思っていたのに、コイツは当たり前に俺の体温を奪って、俺に体温を移して、熱を行ったり来たりさせていた。 ずーっと水の音がしてる。風呂に湯を張る音がしてる。べたべたになったコイツが珍しく「シャワーはヤダ」って言ったから、何に喩えるでもない水の音を聞いている。 1354 85_yako_pDONE数年後同棲的なタケ漣が食べ歩きして過去を振り返る話です。秋はカツオもうまい。 円城寺さんの家で秋刀魚を食わせてもらった。 俺もアイツも自炊はしないから旬のものってあんまり親しみがないけど、円城寺さんは季節に応じたものを食べるし俺たちにも振る舞ってくれる。旬のものは栄養もあっておいしいって言ってたし、食べると寿命が伸びるとも言っていた。 俺たちは秋刀魚をごちそうになって家に帰る。数年前だったらバラバラだった帰り道も、行き先が一緒になった今では並んで歩く道になった。あの家をアイツはただ寝床にしているだけだと言うが、俺はあそこが二人の家だと思っていて、簡単に言えば俺はアイツと同棲しているつもりだった。 あやふやなのは好きじゃないから俺はちゃんと好きって言ったんだ。好きって言ったし、俺と暮らそうって言った。そうしたらアイツがつまらなそうに「好きにしろ」って言ったから、俺は好きにしてるし当たり前みたいにアイツも勝手にしてる。停滞というより、ぬるま湯というより、なんだか毛布にくるまってるみたいな安心感があって──そりゃもう少し進みたいけれど、まだいいかなぁなんて思ってる。 14580 85_yako_pDONE2023年タケ漣WEBオンリーのネップリ企画(テーマは食欲の秋!)で書いた、タケ漣のSF(少し不思議)です。人を食ったような男の話ですが、グロでもカニバでもないです。犬も食わない。 秋といえば食欲の秋だ。でも、食欲の秋だからってなんでもかんでも食べていいってわけじゃないだろう。まして、人を食べるだなんて。 人を食ったような性格、という言葉はアイツにピッタリだけど、まさか本当に人を食うとは思わないじゃないか。しかも、俺が食われるとは夢にも思っていなかった。 人生で、何かに食われることがあるなんて考えたこともなかった。アイツは意味がわかんないやつだけど、ここまで意味がわからないやつだとは。 俺が食われたとは言っても、それは捕食みたいな猟奇的なことではなくて……なんていか、隠すって感じなのかなってぼんやり思う。食われた自覚はあるけれど、俺は無傷で意識もはっきりある。 なんというか、和風のホラーゲームで見たような、神隠しと似ている感じがする。あれは帰り道のことだったか。アイツが大きく口を開けた瞬間、一瞬だけ意識が暗転して気がついたら俺は知らない場所にいた。よくわかんないけど、ぱくりと丸呑みにされたって──食われたって感覚がある。 2439 85_yako_pDONEタケ漣のラブコメです。傲慢なタケルくん。(2023/9/28)落ちた アイツが池に落ちた。冗談みたいな落ち方だった。 池の周り、っていうランニングコースを選んだのは俺だけど、コイツが勝手に落ちただけで──まぁ俺に責任はないが人の心はあるので、助けなければと池を覗き込む。 すると突然池が光り出した。結構眩しかったけど今は早朝というのもあって、それを見ていたのは俺だけだ。 光が収まると、そこには女の人がいた。きれいな人なんだろうけど、なんとなく印象に残らない。そんな顔をしている。 水の中から現れた女は、水の中から現れた女が言いだしそうなことを言う。 「あなたが落としたのは、あなたのことが好きでたまらない牙崎漣ですか? それとも、あなたのことを好きでも嫌いでもない牙崎漣ですか?」 1799 85_yako_pDONE2019年の8月に出した同人誌のweb再録です。ダニレナ。Is romantic a fake1 もともと情に近いものはあった。愛情とも、友情ともつかない気持ちが。 僕はチームのメンバーが好きだ。キールは気が合わないだけで嫌いではない。ミハイルとだって仲良くやれていると思いこんでいた。ユーリーだって大切なメンバーだし、リーダーのことは自分がその立場になって改めて尊敬の念を抱いている。当然、ダニーのことだって大切だ。みんなが好きだ。でも、ダニーだけが特別になった。 なぜだろう、と思う。当然だと気づく。必然が手のひらにある。たくさんの理由があって、僕はそのうちのいくつかだけを知っている。 僕はダニーと組むことが多かった。守られることが、多かった。 どうしたって僕の身体能力には限界があって、僕の命には責任がある。状況によっては僕の代わりに危険を引き受ける人間が必要で、そこに僕の意志が介入する余地はない。そして、その役目を背負うのは大抵がダニーだった。 13977 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ46「スタート」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。タケ漣。開演ブザー「チビ! 勝負だ! 事務所まで先についたほうが勝ちだからな!」 言うが早いか、アイツはあっという間に駆け出した。いや、オマエはさっきまでたいやきを食べていたはずだろう。少し円城寺さんと話してただけで、すぐこれだ。円城寺さんに視線をやれば、その目は『いってこい』と告げている。別に行く義理なんてないのだが、例え無茶苦茶なオレ様ルールに基づいた判定でも、得意分野で負けるのは癪だ。 距離は空いてしまったが、足なら俺のほうが早い。なびく銀の髪を捉えるべく、俺は思い切り駆け出した。 「チビ! 勝負だ! 先に食い終わったほうが勝ちだからな!」 宣言するときには、もうコイツはチャーシューを頬張っている。俺はと言えば、ラーメンを受け取ったばかりで割り箸すら割ってない。 2261 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ44「!」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ワンダーランド 大変だ。どうやら俺は漫画の世界に迷い込んだ。 とんでもなくバカげていて、突拍子もないことだとわかっている。夢みたいな世界。でも夢にしてはちょっと長すぎなんだ。 ここは現実に限りなく近い。ただ一点だけがおかしくて、他におかしなところはない。妙にリアルで、でも夢としか思えない世界に俺はいる。流石に一週間もこの世界にいると現実がおかしくなってきたような気分になったので、俺は異世界に迷い込んだことにした。 今日も日が昇る。俺はロードワークに出かける。悩みの種が俺を追いかけてくる。 「おいチビ! 無視すんじゃねえ!」 振り向かなくても誰だかなんて一発でわかる。それでも俺は振り向く。すると、自分で呼んだくせにコイツは少し驚いてみせる。そのちょっとだけキョトンとした表情の横に、小さな『!』マークが浮かんだ。 1707 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ42「挑戦」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。卒業軸の同学年タケ漣。モブくんがたくさんでます。魔法を解いて! 何事も挑戦とは言うが、挑まなくてもいい壁はある。 「じゃ、次の時間に牙崎と大河の一騎打ちだな」 黒板に書かれた『牙崎』と『大河』の文字。正の字が示す票の数は同数。 このままでは、俺は比喩でもなんでもなく、シンデレラになってしまうのだ。 * 「牙崎ってまつげ長いよな」 「はぁ?」 弁当を食いながら俺は言う。ここで同意を得られればいいのだが、学友の反応はイマイチだ。 「髪も長い。色も白い」 「でも大河は顔が可愛い」 「かわいくない」 牙崎は髪が長くて色が白いから。不本意だが、俺は童顔だから。そんな理由で俺たち二人のどちらかは、文化祭でお披露目する『男女逆転シンデレラ』のシンデレラになりそうなのだ。 「いいじゃねーか。白雪姫みたいにキスシーンがあるわけじゃないし」 4950 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ40「外」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。期待の話。月に願いを 全てを知っているわけではない。でも、うつくしい人だと思う。 スラムでは見たことのない銀の髪も、あとからハチミツというものを知ったときにそっくりだと思った瞳の色も、その生地だけで一週間は食っていけそうなスーツを着こなす佇まいも、切れ長の瞳を細めて笑うさまも。好ましいものはいくつもあった。 そして、なにより優しさと生き方が好きだった。本気ですべての人の幸せを願っている、その危うげな精神が。 * 「外面に騙されてんだろ」 エディはレナートのことが嫌いだった。嫌いだと明言こそしなかったが、二人きりになるとエディはとたんにレナートを悪く言う。エディの言う『妥当な評価』はおれの気持ちとはどんどんかけ離れていって、だんだん温度差が生まれるのがわかる。 4802 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ39「愛」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。タケ漣。愛について。シンプルストーリー なんだかアイツが変わった気がする。 なんというか、世話を焼かれている。前から水なんかはくれていたけど、最近は水以外も色々くれる。 最初はたいやきのしっぽ。差し入れのおまんじゅう。ぽっけから出てきた飴玉。一番ビックリしたのが、ラーメンのチャーシュー。俺が凹んでたり、ちょっと迷ってたり、なんだか困っている日にコイツは必ずと言っていいほど何かをくれた。 そういう、ちょっとした積み重ねに俺が返せたものはそんなに多くない。大抵はその時持っていたものを適当に。手持ちがないのは困るけど、アイツのため何かを買うってのが照れくさくて、いつも同じクッキーを持ち歩いていた。俺はコレが好きなんだ、って。それで何かをもらったときとか、なんでもないときとか、そういうときに個包装の一個をかばんから取り出して、これでチャラだというように差し出した。アイツはいったい何枚のチョコチップクッキーを食べたんだろう。たまに粉々に砕けてしまったクッキーを渡されて、何を思ったんだろう。 2016 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ38「例」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。大人になりたいクローくん。例えばの最適解【命題】 愛について 【前提】 僕はファングが好き。 僕はファングが大好き。 僕はファングを愛してる。 ファングは僕が好き。多分。 わかんないけど、きっとそれだけ。 だから、全然足りないんだ。 【例題】 僕たちは生き残った腹いせみたく、任務の翌日は一昔前に流行った曲が流れるダイナーで食事をとると決めている。 僕はアメリカンクラブハウスサンド、ファングはワッフルとフライドチキン。そんないつもの光景を見ていると、ファングと結婚したら食事は僕が作ろうという気持ちが強くなる。鶏肉にメイプルシロップをたっぷりとかけてワッフルと一緒に頬張るところも大好きだけど、樹液まみれになった揚げ鶏を愛せるかっていうのはちょっと別の話だ。 4223 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ37「大」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。すけべ。そうして僕らは途方に暮れる 子猫に噛み癖があったと知ったのは、転職してしばらくしてからのことだった。 * オレたち三人がおそろいでまとっていた血と硝煙の匂いは、殺しよりも数倍は難しい就職活動を機に各々形を変えた。 オレは配達する新聞から移ったインクの匂い。クローは花家の店先に並んだ色とりどりの匂い。セブンは評判の店が毎朝せっせと焼き上げるパンの匂い。 確か、あの子供は甘い匂いがした。孤児院に預ける時にセブンはもう会えないと自嘲気味に呟いていたが、オレたちの健全な働きっぷりを思えば会いに行くのも悪いことではないだろう。まぁ、あの年だ。オレたちのことなんて覚えていないと思うけれど。 オレはクローがわざわざ買ってきた花を見ながら、インクの黒が滲む手でセブンがもらってきたパンを食べる。オレとクローは人殺しをしていたときと変わらない様子で喋るけど、セブンはなんだか憑き物が落ちたような顔で笑う。 4305 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ35「スマホ」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。ダニーくんを無垢にしすぎた自覚はあります。雨音と心音 レナートの部屋はいつも雨音がする。 * 最初、雨が降り出したのかと思った。 その日は晴れていて、真昼の空に浮かぶ月が冴えていた。さっきまで物音一つなかったのに、レナートの部屋のドアを開けたら雨が降り出した。きっと星が見える夜だと思っていたから、なんとはなしに残念な気分になってしまう。表情に出てたんだろう。レナートがふわりと笑っていった。 「書類か、ありがとう。……たいしたものはないが、ビスケットがある。ミルクも」 残念な気分と言っても、何に対して残念なのかもわからない薄靄のような感覚だ。それをレナートはどうとったのだろう。おれをあやすように、もう少しだけ扉を開く。強すぎない灯りが揺れる部屋。ざぁざぁ、雨音が強くなる。 2543 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ33「近い」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。暗めのタケ漣。あながち悪くない「バカらし」 甘酒を飲みながら漣は呟く。その声のトーンは呆れを通り越して、侮蔑の色が滲んでいる。 タケルはその言葉を諌めようとした。少しばかり感情が喧嘩腰になっていたから、否定したかったと言っていい。ざわめきの中でその言葉を聞いていたのはタケルと道流だけだったけど、きっとその言葉で傷つく人間がいるとタケルは感じていたからだ。 初詣は人ばかりで駆け出しのアイドルが三人揃って歩いていても誰も気がつくことはない。三人は配られていた甘酒を飲みながら歩いていた。そこかしこで甘酒の匂いと冬の匂いがする、雪のない、星のきれいな夜だった。 がらごろと、鈴が鳴る。道流の手によって、それに倣うタケルの手によって、神様を振り向かせるように鈴が鳴る。おい、という声に急かされてなお、漣の手は鈴を揺すろうとしない。漣はこの場から離れたかったが、すっかりお見通しの二人に両側をガッチリと固められていた。道流が言う。「なあ、何がそんなに嫌なんだ?」 3405 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ32「ひる」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。昼夜逆転。大迷惑 最近、昼と夜がひっくり返ってる。おはようと笑うのは三日月で、眠るつもりかと太陽が責め立てる、そんな日々だ。 何も不摂生というわけじゃなく、これはれっきとした任務なのだ。僕とファングは夜に起きて朝に眠る。仕事場が不夜城なので致し方ない。 僕はデキる男なので文句は言わない。ファングも行きつけのハンバーガーが食べれないこと以外は気にしていないようだ。どこかで聞いた通り、配られたカードで勝負するしかないのさ。だから当然、逆転した生活にも楽しみを見いださなければならない。退屈はファングの瞳を殺していくので、定期的に刺激を与えないとならないんだ──死んだ目のファングも、それはそれで色っぽいんだけど。 まず僕たちは起きてすぐに星を見た。僕はそれなりに予習をして星座の名前やロマンチックな逸話とかを仕入れてきたのに、ファングはものの五分で飽きた。ファングが僕の話を聞かないなら僕だって飽きる。あんな遠くの光に価値なんてない。ファングと一緒に笑えないものは総じてガラクタだ。結局星は朝のニュースの代打にもならないと知った。星を見ながら食べるシリアルはちょっとロマンチックだと思っていたのに。 2423 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ31「期待」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ケタザザ。発情期ネタです。春景色 こんなことになるんだったら、大人になんてなりたくなかった。 子供のうちに好きだって伝えておけばよかった。 * 狩りの群れに混ざるようになってから、三回目の春が来た。春になるといろんな生き物が元気になる。俺は赤い果実と青い羽の鳥がおいしくて好きだ。春はおやつがたくさんあって、秋と同じくらい好きだった。 ザザキだって昔は春がくるとはしゃいでいた。素振りは見せなかったけど、わかる。目を細める回数が増えて、少し明るい声で話す。それを知っているのが俺だけならいいって、よく思ってた。二人で一緒になって、黄色くて小さい花が咲く野原で追いかけあった。負けない、って笑いながら。 ザザキのことが好きだった。でも、どこが好きかと言われると困ってしまう。小さい頃から一緒だから、いなくなったときのことが考えられないって言ったほうが正しいのかもしれない。俺に兄弟はいないけど、ザザキのことは家族だって思ってる。悪友って言葉を聞いたって、親友って言葉を聞いたって、真っ先に浮かぶのはザザキのことだ。好きって単語を口に出す時に考える相手だってザザキだった。 4131 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ30「駆け引き」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。カイレ。嘘と煤けたワンダーランド 目の前の男が腕に抱える粘土のような携帯食料と貴重な水が入ったボトルの数を見てわかったことは、「ああ、このバカはまた騙されやがったな」ということだった。 遠征任務ではバカみたいな量の水を持ち歩くわけにはいかない。その点、人類の英知である現金というものは持ち運びがしやすいことこのうえない。水にも酒にもなるしな。つまり現地調達は理にかなっているのだが、このカイという男は、とにかくそれがヘタクソなのである。 任せなければよかった。という判断ミスを悔いる気持ちと、散々買い物の仕方は教えてやっただろう。という恨み節。うまく両立ができない感情ごとオレ様なりの正論をぶつければ、普段から仏頂面を崩さない整った目元がムスッと歪んだ。 4367 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ29「すぎる」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。パブロフの犬的な。りんごとはちみつ「最悪」 ふさいでいた唇が自由になって、まっさきにクローが吐き出した言葉がこれだった。オレはといえば舌にこびりついたどっちのもんだかわからない血の味が心地よい。 「なんだよ。いつもは赤ちゃんみたく口寂しくしてんのに。キスは大好きだろ?」 「……僕は血の味が嫌いなんだよ。そもそも、血って好きじゃない」 血液の詰まったズタ袋がなんか言ってる。さっきまで舐めあっていた箇所は錆びついた味がして、クローが思い切り唇を切ったことがわかる。血の味なら、オレがちょっかいをかけなくても口には鉄の味が広がっていたはずだ。オレのせいじゃないと告げれば、ファングだって口を切っていると返される。お互い様だった。 「そもそも、そんなに血まみれの服で近寄らないで。血の匂いで鼻が曲がりそうだ」 2256 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ26「視線」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ちょいホラー。あの子がほしい 最近、妙な視線を感じる。 確か小学校でのロケを終えたあたりからだ。あの仕事は楽しかった。子どもたちと追いかけっこをして、肝試しをして、一緒にカレーを食べた。そんな楽しい時間の直後からこの憂鬱だ。少し残念な気持ちになってしまう。 例えば仕事の帰り道。例えばレッスンに向かう途中。ロードワーク中にだって視線は感じていた。ヤバいなって思ったのは、最近は家でも視線を感じること。俺がいるところ全部に見ず知らずの視線があるのだ。 それでも俺は呑気に構えていた。というか、家まで視線がついてきたらお手上げだ。どうしようもない。ある種の諦めと、そのへんのやつになら勝てるという慢心があった。むしろこの視線が熱狂的なファンだった時のほうが問題だって思ってた。だって、殴るわけにもいかないし。いや、強盗とかだって殴っちゃダメなんだけど。 4002 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ25「星」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。カイレの星の話。星の見えない夜に この空には星がないと言うのは大嘘だ。屋上に登れば誰も寄せ付けないとでも言うように冬空が鋭利な視線でこちらを睨みつけてくる。その眼差しは確かに光を内包していない。目を凝らしても、足元に広がった文明という光が邪魔をする。 でも、確かに星はあるのだ。光のないスラムの、最下層の最下層。スクラップで作り上げたアジトから見上げた空の、かすかな光を覚えている。あの時あったんだ。今になって消えちまったって道理はないだろう。オレ様は空にはまだ星があると、むずかゆい言葉で言えば信じている。 冷たい空に星は見えない。否、オレ様が見つけていない。それだけだ。 わかってはいたが寒い。オレ様はこのヤニ臭くてワンサイズ小さいジャケットしか羽織っていないから当たり前だ。さっきまで繋がっていた相手のジャケットはどんどん冷えてオレ様をせっつく。とっとと要件を済ましちまおう。 4037 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ23「かぜ」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。風邪の話。恋と病 隼人さんはモテたいってよく言うけど、モテてどうしたいかって聞くと返答はふわふわしてる。別に俺はイジワルがしたいわけじゃないけれど、彼女という存在にイメージが沸かない以上、やっぱり数回に一回かは疑問を返してしまうわけで。 「例えば、彼女にされたいこととかがあるのか?」 俺の質問に隼人さんは赤くなる。隼人さんはわかりやすくて助かる。俺みたいなやつは、言葉にしてもらうか行動で示してもらわないと何かを取りこぼしてしまうから。 「んんー……例えば、お弁当作ってもらったり……あと風邪ひいたらお粥をふーふーしてもらったり……?」 「お粥……彼女とは一緒に暮らしてるのか」 同棲か。そう呟けば大慌ていた隼人さんが即座に否定してくる。隼人さんのビジョンだと、一人暮らしで風邪を引いてしまった自分のもとにスポーツドリンクを持って現れた彼女が冷蔵庫にあった卵でお粥を作ってくれるのがいいらしい。具体的だ。 3203 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ22「器用」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。消失トリック エディが死んでからとにかく忙しい。欠員がでたことによる忙しさはもちろんあるだろう。ただ、それ以上に、みんなが誰にも見せないように寂しさだとか悲しさだとかを抱えているように思えた。 願望、なのだろうか。おれはエディが死んで悲しかった。エディは仲間だった。だから、仲間だったはずのみんなにも悲しんでほしかったのかもしれない。数日しか時間を共にしていないユーリーにだって、俺は怒りではなく悲しみを抱いていてほしかった。 「あー……つかれた……」 ユーリーはそう言って机に突っ伏す。ばらばらと落ちた書類はレナートが抱える紙束の半分以下だが、それはユーリーが新人だから能力が劣るというわけではない。単純に、レナートの仕事量が異常なのだ。もともといつも仕事しているようなやつだけど、最近は輪をかけてそれが顕著だ。 3379 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ21「あき」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。アキネーターの話。ないしょのキスはバニラ味 あーイライラする。それもこれも、全部あのくだらねえ企画のせいだ。 この前のバラエティ。えっと、『あき……なんとか』とか言うやつの話だ。ターバンを巻いたおっさんの質問に答えていくと、考えてた人間がバレるってやつ。 質問に答えていって事務所の人間を出したり──四季のことを考えていたら本当に四季のことを当てられた──いろんな話をしたけど、そっからユニットの絆みたいになったのがホントに意味わかんねぇ。なにが『らーめん屋とオレ様、どっちがチビのことを知ってるか』、だ。 まず、チビの身長。そんなの『オレ様よりチビ』で十分だ。それなのにこれじゃハズレなんだと。事務所のコウシキプロフィールとか、知らねえし。らーめん屋は知ってたけど、答えはどうでもよすぎてソッコーで忘れた。 1921 85_yako_pDONEタケ漣のつもり。まだお互いに恋とか愛とかしてない。家庭用プラネタリウムを見るふたりです。(2023/06/28)旅路の果て 星を見て何かを思うことがなくなって十年近く経つ気がする。妹弟と見た星が一番記憶に新しくて、あとは星を見たという認識すらなく時折夜空を見上げることしかなかった。 だからこうやって星を見たのはひさしぶりだ。コイツが目を覚ますまでの──円城寺さんがこの公園に到着するまでの暇潰しみたいなもんだった。俺がコイツを起こすことができれば円城寺さんに手間をかけさせることもなかったのに、起きてる時は俺にしか興味がなさそうなコイツは寝ていたら俺を無視する。その身勝手さには腹が立つ。 整っているくせにバカ丸出しの寝顔から目を逸らして、地面じゃなくて空を見た。大きな星がひとつだけ瞬いていて、名前を知らなくても、隣に誰もいなくても、星はきれいなのだと初めて思う。星を強く意識した時、聞こえるはずのない声がした。 3700 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ15「音」既刊『タケ漣ワンドロアソート』で全文公開してたサンプルをこっちにも持ってきました。タケ漣です。オリP注意です。(2020/8/16)月の裏側「ねえ、面白いもの見たくない?」 プロデューサーの笑顔には数種類あるってのが、それなりに長い付き合いでわかってきた。これは一番良く見るたぐいの笑顔。誰かを驚かせたくて仕方がない笑顔だ。 隠しもしない悪巧みに俺は近づく。その指先では企画書がひらひらと泳いでいる。 「……ウォーキングアクト?」 見覚えのない単語だ。更に言えばその企画書に書かれていた名前は『大河タケル』ではなく『牙崎漣』。てっきり俺に面白い仕事を持ってきて、俺を驚かせるんだと思っていた。 「わかりにくいよね。これね、大道芸」 大道芸っていうと道端にいるピエロ、だろうか。アイツがド派手なメイクをしている姿を想像すると、驚きより面白さが勝る。それでもあの銀の髪に派手な装飾は似合うのかもしれないだなんて思ってしまった。 5629 85_yako_pDONE二年後のタケ漣です。飲酒あり。こいつらは付き合っている。(2023/5/18)586のアドバンテージ アルコールの甘ったるい匂いがする。世の中にはいろんな酒があって、そのいくつかが甘い匂いじゃないことなんて知っているつもりだけど、俺がよく知っている酒の匂いはコイツがよく飲んでいる甘ったるい缶カクテルの匂いだった。 華やかというにはあまりにも人工的な果物の匂いは桃のものが多かった。缶に記されたアルコール度数は笑ってしまうほど低いのに、コイツはそれを得意げな顔をして煽ってる。面白いように赤く染まった頬は色恋の証明みたいなのに、それをコイツは酒の席では晒しているのかと思うとひどく気分が悪かった。 調子に乗ってんな、って思う。目の前のご機嫌なコイツを見て、いつも以上にそう思う。 コイツは基本的に人生の8割くらいは調子に乗っているようなやつだけど、これは俺にだけ向けられた、ある意味『特別』な行動だ。コイツの特別はうれしい、はずなんだけれども、これにはちょっとムカついている。 2085 85_yako_pDONEカイレ(タケ漣)指が吹っ飛んでるがラブコメ。100本チャレンジその36 (2022-12-26)ないと困るだろ「レッカさん、とうとう体に機械いれるんですってね」 「……は?」 聞いてない。そう言えば組んだこともない後輩が意外そうに声をあげた。その声を聞いて、別にレッカが俺に了解を取る必要はないのだと想い至るがわざわざ言い出すことでもないだろう。 「……レッカはどこも機械化しない……だろ。アイツのこだわりっつーか、そもそもやる必要がない」 感覚がない機械の足で蹴り倒せば確かに威力はあがるだろうが、精度は落ちるだろうし扱いに慣れるまで時間がかかる。たかだか数週間でも戦線から離れるのを嫌がるイカレ野郎がそんなまどろっこしい真似をするとは思えない。 「それにレッカが最近した大きな怪我って指だろ? アイツは銃を使わないから機械化してまで保つ意味もないっていうか……」 1403 85_yako_pDONEタケ漣を目撃するクラファちゃんです。ファンタジー痛くない欠損があります。当時は判明してなかったので一部呼称が違う。(2022-10-23)猫の手も借りたい 牙崎を探していた。レッスンの時間になっても現れなかった牙崎を大河と円城寺さんが探していたので、俺が探すからレッスンに行くようにと言ったからだ。そのときにLINKで秀と百々人に協力を仰いだのだが、先程慌てた様子の百々人からすぐに事務所に戻ってプロデューサーを捕まえておいてくれと頼まれたので事務所に戻り、今に至る。プロデューサーは急を要する仕事が一段落ついたらしく、俺たちが牙崎を探していると知って礼を言ってきた。 現状を伝えねばと思ったが、俺自身も何が何だかわかっていない。することもないので牙崎がいなくなるのは初めてなのかと質問をしていたら、突然事務所の扉が大袈裟に開いた。 「ぴぃちゃん大変! 牙崎くんが……っ!」 6553 85_yako_pDONEタケ漣。漣の女装。性癖のアクセルを強めに踏んでます。(22/8/29)枯れ枝の人形遊び。 『杏奈』という名前の女の子がいる。いや、『いた』って言った方が正しい。これは死んだ女の子の名前だ。 その名前を借りる──押し付けられたのはアイツだった。気の狂った老婆の、たったひとつの安寧のためにアイツはいまその身を投げ出している。 きっかけは事務所にやってきたひとりの男だった。男は事務所にまで押しかけたことを謝り、泣きそうな声でプロデューサーに縋り付いた。 「牙崎漣さんにお願いがあります」 ちょうど事務所には漫画みたいなタイミングで俺と円城寺さんとアイツが居て、アイツは呑気に眠っていた。プロデューサーが警戒している様子を見た男は名刺を取り出して身分を明かす。俺はこういうのよくわからないけれど、なんとなく悪い人ではないように見える。 5892 85_yako_pDONEタケ漣。100本チャレンジその32(22/8/4)なかなかおちない四季さんが卒業と同時に一人暮らしをするらしい。卒業ってのはいい区切りだと思う。なにかと、新しいことを始めるのに向いている。 でも俺は学校に行ってなかったから卒業とは無縁だった。成人式は今年だけれど、酒が飲めるのか、くらいにしか思わない。酒が飲めるのは嬉しいんだけど、本当にそれだけだ。 一足先に成人したくせに、何にも変わらないコイツを見てるからだろうか。俺が成人したって、きっと何も変わらないって思ってる。コイツは成人してもふらふらしてるし、俺の家にくるくせに居着いたりはしない。なんというか、決定打があれば、二人で住むのに不自由しない広さの家に引っ越したっていいんだけど。 きっかけって大切だ。シーツをゴミ箱に突っ込みながら思う。だらだらと、端が破れても使ってたシーツは今日ようやくゴミとして俺の手を離れる。どんなにどろどろに汚れても洗っては使ってたくせに、ルージュの色がひとつ付いただけで俺はこれを捨てる気になった。 839 85_yako_pDONEタケ漣。思い通りにならない牙崎漣の話。100本チャレンジその20(22/2/19)恋よりはありえる。 最近、アイツの夢を見る。 真っ暗な部屋に、切り取った額縁のようにモニターの明かりが光っている。それは暗闇に溶け込むような机に乗っていて、ぼんやりと浮かんでいるようだ。 机の前には椅子がある。モニターの光で半分くらいは見えるけれど、足下が底無し沼のように真っ暗だ。そういう、落下を伴うような不安定さの上に、体育座りをしたアイツが乗っている。 俺はそれをぼんやりと見ている。手は思い通りに動くし、きっと声を出そうとしたら好きな言葉を投げかけられたはずだ。それなのに、俺はそれすら怠って、ただモニターの無機質な光に照らされるアイツの髪がちかちかと輝くのを眺めていた。 歩けば近寄れる。近寄れば、真綿から羽化した虫が羽を動かしたような音が絶え間なく聞こえてきて、耳鳴りみたいだ。そういうどうしようもない音はコイツを見つめているうちに意識の外に追い出されて、俺は完璧な沈黙の中でコイツを見つめる。コイツは俺の存在なんて知ることをせず、モニターをじっと見つめていた。 1047 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ129「薔薇」(2021/12/10)満月に、薔薇一輪 見慣れた光景に溶け込んだ、見慣れた人間だ。来客用ではない、柔らかいソファに沈む銀色の髪と、寝息。 いつも通り事務所のソファで眠っていたコイツは、珍しく誰の干渉も受けずに目を覚ました。俺は台本から視線をあげてコイツを見る。春名さんが差し入れてくれたドーナツを渡さなければならないからだ。 ドーナツがある。そう言えば、寝ぼけながらぼんやりとこちらを見るはちみつ色の瞳。その瞳の奥に、なにか、違和感を抱く。 見慣れた瞳が見慣れないものを抱えている。満月のような瞳の奥に閉じ込められたように咲く、黄色い薔薇が見えた。 何重にも重なった花びらは瞳と色が似ていて、境界が曖昧だ。琥珀に埋まった虫のようなそれは何かを映しているだとか、そういうものではないだろう。どうにも現実感のないその花をじっと見ていたら、コイツは不思議そうに、不服そうに口をひらく。 3992 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ114「遊」(2021/08/06)不公平ゲーム「シユー?」 「試遊、な」 「ふーん」 俺の手元を覗きこんでいたコイツは頬に触れそうなほどの距離をあっけなく離す。シユーの意味を聞かなかったのは興味がなかったわけではなく、単純に面白くないという気持ちが勝ったのだろう。 さっき散々プロデューサー相手に騒いでいたから、言いたいことはもうないらしい。それでも気が済んでいるかといえばそうではなく、俺のことをじっと見つめている瞳は不満げだ。 「……なんだ?」 「チビだけかよ」 「オマエはゲーム好きじゃないだろ」 俺の手元には、まだ販売されていないゲームがある。俺が何度かインタビューやトークで「好きなんだ」と話していたゲームの続編、そのテストプレイをなんと俺が担当することになったのだ。 4855 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ97「嘘」(2021/04/02)例えば別れの言葉とか「なんで嘘なんざつくんだよ」 コイツは『できない』とは言わなかったが、演技をする対象のことがわからないというのは『演技ができない』と言っているのと同じことだろう。いつだって当て書きの役がもらえるわけじゃない。コイツの演じる青年は嘘吐きではなかったが、最後、ひとつだけ最初で最後の嘘を吐く。たったひとり、愛する人間のために。 「それは……相手のことが好きで、大切だからだろ」 かと言って俺は嘘は吐かないし、吐けない。嘘を吐こうと思ったことはないが、考えただけで喉の奥に重さのあるモヤのようなものがまとわりついて気分が重くなる。コイツが同じことを思っているかはわからないが、嘘が吐けるタイプではないのはわかる。円城寺さんはどうなんだろう。あのひとは優しいから、優しさから嘘を吐く人間の気持ちがわかるかもしれない。 1429 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ94「花」(2021/03/12)桜が散ったら会いましょう 花冷え、という言葉は円城寺さんに教えてもらった。 桜の花が咲くころに、たまに寒くなることをそう呼ぶらしい。陽の光など忘れたように寒くなる様子や、憎めない裏切りのような寒さをそう呼ぶのだと。 だとしたら、アイツは花冷えのころにやってくると言える。なんだか、ずいぶんとアイツっぽくない。花冷えという言葉から感じる、たとえば翔真さんのような背筋の伸びた美しさがアイツにはどうも当てはまらない。 コイツの美しさは違うだろう。そう考えて、俺は初めてアイツの美しさについて考える。 まず、銀色であることは揺るぎない。ステージの上でしか見られないものだと思うのだが、ふとした拍子に意識を通り過ぎていくような、そういう俺が当たり前に見過ごしている部分にも潜んでいる気もしていてもやもやとする。もやもや、というか、ざわざわ、だろうか──俺がアイツに『美しさがある』と当たり前に思っている。おかしな話だ。まるでゲームのバグみたいだ。 1570 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ90「甘」(2021/2/12)猫が胡桃を回すよう 猫の牙とライオンの牙は本数なんかは一緒らしい。大きさが違うから別物に見えるけど、本数はおんなじで三十本なんだって。 人間の歯は親知らずを入れたらそれよりもちょっと多くて、入れなかったらちょっと少ない。まぁ差がちょっとだから口の中には収まるもんなんだろう。三十本の歯がいま、コイツの口の中に収まっている。 あんぐりと大きくあけた口の中には立派な牙。人間のそれじゃない、猫科の牙だ。 大抵の物事には意味と理由があるって思ってたけど、成長するにつれ──こうやって大人に混じって仕事なんかをしているうちに知った。世の中には意味の無いものがあって、理由を気にしても仕方が無いことがある。だからコイツの歯が猫科のそれになってしまったことについて、俺や円城寺さんの困惑をしれっとした笑顔で流してプロデューサーは「しかたないね」と笑ってその場を締めくくった。 2462 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ83「クリスマス」(2020/12/25)愛してるのやりかた 同業者の中には『クリスマス』が希薄な人間がいるかもしれない。 散々クリスマスの特番に呼ばれて、まだきていないクリスマスを祝う。なんなら正月も。そんな生活をしてても俺たちがクリスマスを見失わないのは、事務所のみんなでこうやってクリスマスを祝う機会があるからだろう。 たくさん笑って、いっぱい食べた。片付けをして、円城寺さんの家に三人で帰った。 ケーキはたくさん食べたから、こたつでアイスでも食べようって笑いあった。一通りくつろいだらアイスの前に風呂だ。実は一番風呂が好きなアイツに順番を譲って俺と円城寺さんはテレビをぼんやりと見る。きっとずっと前に撮ったんだろう映像はクリスマスを祝っていて、俺はぼんやりと楽しかったクリスマス会を思い出していた。 4351 12