85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ76「寒」(2020/11/06)野良猫は懐かない 最近の寒暖差はなんだと言うのだ。 今月に入ってから少し寒いが、羽毛布団を出すのは億劫で厚着をして眠っていた。そんなことをしていたら一週間前にポカポカ陽気がやってきて、慢心していたらその三日後には凍えていたような気がする。で、羽毛布団を出したら翌日の陽気は九月。ふわふわした熱の塊をベッドの端に押しやって眠れば朝には凍えていて、アイツが床からベッドに移動して俺で暖を取っていた。そんな距離も昨日は遠のいて、今日は寒いのにアイツはいない。寒くなければ来ないアイツも、今日は暖かいと読み違えたんだろう。 アイツは雨の日だとか、寒い日とかにやってくる。今月は来るタイミングを間違えっぱなしだ。ふらりと来た夜が暖かいと、なんだか妙にいたたまれない顔をして、床で転がって静かにしている。俺はそんなアイツを見るのがなんだか嫌だ。 2761 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ75「ハロウィン」(2010/10/30)ハッピー罰ゲーム 玄関の扉を開けば、台風がそこにいた。 「トリック・オア・トリート! チビ、持ってる菓子全部よこしな!」 仮装も何もせずに、コイツはそう言い放って手のひらを差し出した。 俺はと言えば、呼吸や思考が止まるほどではないが、ちょっと驚いた。 「……ハロウィンは知ってるんだな」 「あ? 常識だろ」 常識ではない。まぁ菓子がもらえる祭ってのは記憶してるんだろう。それでもやはり気になってしまうのだ。部屋にコイツを招き入れながら問いかける。 「……いつ知ったんだ?」 コイツの人生の転機はふたつある。俺に殴られた瞬間と、アイドルになった瞬間。出会いから俺はずっとコイツと一緒にいるけれど、知らないことは山ほどある。 「んー……ああ、旅してたときにヤギのいる村でなんかそれっぽいことをやった気がすんだよな。そんときゃ意識してなかったが……あれがハロウィンだろ。なんか言うと菓子がもらえるってのはこっち来て知った」 1914 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ73「奪」(2021/02/05)余生は二人で旅に出ようか 少し寄りたいところがある。そう言ったのは道流だった。 タケルはじゃんけんで負けたので重たい缶詰の詰まったエコバッグを持っていたが、文句を言うことはしない。数歩先を歩いていた漣が面白くなさそうに歩調を緩め、道流の数歩後ろに移動した。 立ち寄ったのはクリーニング屋だった。普段は利用しない店だ。彼らの衣装はいつも他人の手によって整えられているし、クリーニングが必要な衣類には出番があまりない。そもそも、タケルと漣は手入れが必要な衣類自体を持っていない。漣に至っては、ここがどういう店なのかすら理解していなかった。 道流が引き取ったのは真っ黒な服だった。タケルは少しだけ心当たりがある。礼服か、喪服だろう。どちらなのか、それを聞くことはしなかった。 3985 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ116「ライブ」恋愛感情じゃないけど、将来的にタケ漣なのでタケ漣です。(2021/08/20)ワンサイドゲーム『ライブ中継』の文字が左上にへばりついている午後三時。画面の中には大河タケルがいる。 「タケル、頑張ってるなぁ」 道流の言葉を肯定も否定もせずに漣はひとつあくびをした。タケルの緊張は道流の部屋を満たすほどではないが、真剣な目つきからはそれなりの緊張が伺える。 タケルはいま、生放送で新作ゲームをプレイしている。ノーミスでステージ3までをクリアできるか、というかがこの番組の趣旨らしい。この企画には事務所のゲーム好きたち数名が参加していて、いまのところ成功者は恭二ひとりだった。くじ引きで決まったことだが、タケルの順番は最後だった。 漣は不思議な気持ちだった。画面のなかのチビは見たことがある。いっそ見慣れたと言ってもいいだろう。個別の仕事が増えてから、自分のいない画面に彼がいるのは当たり前のことで、でもそれは過去の大河タケルなのだ。この状況は初めてだ。 1688 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ114「遊」(2021/08/06)不公平ゲーム「シユー?」 「試遊、な」 「ふーん」 俺の手元を覗きこんでいたコイツは頬に触れそうなほどの距離をあっけなく離す。シユーの意味を聞かなかったのは興味がなかったわけではなく、単純に面白くないという気持ちが勝ったのだろう。 さっき散々プロデューサー相手に騒いでいたから、言いたいことはもうないらしい。それでも気が済んでいるかといえばそうではなく、俺のことをじっと見つめている瞳は不満げだ。 「……なんだ?」 「チビだけかよ」 「オマエはゲーム好きじゃないだろ」 俺の手元には、まだ販売されていないゲームがある。俺が何度かインタビューやトークで「好きなんだ」と話していたゲームの続編、そのテストプレイをなんと俺が担当することになったのだ。 4855 85_yako_pDONEDob/Subタケ漣。(2021/06/26)俺はオマエの運命じゃない俺はオマエの運命じゃない 世の中には決まりごとがある。 沈んだ太陽が必ず昇るだとか、降り止まない雨はないだとか、生き物は一日ずつしか年が取れないだとか、いつか人間は死ぬとか、そういうの。 俺みたいな一部の人間が持っている性もそのひとつだと思ってる。持っているって言ったけど、押しつけられてるって言ってもいいかもしれない。世間とか、心とか、いるとしたら神様あたりに押しつけられたどうにもできない衝動だ。 ダイナミクス。生殖器で区別のつかない第二の性別。 人間の分け方はいろいろあって、ダイナミクスでも人は分類できる。俺みたいにSubのことを支配したいって思うDomと、俺みたいなDomに支配されたいって思うSub、あとはどっちでもない人とか、どっちにもなれる人とか。 12002 85_yako_pDONEどうあがいてもタケ漣。(2018年くらい)ラブソングのように 口付ける、噛み付く、舐める、飲み込む。 そんなことよりも、もっと簡単に愛は確かめあえるはずなのに。 「オマエは俺のこと、好きって言わないな」 好き、って言葉が形になる前に不満が出た。正直、やっちまったと思った。 でも、今更撤回もできやしない。本心だ。 俺の目をじと、と睨み付けて、アイツはつまらなそうに出て行った。 一日目、耳元にはらりと舞った葉が「好きだ」と囁いた。振り向いても、誰もいなかった。風が、笑い声みたいな高い音で空に昇った。 二日目、眺めた月が静かな声で「好きだ」と呟いた。通りすがりのカップルがキスをしてた。世界で、確かに二人きりだった。 三日目、しゃがんだ膝に乗り上げて、頬に擦りよった銀の猫が「好きだ」と耳を舐めていった。ひらり、膝から飛び降りた猫は路地裏に消えた。 687 85_yako_pDONEコインランドリーとタケ漣(2018/10/18)コインランドリー汚したシーツを放り込もうと洗濯機の蓋を開けた俺の目に飛び込んできたのは、昨日同じ理由で汚したシーツが湿り気を帯びたままで布の塊になって鎮座している様だった。そういえば、昨日洗濯機をまわしてそれっきりだった。 替えのシーツはこれしかない。さてどうしたものかと悩んでいると、狭い洗面所に風呂上がりのアイツが出てきた。バスタオルを渡してやるが、ろくに髪を拭かない。髪、乾かしておけよ。そう言って入れ違いに風呂に入った。アイツほどではないけど、俺だって汗まみれだったし汚れてもいた。 風呂から上がっても、シーツは汚れたままだしアイツの髪は湿っていた。考えたくもないが、床には脱ぎ捨てた衣類も転がっている。 丸裸のベッドを見て考える。シーツをかけないで寝るか、バスタオルでもしいて寝るか。深夜一時半を刻む秒針の音に思考を委ねていたらふと思いついたことがある。 2362 85_yako_pDONEタケ漣とアイス(2020/09/20)おうちでできること 例えばアイスがその筆頭。そもそもが向いていないものばかりだけれど。 片手が塞がるのが致命的。まぁ、これはほとんどがそう。冷たいのもいまはいただけない。一気に食べると腹が冷えるから、ゆっくり食べるしかなくなるわけで。もうひとつは溶けていくこと。制限時間があるから放っておけない。あげく、このタイプは溶けたら手を汚す。この手でぺたぺたと触れたら確実に汚れてしまうだろう。 まぁ、ゲーム中にものを食べるなという話だ。 それでも俺はいま、アイスを食べている。厳密に言うと、食わされている。 俺がポッキンソーダと呼んでいた、馴染みのないアイスだ。ガリガリくんに真ん中から切り取り線をいれたみたいなこのアイスは棒が二本ついていて、はんぶんこを前提に作られているものだとわかる。(そう、俺は三人兄弟だから無縁のアイスだったのだ) 2113 85_yako_pDONEタケ漣とねこ(2019/04/21)ねこのはなし「猫を飼わないか?」 そう言った。ソファーで溶けてるアイツは少しだけ驚いたようにこっちを見た。きっと、賛成してくれると思っていた。めんどくさそうに、「チビが世話すんなら」って、そう言ってくれると思っていた。 だって、アイツだって猫が好きだから。好きって言葉をアイツは使わないけど、アイツの目を見ればわかる。目は口ほどに物を言う。猫を見ている時の目は、他の生き物を見ているときとは明確に違う。そして、これは俺が自惚れてしまう原因なのだけど、俺と、円城寺さんや四季さんを見る時の目も、違う。最初は、こんな目をしていなかった。七年かけて、告白をして、体を重ねて。 俺のことを見るアイツの目は、変わった。 だから、猫が好きで、俺のことが好きなアイツは、この提案を断らないと思ってた。だけど、返事は一向に返ってこない。 2522 85_yako_pDONESF(少し不思議)タケ漣(2019/07/05)月下に恋心 思えばコイツが人間であるという証拠は一つもなかった。だけどそんなことを疑ったことなんてなかったから、それを見たときは驚いた。 男道ラーメンで夕飯を食べて、コイツと一緒に帰り道を歩いていた。コイツは二つ先の角で俺と分かれるはずだった。 冬は寒いから家に来ればいいと思う。だけど、円城寺さんの家にすら行かなかったコイツが俺の家になんてくるはずもない。だから誘いを口にすることもできず、ただ雨が降らないようにとぼんやり考えていた。 寒いのに外のがいいのか。夜はなんでこんなにも静かなのか。眺めた月明かりを湛えた目はどこを見ているのか。視線で撫でた表面のその下、内側を一切見せないその皮膚が青白く見える。 その内側を覗いてみたい。そんな叶うはずもない欲求を抱いた相手はコイツが初めてだったかもしれない。 4499 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ50「名前」(2020/05/02)眠りの浅瀬で会いましょう 最近、予知夢を見る。 * 予知夢って単語は最近知った。らーめん屋が漫画の話かと笑ってた。漫画じゃなくてオレ様の話だっての。 オレ様には未来が見える。なんというか、オレ様としてはつまらない。オレ様にやましいことなんて一個もないのに、なんだかズルしてるような気分になる。 夢は断片的なもので、見える未来もたいしたもんじゃねえから放っておいているが、見なくて済むなら見たくない。そんなことを思いながらオレ様は一度見たはずの光景を見る。厳密には、少しだけズレた現在に触れる。 「おい、オマエ。聞いてるのか」 チビの表情も、疑問も、感情も、全部見た。でも、本当にどうでもいいことが決定的に違う。現実のほうがいいはずなのに、頭にこびりついているのは夢に響く声。 3322 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ49「上」(2020/04/24)楽園ではすべてがうまくいく 夏が好きだった。昔からずっと。 小学生にとって、夏ってのは楽園の象徴みたいなものだろう。蝉時雨に後押しされた大きい笑い声。焼けるような日差しから逃れるように飛び込んだプールに満ちた塩素の匂い。学校の授業なんかなくて、一日中遊んでいられたあの日々は姿が見えないほどごちゃごちゃにこんがらがって、幸せの形に固まっている。中身なんかはわからない、漠然とした光だ。 高校生になると、夏に対しての意識は変わる。夏の好きなところ、問われたとして俺は言葉が出てくるんだろうか。 楽園はおしまい。蝉時雨はただうるさいだけだし、日差しはランニングのじゃまになる。手に届かない積乱雲と、一滴一滴に嵐を内包した激しい雨。そして、幼い頃はただ美しかったはずの、切なさを引き連れてくる花火。 2024 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ47「靴」(2020年頃のはず)ガラスの靴は二年後に「なんだこれ……ヒールの置物か?」 「酒だってよ。ったく、食えるもんよこしやがれってんだ」 今日は撮影だと言っていたから、てっきり円城寺さんのところに行くんだと思ってた。だってここにはあったかい飯も客用の布団もない。 コイツが俺の家にくる理由って本当にない。それでもたまに、本当にたまにこうやってうちにやってくる。そこに意味なんてなくて、そこに理由なんてなくて、何かをするために来た試しがなかったもんだから、何かを片手にこうやってやってきたってのはわりかし非日常的だ。 「そのへん置いとけ」 「は?」 マヌケな声がでたから、きっとマヌケな表情をしていた。コイツはそんな俺を面白がることもせずにあがりこむ。俺んちにはたいしたもんはないってわかってるだろうに。 1970 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ43「しろ」(2020/03/26)恋愛はシロウトです 五年近く付き合ってるうちの、チビが酒を飲み始めてからはいつも横にいる。ずっと見ててわかったんだが、チビの酔い方は面白え。いや、めんどくせー時のが多いんだが、今日のこれは、まあ笑える部類だ。 「だから……これは……浮気じゃない……わかるだろ……?」 チビがこの広い家に引っ越して二年。倍くらい大きくなったテレビには、真剣な顔をしたチビが大きく映っている。そんで、オレ様の真横には、テーブルに突っ伏してぶつくさ呟いてる、チビに磨きがかかったチビ。耳の赤さは酒のせいだろう。額をテーブルにこすりつけてなお手放さない缶チューハイは何本目だろうか。なんつーか、チビは安っぽい酒を好んで飲んでいる。 「見るなよ……バカ……何見てんだよ……」 3177 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ41「ふく」(2020/02/29)麗しドレスアップドール 正直に言う。俺に服のセンスはない。 同年代の人と比べたら、俺の服はあまりにも機能性に傾いている。私服とランニングウェアが一緒くたになってるときもあった。服は増えたがデザインは似通うし、同系色の服を好む。服を選ぶポイントは機能性、通気性、それと、ポケットがあるかどうか、だ。 それでもアイドルをやるぶんには問題がなかった。服は用意してもらえるから。私服コーディネートみたいな企画だって、呼ばれるのは俺たちじゃなくて華やかな人たちだ。四季さんとか。 そういうわけで、俺のクローゼットは見栄えしない。そんな状態が二年くらい続いただろうか。今、俺の目の前には色とりどりの洋服が並べられている。 「おら、オレ様が選んでやったんだ。ありがたく受け取りやがれ!」 2392 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ34「知識」(2020/01/11)向上心は猫をも絆す 知識なんて最低限でいいと思ってた。それがとんだ思い上がりだったことにこの歳で気がつけたのはよかったことなんだろう。何事も、遅すぎるということはない。 「知識は必ず君たちを助ける」と言われた時、「知識がないと困るよな」って言うことしかわからなかった。困ったことはこの仕事になってから度々あって、その筆頭は台本の漢字が読めないってこと。その都度人に聞くもんじゃない。ちゃんと覚えなきゃ。それってのは必要に迫ってのことだった。 だから「知識があると楽しめる」と知った時はなんだか不意をつかれた感じだったし、その瞬間はピンとこなかった。だって、俺は台本が読めて、買い物をするときに単純な足し算ができればいい。正直、二割引とか言われたって、「安くなるんだな」って程度しか思わない。だから、俺は自分に最低限だけを課し、それ以上を見つめることをしなかった。視野が狭かったんだ。 2559 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ27「ごちそう」(2019/11/22)月夜の晩餐 コイツの意識がなくなるまで抱き潰さないと、って焦燥感がこの肺を焼くようになったのはいつからだろう。それは加虐心とか征服欲とか劣情や、ましては愛情なんかじゃなくて、純然たる恐怖だ。力の及ばない生き物がむやみやたらに暴力を振るうような幼稚な手段だ。大型犬を前に獰猛になる小型犬のように、噴き上がる衝動を押さえつけていられない。 そのことに気がついたときの俺の心は俺にしかわからない。絶望なんて二文字じゃ計り知れなくて、呼吸の浅さだけが手がかりになるような、むりやり言葉にするなら靄の中でうろたえるだけの迷子のような心境だ。それほどまでに、今俺の下で真っ白な胸を動かしている、全てを暴いたはずの存在が得体のしれないものに見えて仕方がない。内側を暴いたはずなのに。心臓を飲み込んだはずなのに。 2146 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ24「イタズラ」(2019/11/02)十八歳友の会・八年目 時刻はすでに午前様。でもでもここは勝手知ったるれんの家。 あたしとロールが設立した『十八歳の会』も今や『二十六歳の会』。数年前から定番の開催場所になったれんの家に、都合のついた飲んだくれたちは集結していた。 もう八年。長いような、短いような。仕事に熱中して、環境も変わって、恋する人はしたりなんかして。深く関わったこと預かり知らぬこと、多々大小あれどあたしたちはそれなりの心情を共有しているわけで。 今日の話題、その中心はれんだった。いや、たけるだったって言ってもいいかも。恋バナ、って言ったら少しちがうかもしれないけど、あたしたちはれんがとってもたけるを大切に想ってて、同じくらいたけるに想われているのを知っていたから。 1750 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ20「歌」(2019/10/04)遠くから聞こえる 聞いたことのある歌が聞こえる。夕暮れの足音が近づく窓の外から、子供の声が聞こえてくる。 穏やかなソプラノとアルト。淀みない旋律。本と本の隙間から見つけた絵葉書みたいに、その二重奏は俺の記憶を遠い秋風の向こうから連れてきた。合唱曲なんて、久しぶりに聞いた。 学校行事のコンクールとか、そういうのが近いのだろうか。そういえば、昔はそういう行事に積極的じゃあなかったっけ。あのときの自分が間違ってるだなんて思わないけれど、別の道もあったのかとは思う。横にいるコイツがついさっき耳にした音律をなぞる。ところどころ、キーが違うそれは記憶にある歌よりもずっと愛おしい。 俺はコイツが俺と同じような人生を歩んでいるとは思わなくなっていたから、当然知らないだろうという決めつけのようなものでもって合唱曲の題名を口にした。コイツはふうん、と言ったっきり、またたどたどしく歌い出す。気に入ったんだろうか。ソプラノパートとアルトパートをいったりきたりするコイツは、そういえばハモリパートを歌うのが下手だった。そんなことを思い出して口にする。 2539 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ19「みず」(2019/10/02)足下に星屑 別に隠していたわけじゃないけど、知られるのは気恥ずかしい。それこそ、プロデューサーにしか言えないし、言ってなかった。こんな、幼稚な夢。 雲に突っ込んで視界不良になるのすら愉快だ。星の間をくぐり抜け、真下にある町並みの灯す光を眺めている。こんなに間近にある月に照らされて、俺のシルエットが大地に降りる。風を裂く音を置き去りにして俺はスイスイと夜空を泳ぐ。 みんなは少ししたら飽きてしまったゲームだが、俺にとってはすごく楽しくてわくわくするゲームだった。内容は空を飛ぶだけ。朝、昼、晩。雨の日、雪の日、曇りの日。様々な日の空を渡り歩くゲーム。 勝敗はない。スコアアタックはできるが、飾りみたいなものだ。少しプレイしてお蔵入りになりそうだったのを、借りてきて、なんだかんだでずっと遊んでいる。 4276 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ18「ふく」(2019/09/20)フクワウチ 二人分の体重を受け止めた安っちいマットレスのスプリングはいつもどおり不満げだ。 腰掛けたオレ様が差し出した豆を受け取ったチビは、不思議そうな顔をしていた。 それはオレ様が何かをチビに差し出したってことを驚いてるんじゃなくて、単純に、今日と豆が結びついてないんだってのが、聞いてもいないのにわかった気になっちまった。 セツブン、って呟けば、チビはああ、って声を出す。流れに任せていたら正解に辿り着いた人間の、ちょっとぽかんとしたマヌケな声。チビのマヌケヅラってのはもう少し面白かったはずなのに、オレ様は全然笑えなかった。 「なんでだ?」 問いかけに含まれた意味の全てを理解したとは思えないから、いくつかの答えを投げてよこす。 2507 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ17「あせ」(2019/09/15)リベンジマッチ! 俺とコイツの間には一年と七センチの距離がある。 一年を感じるときは少ないけど、七センチは何気にデカい。見つめる時に目線が上を向く。キスをする時つま先立ちになる。抱き合うと唇が首筋に埋まる。そして、今、とか。 今、俺の脳裏にはどうでもいい疑問と少しの苛立ちがあった。熱帯夜って、どれくらいの気温からそう呼ぶんだっけ。知らないけど、きっと今日みたいな日を熱帯夜って呼ぶんだ。何もしなくても汗が吹き出てくるのに、俺は思い切り背伸びをして、同じように背伸びしたコイツが天井に向けて伸ばす腕からエアコンのリモコンを奪おうと躍起になっている。触れ合った部分の汗がくっつきあって、ますます暑い。コイツ、どういうつもりなんだろう。暑さで耳まで真っ赤だってのに。 2152 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ16「いろ」(2019/09/06)影のてのひら その日は雨で、俺は憂鬱で、食べたメシは味がしなくて、つけっぱなしのテレビは頭に入ってこなかった。 雨が降ればいいって思った。曇天を後押しするようにそう願う。星の見えない道、街灯がチカチカと瞬く道を歩いて、アパートの階段を上る。カンカンカン、って音ががらんとうの頭に反響してひどく痛い。俺はこんなにも雨音を待ち望んでいるのに。 鍵を差し込まずにドアノブをひねる。がちゃがちゃと反抗的な音が脳を揺らす。カンカンカン、がちゃがちゃ。埋まる音を言葉にしてなぞる。観念したように鍵を差し入れる。なんとなしに、負けた気分になる。 合鍵は作ったことがない。渡す相手なんていない。きっとここで倒れたら、俺を抱きかかえるやつなんて一人も居ない。死ぬ予定はないけれど、合鍵がほしくなる。受け取ってほしい相手を描く。乱雑にポケットにそれを放り込んで、勝手に上がり込んで我が物顔でテレビを見ているアイツが浮かぶ。 2627 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ14「ひまわり」(2019/08/23)月の王宮 アイツはヒマワリみたいだ、って。 言ったのは円城寺さんだったかプロデューサーだったか四季さんだったか、はたまた隼人さんだったか。いや、他の誰かかもしれない。何一つ覚えていなくて、理由も知らなくて、だからそうだとも思わなくて。だって、アイツがヒマワリって、なぁ。 でも、百合だとかバラなんかよりは近いのかもしれないって思ってた。仮に、花に例えるとしたら、だ。アイツを例える花。バシっとした確証を与えられないままだった十七歳の夏。疑問は一年後に溶ける。 「ヒマワリはね、太陽の方をずっと見るんだ」 こう言ったのはみのりさんだった。これは覚えている。だって、つい先日の出来事だから。 「確かに漣くんは何かをひとつ、じっと見るよね……それに、漣くんってずっとタケルくんのこと見てたから。当人は気づかないものなのかな。一年くらい前はそれこそ、ずっと見てたよ」 1796 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ12「おちる/おとす」(2019/08/19)共鳴ノイズ スポットライトに奪われた、心のタガが外れた月夜。 好きだと言った。縋るように抱きしめた。三度目の夜、キスをした。 三度とも、望む答えも恐れた返事もなく、コイツはなんだか不思議そうに、だけど愉快そうに笑っていた。 ただ、ただ、必死な俺を見て、ざまあねえなと笑っていた。 最悪だ。泣いてしまいたいのに涙なんかでない、歪んだ顔をしていたんだろう。アイツはそんな俺に気がついて、何か取り返しのつかないことをしてしまったと言わんばかりに慌ててみせた。もちろん、そんな動揺をさとられないように、偉そうな態度は崩しもせずに。 「……何でそんなツラしてんだよ」 最悪だ。何が悪かったのかなんてわかっていない、蟻の巣を潰す子供のような声。暴力的な無邪気さがあんなに近くに居たコイツをさらっていってしまって、俺だけが取り残される。なんだか、広い砂漠にぽつんといるような。たまに俺が抱くコイツへの畏怖っていうのは、自然に対するそれに似ている。 3359 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ11「よる」(2019/08/05)卒業(二人が高校生)宇宙でテレパス 名前も忘れた本で読んだんだ。夜は宇宙なんだって。 虫の知らせとか、ましてや運命なんかじゃない。これは、たんなる偶然。たまたま、ボールペンのインクが切れただけ。 コンビニで買える、缶ジュース程度の値段のボールペンが俺は一番気に入っていた。どうせ明日の朝、登校ついでに買うんなら、夜涼みがてら今買っちまえばいい。そう思ってパジャマ代わりのジャージのまんま、ポッケに財布だけ突っ込んで家を出た。財布の中身は見てないけれど、流石にボールペン代くらいはあるはずだ。余裕があったらスイカを模したアイスを食おう。そう思ってた。 街灯があったってなくったって月なんか見やしない。それでも、月よりも街灯がやかましいと思ったのは蛾が集っていたから。セミの声に風情を感じることもなく、さっきまで書き取りしていた英単語を思い出そうとして曖昧なスペルを脳でなぞっていたときに、声が聞こえた。 4363 85_yako_pDONEタケ漣。フェチの話。(2019/07/25)春に嵐 俺にはドラマの仕事が増えた。その日もドラマの撮影だった。円城寺さんもアイツもいない、一人きりの仕事。隣に誰もいないことにも慣れた。いいことなのか悪いことなのかはわからない。 その日起きた出来事は、人から言わせれば本当に些細な出来事なのだろう。共演していた子役の少女が、撮影道具だった百合の花をくれた。それだけだ。それだけの出来事が、俺にとっては大きな出来事だった。 手のひらの中の白百合。花言葉も何もわからない白い花。 花を見るたび、俺はアイツを思い出す。決して褒められないような、後ろ暗い感情という、モヤのようなフィルター越しにアイツを見つめる。さらさらとなびく銀の糸が甘い花の香りを纏って、俺は想像を映し出すブラウン管へと酩酊していく。 5666 85_yako_pDONEタケ漣。(2020年7月頃)タケルは漣を殴ったことを覚えてないんですけど、書いたときはわからなかったので間違えてます。 13067 85_yako_pDONEタケ漣のタイミング 85_yako_pDONE戦闘員と交渉人。DoS情報出る前の幻覚。 85_yako_pDONEタケ漣(2018/06/30)無自覚紐なしバンジージャンプ触れた唇は柔らかかった。俺の唇がコイツの唇に触れて、それを偶然と言い切るには難しいだけの時間が流れたあと、我に返った俺はそっと唇を離した。そう、我に返ったのだ。 何をしたんだろう。混乱する脳でめいっぱい考える。目の前にはアイツのマヌケ面。そんなに驚いた顔をしないでほしい。こっちだって充分驚いているんだから。 落ち着いて整理しよう。今は夜で、季節は夏で、ここは俺の部屋で、当たり前みたいにコイツがいた。俺たちは男道ラーメンでラーメンを食べたあとだった。帰り道、コイツが家についてくるから、何のつもりか聞いたら明日雨がふるから、と一言だけ返された。天気予報ではそんなこと言ってなかった。そう言いかけて、ふと空を見上げて、星が見えないことに気がついてそんなもんかと納得した。 4281 85_yako_pDONEタケ漣(2019/02/15)月には花が咲いていたって 名前も知らないそれを、ただ気に入っていた。 それが『青』という色だということも、それが『地球』という星だということも、全部全部後から知った。 名も知らぬ存在をただ見つめていた。伸ばす手もないまま、美しいという感情も知らぬままに。 それが幸せなのか不幸なのかもわからないままに。 昔の夢をよく見ていた。幼い頃からずっと。 ずっと旅をしていたが、そのどの景色とも違った風景は、きっとこうして生まれる前の景色だろう。こんなに風景がくっきりとイメージなんて出来るほど年を重ねていなかった時から、その景色は頭の中にあった。 思い込みだと無視をするにはあまりにもありありと浮かぶ情景。これは、夢想ではなく記憶だろう。一度だって疑ったことはなかった。 2178 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ9「きまぐれ」(2019/07/25)ハニー・スイートハニー「きまぐれだ」とアイツは言った。いつものことだと思ったが、いつもと様子が違っていた。 不服そうな顔。少し染まった耳。手に下げた紙袋。ちぐはぐな要素を拾いきれずにいると、その違和感のひとつが差し出される。見慣れないロゴの入った、茶色い紙袋。 戸惑いつつも受け取ると、早く開けてみろと金色の目が促す。律儀に止められたきれいな柄のテープを破ると、箱の底になにかがある。 取り出したそれはガラス瓶だった。ラベルが貼ってない方を見てみると、それはアイツの瞳とおんなじ色をした液体で満たされている。 「これって」 「……ハチミツ」 なんでハチミツを? 脈絡のない贈り物に困惑してしまう。きまぐれにもほどがあると、そう思った時にアイツは「きまぐれだからな」と前置きして、ぶっきらぼうに口を開いた。 1772 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ8「毛布」(2020/04)驚く顔が目に浮かぶ「オマエと一緒に暮らしたい」 そう言った時、偉そうに受け入れてくれた目の色がとてもきれいだと思った。このきらめきが神様の気まぐれだとしても、今、この瞬間だけは二つの宝石が自分のものになったような気がして嬉しかったんだ。 新居は二人で選んだ。アイツがやったことと言えば、オレが次々に持ち込む新居の間取りを見て「どうでもいい」と呟くことだけだったけど。それでも、二人で選んだ家に俺たちは住むんだ。新しいゲームを始めるよりずっとワクワクした。 部屋は和室が一つ、洋室が一つ。それとキッチンがくっついたリビングが一つで風呂とトイレは別。実際に踏み入れた部屋を見て、アイツは畳の部屋を自分の部屋だと決めた。アイツが家に関して意見を言ったのはこれが最初で最後。 4713 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ6「雨」(2020.1.4)未来で一番美しい声を 俺たちの世界は、雨の止まない世界になってしまった。いや、もしかしたら雨はいずれ止むのかもしれない。だけど現状、止む気配がない以上、ここは雨の止まない世界だ。 そんなもんだから、誰も彼もが傘をさす。空は灰色になったけれど、窓から見下ろす街並みはずいぶんとカラフルになった。傘は個人を表す記号になり、店先には色とりどりの花が咲く。人気モデルが手首にぶらさげた傘は品薄になり、俺は雑誌の特集で真っ青な影からレンズを見つめていた。 人々は傘同士がぶつからない距離感を学んで、今日もスイスイと歩道を泳ぐ。俺は事務所の窓から、咲き誇る円を縫う影を探している。 牙崎漣。 アイツはこんな世界に迷い込んでも傘をさそうとしなかった。小雨だろうが豪雨だろうが、お構いなしだ。雨ばかりの世界が始まって数週間のある日、ずぶ濡れで上がりこんできたアイツに文句を言ったらアイツは家にこなくなった。俺は吐いた言葉を飲み込むことができなくて、アイツに触れる機会のひとつを失った。 2965 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ「手」(2019/06/23)愛しのお猫さま 気が合わない俺たちは当然のようにすれ違う。どちらも悪くない。タイミングと気分の問題だ。 服の下に手を滑り込ませ背筋を撫でても、振り払うように体を捻られそのままシーツへと寝転がられてしまった。絡まない視線に、その行動が決して誘っているわけではないと理解しつつ、駄目元で横に寝そべり腕を絡めても閉じた目は開かず、口づけても唇は閉じたまま。意地になって舌を差し込めば、警告のように歯を立てられる。「なぁ、」続きは言えなかった。「ぜってーやだ」 あの手この手で誘ってみても全部が無駄だった。万策尽きた俺の耳にはいつの間にかコイツの寝息が聞こえていた。 別に、喧嘩をしたわけじゃない。ただ単純に、俺がそういう気分でコイツがそういう気分じゃなかっただけだ。そんな日もある。わかっている。 2101 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ4「ねこ」タケルくんが自慰してます。あと虎牙道がメイド服着てます。(2020/03/28)ジェットコースターは止まらない 本格的にヤバい。このまま進むと戻れない。俺は今、最悪の道を辿っていることがわかる。 多分この道の一歩目はアイツとお付き合いを始めたことだ。紆余曲折、と言うには余りにも短い期間でジェットコースターのように駆け抜けたこの恋は、頬に唇を寄せたあたりで一時停止。相変わらずの関係を続けているが、たまに俺の部屋で手が触れ合って視線が絡む。そんな日常的非日常で俺の脳裏を掠める一つの不安。コイツって、この先を知ってるんだろうか。 たぶん、キスは知っている、はず。ただその認識が俺のそれとは違うってのはわかってる。結婚式のキスであんなに動揺する人間、ましてや俺より年上の男は見たことがない。思い出す、頬にキスしたときの悲鳴のような声と真っ赤な顔。もうわかる。知識でしか知らない大人のキスをコイツにしたら、きっとオーバーヒートしてぶっ倒れる。 1904 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ1「初」(2019/06/09)その赤を 見つめ合う、だなんて間柄じゃないけれど、例えばふとした拍子にアイツと目があうことがある。そうなってしまうとお互いが「逸したほうが負け」だなんてつまらない考えに捕らわれてしまうことが多くて、例えば鳩が飛び立つ音だとかクラクションの音だとか円城寺さんの静止だとか、そういうきっかけがないと俺たちは、永遠と見つめ合う羽目になってしまう。 昔、だなんて言えるほど時間は経っていないけど、出会ってからずっとそうだった。向かい合って、その目を見ていた。金色の目がきら、と青色に染まっているのを見るのは、確固たる日常だった。そうやって、アイツの瞳を透かして見る青は、鏡で見慣れた青よりもキラキラしていて、きっと俺の姿は光と一緒に取り込まれているんだろうな、だなんて思ったりしていた。 1735 85_yako_pDONEカイレ(2018/08/24)言の葉ただ、純粋に綺麗だと思ったんだ。 俺は、ことあるごとにアイツの髪を綺麗だと思う。 それは例えば差し込む朝日を反射してきらめいている時だとか、動くアイツに合わせてたなびく様子だとか、俺の指をすり抜けていく様や手触りだとか、シーツの海に揺蕩う緩やかな曲線だとか、真っ白な背中を流れる音だとか、うなじから枝垂れ桜のように影を落とす様子だとか、そういったものを幸福な気持ちで美しいと感じていた。 常々ではないが、時折思い返したように心にじわりと広がるその好意を口に出したのは初めてだった。ベッドサイドに腰掛けるアイツの背中をさらさらと流れ、薄暗い照明のオレンジを吸収してぼやりと輝いている銀の髪。気がついたらその髪を指で梳いて、伝えると言うよりは呟くように想いを口にしていた。 4307 85_yako_pDONEカイレ。流血してます。(2019/5/25)鎮痛剤 これが物語ならば、きっとここに満ちる匂いは血と硝煙とオイルの匂いとでも表現されるのだろうか。ただ、そんなことを考える余裕はカイとレッカにはなかったし、仮に二人がそんなことを考えたとしても、当然のように戦場に沈んだ五感では、それは取り立てて形容することのない「日常」としか言えないだろう。 油断はできないが、焦燥もなかった。いつも通りにうまくやれば、何事もなく今日という日が終わると二人は確信していた。その証拠に、訓練どおりの精度でカイの銃は次々とアンドロイドの回線を撃ち抜いていったし、その銃の名手に近付こうとするアンドロイドは全てがレッカに阻まれ、数秒後には脳天を撃ち抜かれるか、首を蹴り飛ばされるかの末路を辿った。 3158 85_yako_pDONE漣の誕生日についての捏造。タケ漣。(2018/04/13)五月の嘘二年経って変わったこと。 仕事が増えた。自炊をするようになった。チャンプを引き取った。アイツを好きになった。 *** きっかけはアイツの19才の誕生日だった。 そのころの俺とアイツの関係は今と大して変わらない気がする。何かにつけてはりあって、ケンカをして、円城寺さんに宥められて、そんな関係を一年近く続けていた。 その日は何故か突っかかってくる声もなく、静かに、だけども誕生日の準備だなんだで慌ただしく過ごしていた。 急に教えられた誕生日に文句を言う人間は誰も居なかった。みんなでおりがみを折ったりアイツが気に入るかもわからない花なんか飾ったりして、いつもは片付いている事務所がオモチャ箱をぶちまけたみたいに賑やかになっていた。円城寺さんだけじゃなくて事務所の料理好きが楽しそうに腕を奮っていた。ただ、みのりさんが持ってきた花の名前を、最後まで俺は知らなかった。知っていることは本当に少なかったけど、確かにそこは幸福な空間だった。 5479 12