85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 437
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEFesの鋭百(ウォーリア×アサシン)です。全部幻覚!(22/7/1)ビショップは奪われてしまった 一息に飲み干した液体が喉を焼く。吐いた息からアルコールが香って酩酊を加速させていく。酒には疎いから味などわからない。ただ、ダイスで選ばれたのがこの無味無臭の毒だっただけだ。 6が出たらアルコールそのものみたいな酒、2が出たら赤ワイン。残りがなんだったかは覚えていないが、5が出たことだけは覚えている。だからウォッカ、のはずだ。ウォッカが、脳をぐちゃぐちゃにかき回している。 「マユミくんと戦いたい」 それはモモヒトの口癖だった。ことあるごとに、それこそ挨拶のようにモモヒトはその言葉を口にする。俺の返事は大抵NOだが、それではフラストレーションも溜まるだろう。だから定期的に模擬戦で相手をしているのだが、最近はその頻度がやたらと増えてきて困っているのだ。 4249 85_yako_pDONE百々人と天道とP。冷蔵庫のものを勝手に食べる牙崎に手を焼く三人です。(22/6/28)ももは魔除けになるらしい「百々人、名前借りていいか?」 右手にサインペンを、左手にコーヒーゼリーを持った天道さんが僕に問いかけてきた。僕が疑問を返す前に天道さんはおまじない、と口にして「百々人の名前を書くと漣に食べられないんだ」と笑う。 そこでようやく合点がいく。事務所の冷蔵庫に何かを入れるときには名前を書くルールがあるから、牙崎くんが食べないように僕の名前を借りたいということだろう。そう、牙崎くんは冷蔵庫にあるものを勝手に食べる。 「いいですけど……僕、一度食べられたことありますよ?」 僕も一度やられた。正直かなり怒ってるし根に持ってる。そんなこと、言い出せなかったけど。 「そうなのか。でもその一回だけだろ? 享介と四季が実験してたみたいけど、百々人の名前を書いとくと漣は手を出さないんだと」 2544 85_yako_pDONE遊園地行くクラファ。ムカつくモブがでる。鋭心先輩がらしくない。(22/6/26)あの日のあなたへ「おはようございます……あれ? 鋭心先輩、めずらしいもの見てますね」 事務所のドアを開ければ鋭心先輩がいた。俺の言葉を聞いて、さっき下でバッタリとあった百々人先輩が俺の後ろから顔を覗かせる。 「めずらしい? マユミくん何を見て……」 ああ、と百々人先輩は小さく吐息を漏らした。そうしてあっさりと、自然に鋭心先輩の横に座る。鋭心先輩は持っていた雑誌をテーブルに置いた。 「遊園地特集ですか。確か、彩のみんながこのまえ仕事してましたよね」 鋭心先輩が読んでいたのはレジャースポットの雑誌だった。彩のみんなが遊園地を一日中遊び尽くした特集が乗っている。 「ここにあったからな。他ユニットの仕事は参考になる」 俺はふたりの向かいに座って雑誌を開いた。百々人先輩はそれを覗き込んだけれど、鋭心先輩は目線だけを雑誌に向ける。 7796 85_yako_pDONEクラファのわちゃわちゃギャグ。100本チャレンジその30(22/6/18)足5mあるわけないじゃん! SNSで自分たちのことは検索しないようにプロデューサーからは言われている。個人的にはSNSに疎そうな鋭心先輩はインターネットから遠ざけるのが正解だと思うし、百々人先輩みたいな繊細な人が極端で軽率な悪意に晒されるのも耐え難い。だからそれには賛成しつつ俺だけがSNSを見ていたんだけど、普通にバレた。そしてシンプルに怒られてしまった。身内以外の大人に怒られるのって結構効く。 それでも俺にだって言い分はある。反応は見たくて当然。そう言えばプロデューサーは翌日には自らが精査したコメントだけを印刷した紙の束を俺たちに渡してきた。プロデューサー、過保護っていうか俺たちのこと好きすぎでしょ。 「これが俺たちに対する意見か」 1541 85_yako_pDONE想雨。雨彦さんがちょっとブレてる。(22/6/17)おかしな話 目の前の狐が似合わない雑誌を持っている。ホワイトデー特集と大きく書かれた雑誌はおそらく女性誌で、そういう一種のちぐはぐさは骨ばった長い指に支えられて奇妙なバランスを保っていた。 「雨彦さん、珍しいものを見ているねー」 似合わない、と言外に告げたつもりはないが、まるで避難されたかのように肩をすくめて雨彦さんは返す。 「よう北村。なに、面白いと思ってな」 「おもしろいー?」 「見てみるかい?」 そう言って雨彦さんが広げたページにはホワイトデーと聞いて連想できる限りの──あるいは想像の外にあるような様々なお菓子が散らばっていた。そこに、何かが書いてある。 「えっと……お返しに込められた意味ー?」 「ああ、奇妙なもんだ。どんな菓子をやるかによって、伝えたいメッセージが決まるんだと」 2019 85_yako_pDONE秀→百(22/6/14)束の間スパークリングタイム「百々人先輩の偽物が出ましたよ」 「え?」 アマミネくんがそう教えてくれたとき、僕は学生に相応しいファストフード店でハンバーガーを頬張った瞬間だった。喧噪の中でもまっすぐに届いたその声に、僕は短く疑問を返す。 「どこに?」 「夢の中です。俺の」 「そっかぁ」 夢の中ならどうでもいい。僕のアイドル活動に関わらなければ、偽物だろうが好きに生きていてくれても構わない。僕のそんな寛容な思考を余所にアマミネくんは続ける。 「鋭心先輩もいて、プロデューサーもいたんです。ファンだって大勢いました。でも気がついたのは、見破ったのは俺だけだったんですよ」 偽物がそんな輪の中にいたら、果たして本物の僕はどこにいたんだろう。そう疑問を投げかければアマミネくんは短く「さぁ?」と言った。これは本題ではないらしく、まだアマミネくんは話し足りないようだ。 1887 85_yako_pDONE眉見がかわいそうです。(22/6/14)彼の好きなもの、りんご。 マユミくんの脳天にカラスのくちばしが突き刺さってしまった。どうやら、カラスの自殺に巻き込まれたらしい。 世を儚み地面へと真っ逆さまに墜落したカラスの真下にマユミくんがいた。冗談のような、漫画のような巻き込まれかたをしたマユミくんは病院で精密検査を受けたが大事には至らなかった。事実、数日間の休養の後、マユミくんは元気に学校に通っている。 では何も起こらなかったかというとそんなことはない。マユミくんの脳に何が起きたのかは定かではないが、マユミくんの味覚は壊れてしまった。かと言って全ての味覚があべこべになったわけではない。マユミくんが理解できなくなったのは、リンゴの味だけだ。 マユミくんはもうリンゴの味がわからない。マユミくんがリンゴを口にするたびに彼が知覚する味は変わる。今日食べたリンゴは麻婆豆腐の味がしたらしい。昨日食べたリンゴは生ハムの味。もう少し前に食べたリンゴは生クリームで、病院のお見舞いで食べたリンゴはカレーの味がしたとマユミくんは言っていた。 2081 85_yako_pDONE秀鋭。暗い。100本チャレンジその29(22/6/7)おしまいにうたううた。 音楽には種類がある。喜びの歌、解放の歌、憧憬の歌、勇気の歌、喝采の歌、怒りの歌、嘆きの歌。感情の数だけ、営みの数だけ、歌がある。 そして祝彩の歌があるように弔いの歌がある。終わりのための歌がある。 いま手の届くところには鋭心先輩の体温があって、夜の帳に覆われたゆりかごには生きるための鼓動がある。相反するように、テレビに映った鋭心先輩は鼓動を失っていて、棺桶に敷き詰められた花々に埋もれながら同じように瞳を閉じていた。 隣で眠る鋭心先輩の血が通った赤い頬と画面のなかの青白い頬。そのどちらも自分のものにしたいだなんて、そんな欲深いことを考えてしまう。 人生を分け合おうと誓った日、俺が結婚式で流す曲を書きたいと言ったら鋭心先輩は喜んでくれた。そうやって、人生の節目に俺の存在を許してくれることが誇らしかった。 530 85_yako_pDONE鋭百。塩対応。100本チャレンジその28(22/6/7)水曜日よりの使者「マユミくんのラジオ、毎週聴いてるよ」 俺の大学進学と同時に、俺にラジオの仕事がきた。百々人はそれを受験勉強中の息抜きに聴いてると言っていた。 「マユミくんのラジオ、毎週の楽しみなんだ。マユミくんの声、すっごく落ち着くから好きだなぁ」 百々人は大学に入学してもラジオを聴き続けてくれた。その頃には俺たちは恋仲になっていて、百々人は俺のどこが好きかをよく教えてくれるようになった。 「マユミくんのラジオ聴かなくちゃ。マユミくんも紅茶、飲む?」 百々人の習慣は俺たちが同棲するようになっても続いていた。毎週金曜日の深夜二十五時になると百々人はいそいそとラジオをつける。インテリアにもなるだろうとプレゼントしたラジオを百々人は気に入ってくれたようで、慣れた手付きでレトロなダイヤルをくるくると回してチャンネルを合わせていた。 1528 85_yako_pDONE想雨。年の差。『海、ラムネ、金属』というお題で書きました。(22/6/7)海とナイフ「牙崎くんはさー、ラムネを知らなかったよねー」 夏の夜、ベランダから見た夜空には一輪の華も咲いていなかったけれど、僕はふと花火大会の日を思い出して口にした。夏休みの僕は家にいる時間が増えて、夏とは無関係に会社に縛り付けられた兄さんの代わりとでも言うように雨彦さんが恋人の距離で僕とベランダに並んでいる。ここにクリスさんがいない理由は確かに存在していて、色恋には明確なえこひいきがつきものだった。 「なんていうか、牙崎くんってちょっと浮き世離れしてるよねー。浮き世離れっていうか、人間離れっていうかー」 夏の大三角を見ながら、星見を得意だという男の顔を見上げる。雨彦さんは星を見ずにただ僕の目を眺めていた。 3934 85_yako_pDONE漣。SF。100本チャレンジその27(22/6/3)と或る白蛇の伝承 世界が氷に覆われてしまった。数日前から地球は絶賛氷河期真っ只中だ。 人類もこれまでかと誰もが思ったのだが、我々はどうしようもなく神に愛されていたらしい。敬虔な信者と都合のいい無神論者の祈りを受けて、神様は私たちに不思議なストーブをくださった。 この不思議なストーブは人の思い出を燃やし尽くして熱にする。思い出が大きく美しいほど、目に見えない炎は燃え上がって地球をわずかに暖める。 そこかしこに設置されたストーブには定期的に人が思い出を焼べなければならないが、誰だってそんなことはやりたくない。大きすぎる思い出を燃やした人間がどうなるのかはストーブの前でうなだれている死刑囚の様子から見て取れた。だから、人々はささやかな思い出を焼べて暖をとる。私は財布にいつの間にか入っていたミサンガの思い出を失って、今日も元気に働いている。仕方のないことだ。暖めなければ洗濯物は乾かないし、万物は死に絶える。 1367 85_yako_pDONE秀百。ピアスと攻防戦。(22/6/1)所詮は塞がる傷だけど 百々人先輩はよくわからない。恋人になってようやくこの人のことを知れるのかと思ったのに、わからないことのほうが増えたくらいだ。 ベッドの上に座って投げ出した足の、たいして柔らかくもない俺の太ももに頭を乗せて百々人先輩はだらだらと本を読んでいた。たまにこういうスキンシップを取ってくるくせに、定期的に「人肌は苦手」と言うのが先輩だ。なら俺が特別なのかと問い掛けても「別に?」と笑う、そういう人間が彼だった。 俺の恋は怖いもの見たさなんだろうか。百々人先輩のことを知りたいと、『好き』を持たずに投げかけた告白に百々人先輩はひとつだけキスを返して、双方明言しないまま俺たちの『お付き合い』は始まった。さして日常は変わらずに、たまに百々人先輩はワガママを言ったり、俺の家に行きたいと言うようになった。そして、そういうときだけ「僕たち、恋人じゃん」と宣うのだ。 5606 85_yako_pTRAINING秀鋭。練習。待てで躾けられてる後輩。いつか我慢できない後編を書いてちゃんと作品にします。性癖で書いたから解釈は息をしてないです。推敲もしてない。→書いた→https://poipiku.com/722200/7302933.html 2439 85_yako_pDONE秀鋭。キスの日。優位な受け。(22/5/26)キスの日だからといって 本日はキスの日らしい。 なので、俺はキスの日を理由にキスがしたい。 今日は思春期がそんな不毛な連想ゲームに囚われる日なのだが、今日という日はそれ以上の意味を持っている。今日は鋭心先輩の誕生日だ。 インターネットってよくない。こんな情報を知らなければ、少なくとも今日の俺はいい子の後輩でいられたはずなのに。よりにもよって、恋人の誕生日がキスの日だなんて。 でもそんな不埒な感情は、事務所で行われたささやかなパーティに置いてきたはずだった。鋭心先輩を祝うパーティが終わって、俺たちは鋭心先輩の家で三人だけのお祝い延長戦。そこにしつけのなっていない後輩は舌を出す余地もない。そのはずだった。それなのに。 『あ、僕忘れ物しちゃったみたい』 2885 85_yako_pDONE想雨。練り香水の話(22/5/19)謙虚、陶酔、初恋 季節外れの、金木犀の香りがした。 気がついたのはきっと僕だけだ。ここには雨彦さんと僕しかいなくて、ここにやってくる人間も今日はいない。ここは僕の家──というよりは兄の家で、家主はあと三日ほど、職場に閉じ込められるとの連絡があったばかりだ。 そんな兄さんの不在に乗じるのは少しだけ心が痛むが、こんなときでないと恋人ひとり呼ぶことのできない男が僕だった。別にひとりで暮らすのが嫌なわけでもそれが不可能なわけでもないが、ひとり暮らしを望む理由に雨彦さんが混ざるのは少し癪だった。しかし雨彦さんを除外すると一人暮らしをするための動機がない。結局僕には現状がしっくりと来ていて、この食えない男との逢瀬だって、頻繁じゃないくらいがちょうどいいんだ。 2554 85_yako_pDONE秀と漣。カプなし。漣の過去捏造。(22/5/20)靴がなければ歩けない 撮影があった。 選ばれた人間の共通点は所属事務所だけだったから同じ現場に集められた秀と漣の間にも共通点はない。お互いに天才を自称しているが、本人達はその言葉の本質が違っていることを理解していた。 撮影現場は廃校だが、まるで明日にでも授業が始まりそうな雰囲気だった。机、椅子、たくさんの本。ただここには通う生徒がいないだけで、本来の学校とはなにも変わらない。そうやって、本来の学校をからっぽにした空間が、この撮影施設だった。 撮影のための場所だから、本来の学校にはない部屋もある。例えば今アイドルたちが収められている衣装部屋なんかがそれだ。撮影のため、アイドルは各々自分勝手に制服やら、学帽やら、スニーカーやら、ヘッドフォンやら──目的がわからないメイド服まで、学校に関係があるものもないものも一緒くたに陳列された棚から思い思いの道具を手にとっては身につけ、壁に立てかけられた鏡を見ている。 3741 85_yako_pDONE秀と鋭。カプなしですが秀鋭に見えます。100本チャレンジその26(22/5/18)艶めく指先 よろしくないと思った。もちろんそれは目の前にいる男ではなく、俺のこの感情が、だ。 ユニットメンバー最年長。頼れる先輩。最強の生徒会長。尊敬というラベリングをされて棚に納められた感情という名の瓶が、突然の嵐で割られてしまったような感覚だ。そこにはたまに感じる親しみやすさとか、ちょっとかわいいと思う気持ちなんかが入り込む余地はなくて、代わりに俺の不埒な感情が棚の一番取り出しやすいところに収まっている。こんなのは鋭心先輩に抱いていい感情ではない。誰に抱いたとしても、それはたとえば恋人というカテゴリに入り込めない限り、隠し通さねばならない薄暗い熱だった。 ふ、と見ただけだ。プロデューサーも百々人先輩もいて、俺と鋭心先輩もいる。そういう、当たり前の風景にそれはそっと紛れ込んでいた。 1269 85_yako_pDONE鋭百。実在する万物とはなんの関係もありません。(22/5/17)世界に言葉は多くない マユミくんが虫喰いになった。 確か脳のなんとかっていう機能のなんとか中枢のなんとかって器官の出すなんとかという物質がどうにかなっちゃうらしくって、まぁ症状だけ言うと『言葉が喋れなくなる』病気だ。どうやら思考を言語化できなくなるらしく、脳を喰い潰されていくようだから、通称、虫喰い。 言語化ができない。ようは言葉が出てこないってことだから、その場で聞いた言葉なら復唱できる。とは言っても問題は思考と言語の紐付けだから、思ってもいないことは言えないというなんとも不便なものだった。 たとえば、ファンへの「ありがとう」なんかは僕やアマミネくんが言えば繰り返せる。マユミくんだって、おんなじことを思っているからだ。 2077 85_yako_pDONE秀百。ゲーム脳未満。100本チャレンジその25(22/5/12)ライフイズファンタジー「僕はアマミネくんが嫌い」 この人ともだいぶ仲良くなれたと思えてきた矢先、百々人先輩が歌うよう囁いた。なんだか楽しそうだから、そこだけは好ましい。 「……理由を、聞いても?」 思い出したように、ひさしぶりにこの人が少しだけ怖くなる。表情には出なかったんだろう、俺を気にせず百々人先輩は笑う。 「キミが世界の主人公だから」 「は……?」 「それでね、僕はラスボスなの」 そうして百々人先輩は人差し指をくるくると動かした。その動きに合わせてレッスン室の鏡にひびが入る──なんてことはない。起こるわけがない。 「主人公とラスボスが仲良くなっちゃったら、ハッピーエンドになっちゃうでしょ?」 ぴた、と止めた指を百々人先輩はそのまま俺に向けて告げた。 797 85_yako_pDONE百々人とTHE虎牙道。百々人くんが再チャレンジする話。願望です。(22/5/11)最初の一歩、次の二歩目。 ポン菓子が砕けてしまった。お米がどういうわけか形を変えた、軽くて甘くて脆いお菓子。 せっかくアマミネくんにもらったんだけどな。袋を逆さまにして粉々になった欠片を口に流し込みながら、僕はひとつの記憶を無意識に辿っていた。 すごく小さい頃、だと思う。僕が炊いたご飯がぐちゃぐちゃのおかゆになっちゃった日のこと。 形なんて覚えてないけれど、結果から考えればそのお米もこのポン菓子みたいに砕けていたんだろう。理由だってわからないけれど、小さかった僕がお米をとぐときに力を入れすぎたって考えるのが自然だ。そうやって一生懸命になりすぎた結果、ご飯はぐちゃぐちゃのべちゃべちゃになった。きっと僕の表情もべちゃっとしてたと思う。お母さんは僕を見ず、こう言った。 6927 85_yako_pDONE百鋭。自分でも解釈違いだけどトラウマ眉見が見たかったから書いた。食べさせるってのはえっちだ。嫌悪感のある描写、出来事あり。(22/5/9)秘密の味 恋の歌にも時期がある。出会いの春。恋人達のクリスマス。甘い甘いバレンタイン。それと、別れの冬。 ホワイトデーに愛の歌がいまいち流行らないのはなんでだろう。街角に流れる恋の歌にふと視線をあげたら、チョコレートを持って不敵に笑うアマミネくんが大きなポスターになって貼り出されていた。得意げに、そのくせ人懐っこい笑顔で笑いながらチョコレートをもらうアマミネくんというものは、女子達が色めき立つには充分だ。世はバレンタイン。アイドルは大忙しだ。 去年、僕たちにバレンタインの仕事はなかった。それがぴぃちゃんの戦略なのかたんに仕事がなかっただけなのかはわからないけれど、ありがたいことに今年は僕にもアマミネくんにもマユミくんにもお仕事がある。みんなバラバラだったのは少し寂しかったけど、一緒に仕事をした同年代の子とも僕は仲良くなっていて、この事務所で過ごした月日の積み重ねを実感した。 6915 85_yako_pDONE雰囲気概念の想雨。100本チャレンジ、その24(22/5/7)雨男「なにこれー?」 記憶の中にある小学校。その教室にそっくりな空間に僕はいた。教室には椅子と、机と、僕。後ろの壁や目の前の黒板には、僕の詠んだ川柳が所狭しと飾られている。黒板の真ん中に、誇らしげに賞状が飾られていた。 窓からは草原が見える。そして、頭上には飲み込まれそうなほど鮮やかな青空が広がっていた。そう、空が見える。 教室に天井はなかった。蓋のない箱のなかに僕はいた。扉の先の気配は華やかに萌えていて、きっとこの箱は草原の中にぽつりと置かれているんだろう。 どこに行くつもりもないのに僕は扉に手をかける。が、開かない。振り向いて開け放たれた窓を見ると、そこには雨が吹き込んでいた。僕の頭上は快晴なのに、外はひどい雨だ。引き寄せられるように窓から乗り出して外を見れば、覗いた窓の下には見知った人影が座り込んでいた。 950 85_yako_pDONE秀と親友。BAD ENDなSFです。なんでもあり。100本チャレンジその23(22/5/2)クラゲとスピカ 俺は世界を変えた。 だがそれは想像した手段ではない。俺が先輩たちと鋭心先輩の家で映画を見ていたとき、スクリーンから出てきた未確認生命体が俺を名指しして渡してきたパズルを解いたからだ。かちりと最後のピースを解いた刹那、世界が変わった。 カチカチカチ、と組変わっていく世界を俺たちは呆然と見守っていた。空には惑星が飛び交い、感情は溢れて金平糖になってこぼれ落ち、猫が爆発的に増え、木々は喋りだし、人々は少しだけ優しくなった。他にも謎の生命体が跋扈したり、血液が甘く香ったり、とにかく枚挙に暇がない。たぶん気がついていない変化もあるだろう。とにかく、世界は変わった。変わってしまった。 その日の晩、親友のことを考えた。世界は俺の想像通りには変わらなかったけど、この世界を見たらあいつはどう思うんだろう。変化した世界をネタにもう一度メッセージを送ってみようか。そう思ってしばらく開いていなかったあいつとのトークを開く。数ヶ月も無視されていたメッセージに既読がついていた。 1351 85_yako_pDONE鋭百のラブコメ。照れる眉見。(22/4/29)不完全犯罪「High×Jokerのみんなと、ゲーム?」 「はい。隼人がよかったらって」 High×Jokerのみんなと僕たち三人、それと、アマミネくんがよくゲームをするっていう大河くん。九人もいると多すぎないかと思ったけれど、これくらいがちょうどいい人数らしい。 「どんなゲームなんだ?」 「ええと、ウインクキラーって名前のゲームなんですけど……」 まずはランダムで犯人と共犯者が決まる。残りの人は市民と呼ばれ、犯人を特定すれば市民の勝ちだ。ゲームを開始したら全員で輪になって談笑をするのだが、その時に犯人や共犯者にウインクされた人間は数秒後に死んでいまい、脱落。全員が脱落するまえに犯人を見つけなければならないが、犯人の告発にもルールがあって──。 1659 85_yako_pDONE秀百。味覚音痴百々人という大捏造。(22/4/25)肉は肉。 俺が高校を卒業した翌月、もうとっくに一人暮らしを始めていた百々人先輩をなかば連れ出すようにして、俺と百々人先輩はルームシェアを開始した。俺と付き合う前から一人暮らしをしていた百々人先輩にふたりで暮らそうと声をかけるなら、こういう節目にしかチャンスがないと思ったからだ。 百々人先輩は二つ返事で快諾。あっという間に話は進み、桜と共にルームシェア、もとい同棲生活が始まった。新居の壁に貼られた家事の分担表は、小学校の教室に佇んでいた時間割みたいでなんだかむずかゆい。もっとも、俺たちの仕事は不規則な仕事だから大抵の項目は『できる人がやる』なんだけど。 数日は段ボールに囲まれて宅配ピザなんかを食べる日々が続いていたが、ようやく段ボールも片づいてきた。今日は百々人先輩の帰りが少しだけ遅い。俺は新品の調理器具を携えてたくさんの料理を作る。料理は唯一、出来る限りは俺がやりたいと言い出したことだった。 2120 85_yako_pDONEくろそらの習作です。(22/3/26)本末転倒 友情とはどのようにして育まれるのか。 人間はコピーアンドペーストで増殖したわけではないのだから、そんなものは『人それぞれ』だろう。しかし、清澄九郎からこの真摯な悩みを向けられたプロデューサー業を営む男は、持論を一般論のように述べた。 「んー、その人が好きなものに興味を持つ……とかかな」 「好きな人が、好きなもの……」 清澄は独り言のように呟いた。意識には、自らを「九郎先生」と呼ぶ人物を思い描きながら。 「例えば俺は読書が好きだから、好きな本を面白かったって言われたら嬉しいし……清澄も抹茶に興味があります、って言われたら嬉しいだろ?」 「それは、確かに……」 「だろ? なんつうか、わかりやすい好意の示し方だと思うんだよな」 1972 85_yako_pDONE秀百。事後のピロートーク。(22/3/15)完全犯罪 ベッドに沈み込んでいた。一分か、一秒か、それよりもっと長くか、一瞬か。 ふ、っと浮上して、まずは自分のからだを確かめる。どこも溶けてなくて、どこも欠けてなくて、どこもくっついちゃってない。こうやらないと、完全に百々人先輩と離れられたのかがわからない。 素肌に触れると潜り込んだ気分になる。舌が絡むと境界がわからなくなる。噛み付けば胃の中に押し込めた感覚があって、喘ぎ声を聞くと脳内が百々人先輩にジャックされる。そうやってからだの感覚が形を保てなくなるくらいドロドロになっちゃって、最後には証明のようにくっついてひとつになってしまう。 そうやって繋がると、ちょっと離れたくらいじゃわからない。百々人先輩に触れて、自分のからだに触れて、そこでようやく俺たちが別々の生き物だって、わかる。 3687 85_yako_pDONE百々人と九十九先生がアップルパイを食べる話です。(22/3/3)丸、三角、秘密 嫌だなって思った。この問いかけも、それを嫌だと思う自分も、全部。 僕と九十九さんは向かい合ってアップルパイを食べている。お仕事がアップルパイのイベントだから休憩にアップルパイが出て、仕事で一緒だったから目の前に九十九さんがいる。そういう当たり前の流れの中で、九十九さんが僕に教えてくれた。 とある海外では、アップルパイは代表的な家庭料理なのだ、と。 日本で言う肉じゃがとか、そういうものなんだろう。家庭によって味が違って、みんなが当たり前みたいに大切にしているもの。そういう日常の延長線上が、僕にいとも容易く投げかけられる。 「百々人さんにもそういう料理はあるか?」 取り留めもない話題だった。取り留めのない話題のはずだけど、僕にとってはそうじゃない問いかけだった。聞きたくもなかったけど曖昧に微笑んで、答えたくなかったから質問に質問で返す。 2740 85_yako_pDONE鋭百R18。18才以上ならyes。(22/3/2) 5803 85_yako_pDONE創作Pと漣。100本チャレンジその22(22/2/28)あとでちゃんと返した スクラッチくじが削りたかった。だけど手元に硬貨がない。 全然期待なんてしていない、駅前で気まぐれに買った安いくじだ。外回りの時にふと買って、デスクに座るまで忘れていたような紙切れが名刺入れを取り出すついでに出てきたものだから、それを机に置いて俺はもう一度ポケットを探る。ダメだ、財布はあっちの鞄の中だ。 山村くんはいまいない。事務所にいるのは漣くらいだった。漣は珍しく起きていて窓辺でぼんやりと空を見ている。窓辺の誰の席でもない物置代わりのデスクにどっかりと座って、真昼と夕暮れを彷徨う空をただ見ていた。 「漣」 名前を呼ぶと、漣は少しだけ首を動かしてこちらを見る。 「小銭があったら貸してくれ」 スクラッチくじが削りたかった。漣は財布も鞄も持ち歩かないけれど、少ない荷物のなにもかもをポケットに入れて持ち歩くことを知っている。それは万札だったり、商店街のたい焼き屋のポイントカードだったり、誰かからもらったキーホルダーだったりして、その中に小銭があることも珍しくない。 1195 85_yako_pDONER15秀鋭。かわいい年下攻め。(22/2/28) 4303 85_yako_pDONE百々人。保護者あるあるネタ。100本チャレンジその21(22/2/22)ケチャップで絵を描く 僕はオムライスが嫌い。 赤いマニキュアを見た。なんだか、ケチャップによく似ていた。 撮影の余り物らしいそのマニキュアをもらっていったのはワカザトくんだった。別の人がもらっていくかと思ったけど、そういうのは言わなかった。言う前に、彼はぴぃちゃんに笑いながら口にしていた。お母さんに塗ってあげるんだ、って。 ワカザトくんのお母さんは最近、赤い髪飾りを買ったらしい。だからきっと赤いマニキュアが似合うって、ワカザトくんはそう言っていた。ふと思う。僕のお母さんの爪は何色をしていたんだろう。 爪の色が思い出せない。もっと言うと、髪に何を飾っていたかも思い出せない。最近はもう顔を合わせることもないし、そう言えば一年くらい前から僕はまともに彼女の顔が見られなかったんだから当たり前だ。察知していたのは顔色だけで、それくらいがわかればあとは気にする余裕なんてなかったからどうしようもない。 1473 85_yako_pDONEタケ漣。思い通りにならない牙崎漣の話。100本チャレンジその20(22/2/19)恋よりはありえる。 最近、アイツの夢を見る。 真っ暗な部屋に、切り取った額縁のようにモニターの明かりが光っている。それは暗闇に溶け込むような机に乗っていて、ぼんやりと浮かんでいるようだ。 机の前には椅子がある。モニターの光で半分くらいは見えるけれど、足下が底無し沼のように真っ暗だ。そういう、落下を伴うような不安定さの上に、体育座りをしたアイツが乗っている。 俺はそれをぼんやりと見ている。手は思い通りに動くし、きっと声を出そうとしたら好きな言葉を投げかけられたはずだ。それなのに、俺はそれすら怠って、ただモニターの無機質な光に照らされるアイツの髪がちかちかと輝くのを眺めていた。 歩けば近寄れる。近寄れば、真綿から羽化した虫が羽を動かしたような音が絶え間なく聞こえてきて、耳鳴りみたいだ。そういうどうしようもない音はコイツを見つめているうちに意識の外に追い出されて、俺は完璧な沈黙の中でコイツを見つめる。コイツは俺の存在なんて知ることをせず、モニターをじっと見つめていた。 1047 85_yako_pDONE死体を埋めるクラファの概念です。ファンタジーなのでこわくないよ。(22/2/13)夢のあと『助けて』 日付の変わる少しだけ前、百々人先輩がグループトークにたった三文字を投げかけた。それ以上の言葉はなく、いつものように可愛らしいひよこのスタンプが押されることもない。 『どうかしましたか? 大丈夫ですか?』 慌ててメッセージを打てば既読が一件だけついた。先ほどの百々人先輩の発言にも既読はひとつしかついていないから、きっとまだ鋭心先輩は気づいていないんだろう。百々人先輩は俺のメッセージを見たはずなのに返事はない。ただ返事がないだけのたかだか数分間が、薄く引き延ばされて濁った膜を張る。 助けて、だなんて不穏な言葉だ。それに百々人先輩はこういうことを、あんまり言い出せない人だと俺は思う。そんな言葉を、こんな遅い時間に、たった一言だけ送ってきたんだ。きっと百々人先輩はとても困っているに違いない。 17104 85_yako_pDONE鋭百動物園デート。私だけのあなた的なやつです。(22/2/12)埋葬「マユミくんとデートがしたいな」 百々人がうっそりと呟いた言葉は俺に向けられたものではなかった。もちろんそれは秀やプロデューサーに向けられたものでもなく、たったふたりしかいないレッスン室の生ぬるい空気に霧散してく。俺はその言葉を拾い損ねていて、百々人はスマートフォンを手に持ったまま画面の中で踊るトレーナーの足下を見続けていた。 百々人の願いを叶えるなら、そのタイミングはいましかないんだろう。あと数十分ほどで秀が合流し、一時間もしないうちにレッスンが始まるのだから、いま、俺が何かを返すべきだ。 百々人がそっと零した言葉はどこか薄氷に似ていて、それを砕かないように、あるいは溶かさないように慎重に拾い上げる。鈍く水滴でてらてらと反射するような危うさに、自分の浅はかさが滲まないように言葉を選ぶ。一瞬の逡巡に浮かんだ言葉はどれも不完全な気がしてしまい、ようやく吐き出した気持ちに舌がもつれた。 9411 85_yako_pDONE百鋭。おなかのすいた百々人くん。100本チャレンジその18(2022/2/6)最初で最後 目が覚めて悲しくなった。どうしようもなく、僕はおなかがすいていた。 視界にはマユミくんの部屋がぼんやりと映っている。僕は寝返りを打つ。そうすると、目を閉じて規則的な寝息をこぼすマユミくんが当たり前にそこにいた。 片手の指では足りないほど、こうやってマユミくんのベッドで眠ったことがある。こんなに大きな家に客用の布団がないわけなんてなくて、つまりはそういうことだ。ただ伝えたい気持ちと性欲がどうしてもうまく噛み合わなくて、ちぐはぐなまま指を絡めたり、抱きしめあったりして夜を過ごした。 ここは僕の家じゃないから勝手に食べていいものはない。マユミくんは寝ているから空腹を訴えることもできない。もっともマユミくんが起きていたとしても、何かをうまくねだるというのは僕にとってはとても難しいことだった。冗談混じりに笑うか、表情を崩さずに我慢するか。それが僕に取れる『最善』だった。 1835 85_yako_pDONE鋭百。増える眉見と選ばなければならない百々人くん。100本チャレンジその19(2022/2/7)スイーツパニック マユミくんが二人になってしまった!曰く、二人のマユミくんのうちの片方はパラレルワールドからきたマユミくんだそうだ。 彼らが言うにパラレルワールドに至る分岐点を作ってしまったのは他ならぬ僕で、なんでも僕が何の気なしにチョコレートとビスケットを取り出して「どっちのお菓子、食べる?」とマユミくんに問いかけたのが原因らしい。そこでマユミくんがどちらのお菓子を選ぶかで世界は分岐するのだと、彼らは言う。それってマユミくんのせいな気がするけど、分岐点の発生が悪いんだって。 とりあえず便宜上二人は『チョコのマユミくん』と『ビスケットのマユミくん』と呼ばれるようになった。アマミネくんが頭を抱えている。 二人に明確な違いはないように見えるが、彼らには大きすぎる違いがあった。なんと、あろうことかチョコのマユミくんは僕に恋をしていると言うのだ。恋するマユミくんがいる世界とそうではないマユミくんがいる世界のどちらがパラレルワールドなのだろう。僕は自分がどちらの世界の花園百々人なのかがわからなくて途方に暮れる。 1138 85_yako_pDONE秀百々が海に行きます。夢の中の話だけど流血描写あり。(2022/02/06)海とイルカの作り方。 夢を見ていた。夢だとわかる夢だった。指一本、言葉ひとつままならないなかでこの美しいものをただ享受できる、そういう安寧をさざなみが連れてくるような、そういう類の夢だった。 海岸を歩いている。視線を右に向けると見える景色は夢らしく真っ白に断絶された空間だった。そうして左足を見つめると、寄せては返す穏やかな波がローファーにはじかれながら、履いた覚えのない真っ白な靴下を濡らそうと笑っている。 制服の裾が海風でなびく。遠くの水平線が、飴玉みたいな太陽を匿っている。朝のようで、昼のようで、時から切り離されたような時間だった。俺はこれを表す言葉を知らないけれど、夕暮れでも夜でもないことはわかる。 ふと見ると、手ではなく声が届く距離に百々人先輩がいた。しゃがんで、指先で何かを弄びながらそれを海に浸している。見慣れたパーカーの袖が水面に触れないか、それがやたらと気になった。 9900 85_yako_pDONEクラファの三人が花火を見る話。(2022/02/02)秘め事花火 去年見た花火はきれいだった。 僕の力ではその美しさをキャンバス上に表現することはできず、結果は佳作。今年は見る理由もないから花火大会があること自体を忘れていた。 「花火大会?」 アマミネくんのお誘いはそれなりに急だった。週末に花火大会があるから時間を取れないかと問い掛ける彼の言葉に僕が真っ先に引きずり出された記憶は、どっかにやっちゃった佳作を証明する賞状のことだ。あのつるつるとした紙の質感、あるいはざらざらと喉を削るイメージに僕の気分は少しだけ下がったが、それでも素敵なものを一緒に見るというのはとてもよいコミュニケーション手段だということはわかる。 「花火かぁ」 それに、花火はきれい。去年は掴めもしない光に手を伸ばした僕が悪いのであって、あの美しさを手の内に収めようとさえしなければ、僕は充分にあの輝きとうまくつきあえるのではないか。それなりに前向きになった気持ちに、マユミくんの硬質な声がひんやりと寄り添った。 6323 85_yako_pDONEタケルと漣(カプ未満)100本チャレンジその17(2022/01/31)太陽を掴んでしまった「太陽みたいだな、オマエ」 みたいもなにも、結果は陽性だったのだからコイツは紛う事なき『太陽』だ。『太陽』というのは俗称で、本当はカタカナのたくさん並んだ名前がついていたけれど、俺は正式名称を覚えていない。ただ、そういう現象──いや、病気があるというのはずいぶんと周知されていた。 太陽。なんというか、神秘的でやかましい病気だった。きらきら、というよりはぎらぎらと、煌々と髪が光るのだ。目を焼くほどの圧倒的な光量で、自然発火しない程度の熱を発する。太陽なんて大層な名前に怯んでいると、拍子抜けするような、そういう病気。日本人の発症は少ないが、それは髪が黒いケースが多いからなのだろう。コイツみたいな銀の髪が煌々と燃えるのは、なんだかちょっとかっこよかった。 1467 85_yako_pDONEP+百々人。アルコール中毒のP。『あさましきもの』のパロディです。(2022/01/25)あさましきもののパロディ「ぴぃちゃん、昨日お酒飲んだ?」 百々人さんにそう言われて自分が酒臭かったことを知る。百々人さんが言うとおり昨日は酒を飲んだし、なんなら一昨日も酒を飲んでいる。いや、飲んでいない日がない。自分自身で自覚しているほど、私はどうしようもないアルコール中毒者だった。 アルコールがやめられないと冗談混じりに伝えれば、百々人さんは少し笑みを潜めて口にする。 「そっか。……ちょっと、心配だな」 そう言った百々人さんがひどく悲しそうだったので、ああ、もしかしたらこの子のためならアルコールがやめられるのではないかと、そう思ってしまった。まっすぐに私を想ってくれる子に余計な心配をかけないためなら、私はこの悪習から手を引けるのではないかと考えたのだ。 1352 85_yako_pDONE秀と百々人。秀にトラウマスイッチを踏み抜かれる百々人です。(2022/01/22)傷名 僕にはきっと、脆いところがある。 自分が弱いとか傷だらけだとかは思っていない。でも、なんか、ちょっとした欠けた部分があるような気がしているんだ。ぽっかり空いた、虫歯みたいな、そういう部分が。 小さな穴の奥がちょっと空洞になっている。あ、って大きく口を開けないと見えないような、見えてもどれくらい深い穴が空いているかはちょっとよくわからない、そういう虫歯によく似た痛いところ。もちろん歯医者さんじゃない僕にだって深さのよくわからない、そういう傷。 たまにどうでもいいものが当たって痛む。甘いジュースだったり、冷たいアイスだったり、そういうものが傷にしみる。僕を傷つけるものは当たり前の顔をして世界中に転がっているものだから、ぶつかってしまうとちょっと息がしにくくなって、困る。 6117 85_yako_pDONE輝薫。すれ違う二人。100本チャレンジその16(2022/01/18)コーヒーは声をかける口実 二人きりの時間が、一人と一人の時間になって数十分は経っただろう。俺たちはソファーに腰掛けて、それぞれ好きなことをしていた。 桜庭は台本のチェックをしていて、俺は雨彦が出ている雑誌を読んでいた。最近は俺にも大人の魅力を押し出していくような仕事が増えてきたが、やはり雨彦や山下サンのような色気が出せるかと言えば難しい。事務所のみんなからは学ぶことが多いので、こうやってみんなの仕事を確かめるのは癖になっていた。 特集ページを読み終えて一段落したら、ふと視線に気がつく。ちらりと横に目をやれば、桜庭が台本を放って俺のことをじっと見ていた。 「……桜庭?」 短く、名前を呼ぶ。俺の意識が向いたことに気がついたんだろう。桜庭が口にする。 992 85_yako_pDONEクラファ VS THE虎牙道です。理想願望をたっぷり含みます。(2022/01/16)追記、呼称を訂正(2023/03/13)愛しき戦場 ぼんやり、事務所のソファーに沈みながら指先でつまみ上げた紙を見ている。僕が書いた『花園百々人』って文字と回答と赤い丸、そしてたったひとつのバツ。どこにでもあるような、平々凡々なテスト用紙だ。 「……あと2点かぁ」 もう一番になる必要は無い。だからどうでもいいはずなのに、やっぱり少し気になってしまう。どうしても順位が気になる悪癖から目を背けるために、僕はこの焦燥感の理由を探す。 「やっぱり、頭がいいほうがクイズ番組の仕事とかもらえるよね……」 僕はもう一部では有名人だから、いまさらバカのフリはできない。そもそも、生徒会長が揃っていることが売りでもあるユニットなのだから、それはぴぃちゃんのプロデュースからは外れてしまうだろう。 4800 85_yako_pDONE鋭百に巻き込まれる秀くん100本チャレンジその15(2022/01/14)【急募】犬。 嫌な予感は大抵当たる。これは予感でもなんでもないけど。 「秀……その、百々人は?」 別に鋭心先輩は百々人先輩の現在地点や体調が知りたいわけではない。それでも、ささやかな抵抗として彼が求める返答はしなかった。 「グループトークがきてたでしょ? 打ち合わせですよ。さっきまでいたんですけどね」 ぐ、と鋭心先輩が言葉に詰まる。そうして少しだけ考えるように息を吐いた後、意を決したように声を正して口を開いた。 「その……百々人は、何か変わりなかったか?」 「なにかって、なんですか?」 「その……たとえば……いつもと違うところはなかったか?」 この期に及んで明言を避けるもんだから、ため息ひとつをつけて返してやった。 「百々人先輩は鋭心先輩と喧嘩してたって、俺への態度は変えませんよ」 1247 85_yako_pDONE秀→百々。秀くんの片思いです。100本チャレンジその14(2022/01/13)素知らぬ視線 自分の歌声がテレビから流れているのにも慣れてきた。俺の声と、柔らかで少し掠れた百々人先輩の声と、真っ直ぐで力強い鋭心先輩の声が重なるのを聞きながら、やはり二人を選んだ俺は天才なのだと再認識する。 「変な感じだね。僕がふたりいるみたい」 柔らかな声は歌声とは少し響きが違う。俺はそのどちらも好きだし、そう伝えたこともある。百々人先輩は誰にだって向ける笑顔で、ありがとうと返しただけだったけれど。 「俺は慣れましたけどね。それに、これからどこにだって俺たちがいるようになりますよ」 返す声はひとつしかない。鋭心先輩は事務所にみかんを差し入れたあと、打ち合わせへと向かってしまった。テレビを見ているのは──ここにいるのは、山村さんに留守を頼まれた俺と百々人先輩だけだ。 1139 85_yako_pDONE牙崎と呪われた舞台の、あっさりとした話。(2022/01/13)春に殉ずるわけもなく アイツの名前を呼ぶ、悲鳴のような声が聞こえた。 プロデューサーの声だ。こんなヒステリックな声、らしくない。まぁ、アイツが問題を起こしたんだろう。少しの不安を拭うように、一緒にゲームをしていた隼人さんと一緒に、俺たちは声がした応接室へと向かう。 応接室ではアイツがソファに寝ころびながら本を読んでいた。プロデューサーは俺たちに気づかずに、その本をアイツの手から奪い取る。そしてその本を──思い切り、破り捨てた。 「なにしやがる」 アイツの声は平坦だ。ただ、聞いているだけ、みたいな。それに比べて、プロデューサーの声色は悲痛なほどだ。 「台本が届いても読むなと言ったはずです。この仕事は断りました。もう漣さんは関係がない」 6105 85_yako_pDONE鋭百。記憶を喰う眉見です。(2022/01/06)ももいろドロップ 頼れる人間を考えたとき、真っ先に浮かんだのは秀の顔だ。一寸遅れてプロデューサーのことも考えたがすぐに考えを打ち消した。結局は誰を選ぼうが変わらないのだが、俺には少しの後ろめたさがあったから秀を選んだのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら、スマホを取り出して秀に電話をかけた。 コール音がなる。一度、二度、三度。 『はい、もしもし』 「もしもし。秀か? 俺だ、鋭心だ。いま大丈夫だろうか」 『平気ですよ。どうかしましたか?』 「頼みたいことがある。駅に向かえるか?」 『大丈夫ですよ』 よかった。秀がダメだったらプロデューサーや連絡先を交換した事務所の誰かに頼むことになる。思ったよりも自分が安心したことに気がついて、やはり自分にはやましい気持ちがあったのだと知る。 7283 23456