85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 437
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONE鋭百。舌を噛む百々人。自分に自分は見えないってやつ。(2021/12/31)テル・ミー マユミくんと映画を見ていた。シアタールームにたったふたりで、部屋を薄暗くして、手も繋がずに、視線も交わさないまま。 罪悪感を覚えること自体が間違っているんだけど、アマミネくんがいない二人きりの時間にぼんやりと絡まっていた『なんとなく申し訳がないな』っていう気持ちが薄まってしばらく経つ。聞かれたらきっと教えるけれど、口にするほどの関係はここにはない。僕が言った、軽口に冗談を浸した布で自分でもわからない感情をぐるぐる巻きにした「好き」って言葉にマユミくんは一瞬だけキョトンとして、「嬉しい」も「俺も好きだ」も言わずに「なら、付き合おう」と言ったんだ。だから付き合ってる。僕はマユミくんが好きで、マユミくんが僕をどう思ってるかなんて、知らない。 5361 85_yako_pDONE後輩をからかう先輩二人です。100本チャレンジその13(2021/12/28)放課後アフタートーク 悪戯心にも満たない出来心だった。のんびりとただ三人で同じ空間にいるだけ時間に、僕は言葉を落とす。 「アマミネくんって天才なんだよね?」 改めて口にすると、なんだかすごい問いかけだと思う。そんな質問にアマミネくんは平然と答えた。 「ですね」 アマミネくんのこういうところ、すごいよなぁっていつも思う。アマミネくんが自信満々に返した言葉は、僕の望んだものだった。 「じゃあ、聞いたら何でも教えてくれる?」 「そうですね。俺が今わからないことでも調べればわかりますし、大抵のことは教えられますよ」 情報収集は得意なんです。そう誇らしげに胸を張るアマミネくんに笑いかける。 「じゃあ、教えてほしいことがあるんだ」 「はい、なんですか?」 870 85_yako_pDONE秀+百々人。恋になりそうにない話。100本チャレンジその12(2021/12/28)キミに恋してない たまにアマミネくんがきらきらしてるのって、なんでなんだろう。 例えば今みたいに三人でぼんやりとどうでもいい話をしているときなんかは、きらきらしてるって思わない。してるのかもしれないけど、ちょっとわからない。それでも、たまにアマミネくんはきらきらに見える。それは僕がアマミネくんに抱くぐちゃぐちゃした感情のせいなのかもしれないけど、それできらきら見えるってどういうことなんだろう。そんなことを思っていたら、アマミネくんはエスパーみたいに口にした。 「そういえば、好きな人がきらきら輝いて見えるって言うじゃないですか」 「え?」 「聞いたことがあるな」 マユミくんは賛同したけど、僕はとっさに「知らない」って言ってしまった。でも、「違う」と言わなかっただけ褒めてほしい。だって輝いて見えるのは好きでもなんでもないアマミネくんだったから困ってしまったんだ。いや、嫌いじゃないけど、こういうときに言う『好き』とは絶対に違うってわかってる。 1564 85_yako_pDONE○○しないと出られない部屋に閉じ込められたクラファです。嘔吐表現があります。(2021/12/27)羊の不在「状況を整理しましょう」 異常事態において、状況の把握は重要だ。俺の提案に百々人先輩も鋭心先輩も頷いた。幸い身の危険はなさそうなので、じっくりと腰を据えて考えよう。 「認識を共有しましょう。まず、俺たちは事務所の扉を開けた。ここまではいいですね?」 「ああ」 「そうだね。変なところもなかったよ」 よかった。ここから違っていたとしたら話にならない。いや、話をするまえに言うべきことが、まずあった。 「話の腰を折りますけど……先輩たち、俺の見てる夢ですか?」 「さっきビンタしあったじゃない。ちゃんと痛かったでしょ?」 「痛かったな。これは現実で……現実ではなくても、現実だと仮定して進めた方がいざという時に動けるだろう」 15458 85_yako_pDONE鋭←百。恋と遺影の話。100本チャレンジその11(2021/12/23)キミを看取るカメラ「マユミくん」 視線をあげれば、ぱしゃり、とシャッターが切られる音がした。レンズの向こう、百々人が俺を撮っている。昔に流行った機械だ。そのまま百々人の手の中に、映し出された俺の写真が収まった。 「なんだ。俺を撮っているのか?」 百々人は紙を振っている。なぜ、だろう。きっとなにか理由があるはずだが、それを取り立てて聞く気にはならなかった。 「うん。……遺影、撮ってる」 物騒なことを言う。だが、なぜか否定する気にはならなかった。それはきっと、百々人にとって必要なことなのだろう。ただ、はいそうですかと言うわけにもいかない。 「……死ぬ予定はない」 百々人は特に驚きもせずに言った。白状した、と言えるだろう。 「僕が殺すの。……いまのマユミくんは死んじゃうから、記念」 916 85_yako_pDONEアイツの概念が欲しいタケル。カプなし。100本チャレンジその10(2021/12/19)結局天井した アイツがいない。アイツがほしい。いや、語弊があるな。俺はアイツの演じたキャラクターが欲しかった。 俺たちがハマってるゲームに新規実相されたキャラクターの声を当てたのは、よりによってアイツだった。そのキャラクターのカードを入手すると読めるエピソードには既存のキャラクターもたくさん出てくるらしく、俺の好きなキャラクターもでるらしい。おまけにそのキャラクター自体も見た目がかっこよくて、しかも強いときた。紹介エピソードを見る限り、かなりの好青年であることも知っている。声がアイツなのにいいやつだとか、バグみたいだ。 最高レアリティで実装されたアイツ──便宜上アイツと呼ぼう──を手に入れようとして、手持ちのアイテムをすべて使ったけどダメだった。まぁ、とにかくこない。あと二万円使えば確実に手にはいるのだが、なんとなしにそれは癪だった。いわゆる『天井』と呼ばれる行為の初めてを、よりによってアイツに捧げるというのは、なんかムカつくから。 1233 85_yako_pDONE鋭←百。はじめましてが気楽な百々人。100本チャレンジその9(2021/12/19)いいこでいたいの 鋭心先輩に穴が空いた。それも、ふたつ。 ひとつは俺の記憶に、ひとつは百々人先輩の記憶に繋がっていたものだから、鋭心先輩からは俺たちの記憶がさらさらと流れ出してしまう。カップケーキに乗った銀色の玉のようなそれは必死に集めようとしても触れた瞬間に溶けてしまうから、拾い集めて戻すことも叶わない。 さて、どうしたものか。数日の後、プロデューサーがちょうど穴を塞げそうなパーツを持ってきた。珍しいものだからひとつしかないと、申し訳なさそうに告げて手のひらを広げてみせる。 探せばまだどこかにあるかもしれません。プロデューサーは希望的観測を口にしたあと、俺と百々人先輩を交互に見て黙ってしまった。気持ちはわかる。当事者は俺と百々人先輩だから。 1635 85_yako_pDONE秀鋭。R18。『木曜日/酩酊』の続きです。解釈が息をしてません。(2021/12/18) 10640 85_yako_pDONE仲良くなったクラファ三人の仁義無きクソ土産バトルです。100本チャレンジその8(2021/12/14)仁義無きクソ土産バトル 突然だが、話は半年前へと遡る。 半年前と言えば、俺たちの仕事も軌道に乗って個別の仕事や地方ロケも増えてきた頃だ。仕事に慣れるのと同時に俺と先輩たちの距離も近づいて、俺たちはそれなりに気の置けない仲になっていた。そう、俺たちは出会った頃に比べてかなり仲良しなのだ。これは俺が今からする話において重要な点なので念頭に置いてほしい。 そう、俺たちは冗談を言い合える仲になっていた。けしかけて、じゃれあって、みたいな。そうしたいわゆる悪ふざけの延長で、俺と百々人先輩の抗争は勃発したのであった。 「はい、アマミネくんのぶん」 そう言って手渡された地方ロケのお土産は鋭心先輩に渡されたお土産とはサイズ感がだいぶ違っていた。鋭心先輩へのお土産はおいしそうなフルーツゼリーで、なんでも百々人先輩が試食したなかで一番おいしかったのだとか。 1614 85_yako_pDONE鋭百。泣かせて泣かされる。100本チャレンジその7(2021/12/13)蛙の肝も要る。 未来から百々人がやってきた。なるほど、確かに未来の百々人らしく、内側から滲む雰囲気には落ち着きと余裕がある。これくらいなら演技の範疇と言えるだろうが、単純な俺はこの百々人が俺の机の引き出しから現れたという事象だけでこの事実を飲み込んでいた。タイムトラベルと引き出しを関連づけられた日本人は多い。もれなく俺もそのひとりだ。 百々人曰く、どうやら将来的に百々人は泣きはらして目を真っ赤にしてしまうようだ。そうして、非常に困ってしまうと言う。そこで、その充血を抑える目薬を作るため、材料である俺の涙を採取しにきたらしい。 そういう理由であれば協力しようと、俺は百々人が持ち込んだタマネギに爪を立てたり、輪ゴムでスネを弾いてみたりと努力はした。が、俺はもう18になる男だ。そんな簡単に涙はでない。百々人の応援虚しく、材料は集まらない。 967 85_yako_pDONE牙崎の死が受け入れられないPです。100本チャレンジその6(2021/12/11)空洞です。牙崎さんが死んでしまいました。 私が見つけたときにはもう絶命していて、どうにもこうにもならなかった。悲しすぎて涙すらでない。 困る、というよりは単純に悲しかったので、蘇生することに決めてからは早かった。私は悪魔と契約して、牙崎さんを見事に復活させたのだ。 ところがこの悪魔が適当な仕事をしてくれた。この牙崎さん、なんと、笑うのだ。恩を魂に刷り込まれたのか、私にだけ、ひどく柔らかく笑う。 無意識なんだろう。一度だけ肩を強く掴み「笑わないでください」と懇願したのだが、彼はいつもの不機嫌な声で「アァ? 笑ってねぇよ」と言うのだ。だからその言葉を信じようとして、あの笑顔を全部忘れようと努めて──また裏切られる。彼はふわりと、にこりとする。綻ぶ花のようなくすんだ黄色は、仏花の水仙を想起させた。 420 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ129「薔薇」(2021/12/10)満月に、薔薇一輪 見慣れた光景に溶け込んだ、見慣れた人間だ。来客用ではない、柔らかいソファに沈む銀色の髪と、寝息。 いつも通り事務所のソファで眠っていたコイツは、珍しく誰の干渉も受けずに目を覚ました。俺は台本から視線をあげてコイツを見る。春名さんが差し入れてくれたドーナツを渡さなければならないからだ。 ドーナツがある。そう言えば、寝ぼけながらぼんやりとこちらを見るはちみつ色の瞳。その瞳の奥に、なにか、違和感を抱く。 見慣れた瞳が見慣れないものを抱えている。満月のような瞳の奥に閉じ込められたように咲く、黄色い薔薇が見えた。 何重にも重なった花びらは瞳と色が似ていて、境界が曖昧だ。琥珀に埋まった虫のようなそれは何かを映しているだとか、そういうものではないだろう。どうにも現実感のないその花をじっと見ていたら、コイツは不思議そうに、不服そうに口をひらく。 3992 85_yako_pDONE秀鋭。性感帯を教えてくれる鋭心先輩。必死でかわいい年下攻め×余裕のある年上受け。性癖だけで書いたから解釈はごめん。(2021/12/02)木曜日/酩酊 別に必ず木曜日にいやらしいことをするわけじゃないけど、するとしたら木曜日だからちょっと意識する。別にいつやったって誰も怒らないけど、なんとなくの不文律だ。 木曜日は少し寂しい。木曜日には百々人先輩がいない。ちょっとだけ欠けていて、不安定さの上にふたりっきり、みたいな感じ。 毎週木曜日は百々人先輩だけ仕事がある。北村さんが受け持っている番組の短期レギュラーに選ばれているのだ。溶かした砂糖をまとった真っ赤なリンゴ飴に似た北村さんと、少しの着色料で着飾ったマシュマロのような百々人先輩が並んでいるのは、なんだか甘くて好ましい。そんな二人が学校帰りに集まって、ふわふわと都内を探索するっていう、そういう番組だ。 8021 85_yako_pDONEタケルと漣。名前が奪われた! 85_yako_pDONE初夜の後、コインランドリーに行く鋭百(2021/11/27)共犯関係 ぐちゃぐちゃだった僕の意識がクリアになって、痛みとか、匂いとか、温度で我に返る。 最初に脳裏をよぎったのは、あーあ、やっちゃった、って言う他人事みたいな単語だ。僕を抱きしめたままのマユミくんは僕の頼りない肩に顔を埋めている。現実逃避というよりは、なにかを繋ぎ止めるようにしっかりと、僕を掴んで離さない。 綿毛みたいな、ふわふわした存在じゃないよ。言おうとしてやめた。たまに、ぴぃちゃんじゃなくてマユミくんと一緒に居るときに、どっか飛んでっちゃいたくなるのは本当だから。 マユミくんの部屋は、ここに踏み入れたときみたいな正しさとか、道徳とか、そういうものを失っていた。今日僕たち二人がシアタールームじゃなくてこの部屋を選んだのには理由があって、そのわけを明言できないまま事に及んでしまったのがさっきの話だ。有り体に言えば僕らはセックスをした。それだけなのに僕は限りなく満たされて、たったひとつの物事が終わっただけなのに、ひどく、寂しかった。 6700 85_yako_pDONE牙崎のための言語が生まれる話です。オリP注意。100本チャレンジその5(2021/11/26)最小の宇宙 先日、世界に新たな言語が誕生した。その名も『牙崎言語』である。名の通り、アイツのためだけに作られた言葉だ。 『牙崎くんが日本語を喋ってるの、違和感あるよねー』 そう言ったのは自他共に認める変人だった。この変人は世界的に有名なクリエイターで、アイツを指名して曲を作りたいとオファーをくれたのだ。 『だから……牙崎くんのための言語、作っちゃいました!』 彼のこだわり、あるいは思いつきにより、世界には新たな言語が誕生した。牙崎言語。それはA4の紙に束ねられて俺の手元にもやってきた。どうやら数日間、アイツはこの言語しか話せないらしい。 「すごいよね。一から言葉を作っちゃうなんて」 プロデューサーは感心したように呟く。すべての言葉が網羅されているわけではないが、これで日常会話は賄えるらしいから驚きだ。発音はわからないが、とりあえず一通り目を通す。ふと、気がついたことがある。 839 85_yako_pDONE秀くんに全部バレてる鋭百が付き合う寸前の話です。100本チャレンジその4(2021/11/26)魔法のリボンでメタモルフォーゼ「百々人先輩に秘密を教えてあげます」 そう言いながらアマミネくんはしゅるりとリボンタイを解く。どうやらなにやら、始まるらしい。 「……いやらしい秘密?」 「別に脱ぎませんよ」 子供と大人の中間みたいな指先が、華奢なリボンタイを弄ぶ。そういえばリボンタイってつけたことがない。 「このリボンタイ……実は、つけると誰でも『天峰秀に見えるようになる』リボンタイなんです」 内緒ですよ。とアマミネくんは釘を刺す。僕は無視してカメラを探す。 「……ドッキリ?」 僕の返事を無視して手渡されるリボンタイ。特に何も言われていないが、僕はネクタイを外して心許ない紐を首にかける。これがドッキリならお仕事なわけだから、ぴぃちゃんの期待を応えないとね。 1717 85_yako_pDONEクラファ。桜に攫われる鋭心先輩です。100本チャレンジその3(2021/11/26)桜リタルダンド 鋭心先輩が桜に攫われてしまった。何を日科学的でバカなことをって思うでしょ? 俺もそう思う。 鋭心先輩と、俺と、百々人先輩。桜並木を名乗るには少しばかり力不足と言えるような、まばらな桜の中を俺たちはのんびりと歩いていた。丁寧で暖かい時間だったと思う。俺たちは仕事帰りで、次の仕事の話なんかをしながら、たまに視界を横切る桜の花びらに目を細めていた。 あっ、という間だった。眼前を完璧な形で通り過ぎた桜の薄桃色に視界を奪われた刹那、その向こう側に鋭心先輩の姿はなく、呆気に取られたような百々人先輩が頼りなく眉を下げていた。 「……消えた?」 「……どこにもいない……よね?」 消失マジック。ドッキリ企画にしては非現実的で撮れ高もない。こういうとき俺の取る行動は天才に相応しくない凡庸なもので、咄嗟にできたのはスマホを取り出して鋭心先輩に電話をかけることくらい。 1478 85_yako_pDONE薫輝。消失マジックの逆です。出現マジックであってますか?100本チャレンジその2。(2021/11/25)消失マジックの逆 消失マジックの逆って、出現マジックでいいんだろうか。定期的に、それを見せられている。 会場は夢の中。主演は桜庭。俺はパジャマで観客席に座り、たったひとりそのショーを独占していた。 桜庭は星屑のようなラメの入った、タキシードにおとぎ話を混ぜたような服を着て、大きなシルクハットを手に持っている。そうして、シルクハットから、ありとあらゆるものを取り出してみせる。 昨日はハサミを出してもらった。そうすると、現実世界にハサミが現れるって寸法だ。何も、俺の引き出しに送り主不明のハサミが増えるわけではない。そのままの意味なのだ。現実世界にハサミが生まれる。さらに言おう。桜庭がシルクハットから取り出すまで、『現実世界にはハサミがない』 846 85_yako_pDONE秀→百々人 85_yako_pDONE虎牙道。桜に攫われる漣。100本チャレンジその1。(2021/11/25)グラム98円 アイツが桜に攫われた。バカな話だが、真実だ。 今日の昼間の話だからハッキリと覚えてる。アイツを挟んで俺と円城寺さんは歩いていた。アイツは俺たちに挟まれてなお、一人でたいやきを食べながら歩幅をかったるそうに併せて同じく空間にいた。いつもどおり、有り体な光景だ。 仕事帰りだ。今日は円城寺さんに晩飯を食わせてもらうから俺は円城寺さんと一緒に円城寺さんの家に帰る。コイツはあがりこむために、同じ方角へと歩を進める。 なにげなく円城寺さんを見た。視界に見慣れた銀髪がチラつく。普段はやいのやいのとうるさいくせに、こうも静かにされるといよいよ俺はコイツに話しかけることがなくなるのだ。 俺は円城寺さんに今日の晩飯を聞いたんだ。円城寺さんが口を開く直前、唐突な春一番が吹き抜ける。春一番ってなんなのかわからずに使っている言葉だけれど、俺は桜を散らす乱暴な風を春一番と呼ぶのだと思っている。それが、一番春っぽいって思うから。 1826 85_yako_pDONE鋭百。目隠し鬼をする二人。(2021/11/18)夜に遊ぶ、名前を呼ぶ。「百々人」 そう恋人を呼ぶ、自分の声が好きだった。 百々人がそれを聞いて振り返り、笑う。そういった化学反応にも近い絶対を他人に求めても裏切られることのないという慢心に近いものがあったのだと思う。 言葉に灯る熱は時間帯で温度を変える。いや、太陽が塗り替えるのだろうか。陽光の届かない真夜中のシアタールームで百々人を呼ぶ声は、自分でも驚くほどに色に濡れていて、滑稽だ。 「なぁに? マユミくん」 満遍なく広がった夜の、ざらざらとしたスクリーン越しに見る百々人は楽しそうだ。ソファーで隣り合っていた距離をめいっぱいに詰めて、百々人は当たり前みたいに俺の肩に頬をよせて吐息だけで笑う。そうすると俺はどうしようもなく愛おしくなってしまい、いつも百々人にキスをしていいかを問い掛けてしまう。数秒の沈黙が俺たちの作法だ。百々人から与えられるものは肯定ではなく否定だけだから、なにも与えられなかったら俺は好きにするしかない。頬に触れ、薄暗い部屋で色彩を失った唇を舌で舐めれば百々人は口を少し開いて応じるように目を伏せた。ぱくりと呼吸を飲み込んで、そのまま背中を支えてソファーに押し倒す。俺たちはお互いに手探りで貪り合ったせいで、キスだけは大人の味を覚えてしまった。舌を割り入れて、内側に入り込み、百々人の目尻に涙が浮かぶような箇所を執拗に辿る。抵抗なのだろうか、奉仕なのだろうか──百々人が絡めてきた舌を甘噛みして、快楽から少しだけ目をそらすようにしてただ二人で息をしていた。 5781 85_yako_pDONEセックスしないと出られない部屋 VS 秀&百々人です。エロいことしないし、くっつきません。秀+百未満(2021/11/14)セックスしないと出られない部屋に百々人先輩と閉じ込められたアマミネくんの話。 暑くて、溶けそうだ。自分の血流がどくどくと脈打って、数少ない音である俺と百々人先輩の荒い息にノイズをかける。 「ぁ……はぁっ……アマミネくん……僕……っもう無理……!」 百々人先輩は規則的に動かしていた腰の動きを止めて、俺に泣きつくように声を出した。限界が近いのだろう──声がうわずっていて、掠れている。たったひとつを口にするために、ありったけの息を吐き出さなければ音にもならないほどに彼は追い詰められていた。は、と熱い呼吸を吐き出して、限界に近いからだを震わせている。 「へたってても……いいですけど……っ! 俺は、まだっ、動きますよ……!」 そう宣言したはいいものの、俺だって酸欠で頭がチカチカしている。ほんの少し動くだけで汗が滲んで感覚が宙に浮く。熱がじわじわと脳の裏側まで侵食してきて、悲鳴のような百々人先輩の吐息と俺の呼吸の境界を曖昧にしていくから、なんだか俺は意識が部屋の温度とぐちゃぐちゃに混ざっちゃって、自分が自分でなくなるような恐怖があった。 6973 85_yako_pDONE百々人くんが想楽くんと旅をする話。(2021/11/11)キミと一人旅。 部屋が散らかっている。必要な物、不要な物、必要だったはずのもの、もう価値のないもの。 必要な物は必要な場所に。不要な物はまとめてゴミ袋に詰めた。そのあたりで手が止まる。必要だったはずのものは無価値に成り果てて、嘲笑うみたいに僕の部屋に転がっている。 テニスのラケットはもう要らないな。僕は個人戦で三位だった。 書道の道具もいらないな。僕は佳作をもらった記憶がある。 そんなことを言ったら、ここらへんに散らばった賞状やトロフィーなんてもっといらない。賞状は裏が白いからメモ用紙にできるけど、トロフィーの使い道は本気で思い浮かばなかった。捨てたらマユミくんが怒るんだろうなぁって考えて、気が滅入る。こんなのあったって邪魔なんだから、大事だと思うんならもらってくれればいいのに。マユミくんの家って広そうだし、置いといてよ。 12583 85_yako_pDONE野宿する百々人を保護する牙崎。カプなし。昔書いたから牙崎くんへの呼び方間違ってます。(2021/11/06)星屑ダイアローグ 今日、夏が終わったことを知った。僕が着てるのは半袖だし、ぴぃちゃんがくれた差し入れはアイスだったし、晩ご飯はそうめんが食べたかったけど、それでも今日という日は夏の死骸みたいなものだったようだ。 空が、少しだけ高い、気がする。遠くまで塗りつぶされたような夜空だから、気がするだけ。見上げた星空には夏の大三角が見当たらず、僕は暇潰しの道具をひとつ失った。たったみっつしか数えるものがなくたって、それで数時間はのんびりとするつもりだったから。 星は脆い光を放っている。弱々しくて、砕けたクッキーみたいだ。数え切れないほど遠くに光った星を見ながら、僕はこのまえ食べた新発売のクッキーを思い出す。思えばそういうところに秋の足跡があったのかもしれない。そろそろきっと、さつまいものお菓子がでるだろう。 10350 85_yako_pDONEお題「幸福」で書いた輝と薫のBL(便宜上薫輝にしてます)支離滅裂な酔っ払い桜庭による理不尽トークです(2021/11/04)不合理ヒーローショー「例えば世界中の人間が幸せになったとする」 桜庭の言葉は唐突だった。それは桜庭が泥酔しているという事実があったとしても、星の見える夜に雨が降るようだ。 桜庭にまとわりついたアルコールの匂いは普段の彼からは考えられないほど重く、濃い。その理由の大半は俺にあって、原因は目の前の酒瓶だ。頂き物の酒はアルコール度数の高さに反して量が多く、それでいて飲みやすかった。調子に乗ったのは俺で、俺からコップを取り上げて代わりに酒を飲んだのが桜庭だ。桜庭はたまに俺の前で気を抜くものだから、気がついたら男二人でソファーに沈み込んでいた。水を飲もうと立ち上がろうとすれば桜庭は瞼をあけて、唐突に口をひらいて言ったのだ。 前提の言葉だったから続きを待った。桜庭は酒でおぼろげな目をこちらに向けて言った。 3601 85_yako_pDONE鋭百。らぶらぶです。同性婚の話をするし、それに対して楽観的です。(2021/11/03)まほろばレイトショー「マユミくんとラブホに行ってみたいな」 唐突な言葉は脈絡がない。ただ、それは俺の意識を目の前の映画から簡単に引き離す。アクションシーンの爆発の音が少しだけ遠くなって、俺はただ横に座る百々人の顔を見た。 百々人はこちらを見ていた。いつからそうしていたのだろう。百々人の目線は俺の鎖骨の辺りと瞳を行ったり来たりしていて、映画で画面がちかちかと光るたびに瞳の明暗が踊る。欲を煽るような言葉とは裏腹に、その視線は申し訳なさそうにおどおどとして痛々しかった。 百々人にはこういうところがある。たまにふと願いを口にしてみせては怯えるような、試すような目でこちらと見ていることがある。例えば自分には子供はいないけれど、叱られた子供が母親の機嫌を伺うときにはこういう顔をするのではないかと考えてしまう。そういう目だ。 4522 85_yako_pDONE月がきれいですね系の想楽雨(2021/11/1)いつかあなたと海岸で 月がきれいですねってやつ、たぶん伝わると思うんだ。雨彦さん、僕はね、あなたを愛しているんだ、って。 それでも例えば僕が雨彦さんの家に行って、ベランダから見える位置で電話を鳴らしてちょっと月を見ませんかなんて言う日はたぶんこない。きてたまるか、くらいの心境だ。雨彦さんがどう反応するかは何パターンもイメージが浮かぶけど、必ずそこには僕の若さってやつが浮き彫りになってしまうのは目に見えていて、それは僕の望むところではない。 メッセージはどうだろう。ねぇ雨彦さん、月を見て。雨彦さんがどう捉えるかはまだわからないけど、その表情が見えないのはちょっと、いや、かなり惜しい。照れるにせよ、笑うにせよ、それは一回きりの表情だと思うから。 1954 85_yako_pDONE鋭百と深爪とセックスとイチゴ味の話。(2021/10/31)君のための僕はイチゴ味 シアタールームってでっかい音を出してもいい部屋のはずなのに、なんの音もしてない。マユミくんの呼吸は一定で、僕は自分の呼吸になんて意識が向かなくて、心臓の音は平常だ。 真っ暗な画面は始まりを待ってはいない。いまは、映画が終わったばっかり。それなのに僕らは感想も言わず、興奮も得ず、ただぼんやりといつものより近い距離で、この快適な空調の効いた部屋で体温をわけあっている。 マユミくん、と呼びかけて彼の首筋に頬を寄せた。ゆっくりと血の通う感覚があって、ふいに首筋に歯を立てたくなる。イタズラをするつもりで口をひらけば頬を撫でられて、そのままマユミくんは僕の呼吸を飲み込んだ。舌が絡んで気持ちが良くて、もうマユミくんの首筋なんてどうでもよくなってしまう。背中に回された手に体重を預ければ、そのまま柔らかいソファに押し倒された。 4105 85_yako_pDONE秀→鋭。悪夢を見る鋭心先輩と、それが気になる秀くん。(2021/10/27)いかんともしがたい「最近、悪夢を見る回数が増えた」 そういえば、と鋭心先輩が呆気なく打ち明けた言葉を聞いたのは俺だけだった。自販機のぶーんという無機質な羽音を背に、あろうことかそれに対して俺が返した言葉は「新人紹介ラジオのトークテーマにしては、ちょっと。」だったから、なかなかどうしてままならない。 事務所の先輩がすでに受け持っているラジオへのゲスト出演が決まった俺たちは、デビューしたてのアイドルがもらうには十分すぎる尺を飾るトークテーマをあれこれ考えているところだった。今は小休止ということで、俺は自販機の前でお茶かコーラかを悩んで、結局ボタンを同時に押して決めたりなんかをしてみてる。そうしたらいつの間にか背後に鋭心先輩が居て、なんの脈絡もなく「そういえば、」と口を開いたわけだ。 9932 85_yako_pDONE秀百々。自覚してしまった秀とよくわからん百々人。(2021/10/25)ネームレスラブソング 秋の花が綻ぶ香りは空の高さを意識させる。見上げる空に浮かんだ飛行機雲を指さしたってもう俺の隣にアイツはいないから、一枚だけ写真を撮ってどうでもいい一言を添えてSNSに投稿した。顔も知らない人間に拡散されていく空は平等に広がっているんだから、今日はカーテンを開けて空を見ていてくれたらいいんだけど。 冬に備えるように恋の歌が増えてきた、と思う。手のひらの温度を求めたり、一人寝の夜を怖れたり、クリスマスに浮かれてみせたりする、そういう歌。ちょうどいい長袖があっという間に店頭から消えるように、秋は戦線に乗っかれないままに金木犀を道連れに死んでいく。そういえば、俺もあまり秋の歌は作らない。 いま作るとしたら騒がしい歌になりそうだ。高校生になって生徒会長になって、金木犀の香りは多忙と結びついた。文化祭シーズンになって俺は少しだけ慌ただしく過ごしていたし、同じくらい先輩たちだって忙しかった。 3155 85_yako_pDONE秀→鋭です。踊る二人。(2021/10/24)シャンデリア・ワルツ 三拍子は馴染まない。ワルツは踊り慣れない。指先を伝う体温には、いつまで経っても心が追いつかない。 レッスン室には俺と鋭心先輩がたったふたりきりで満ちることのない呼吸を交わしていた。メトロノームの無機質な音に操られて俺と先輩はくるくると回る。見慣れないワルツは俺のロングスカートの裾をひらりと踊らせた。 右足で裾を翻してターン、離れては引き寄せられて腰を抱かれる。ツーカウントで後ろへ仰け反りすべてを先輩に委ねれば、晒された俺の喉元に先輩の薄い唇が触れた。 「……一度、休憩にしよう」 首先を吐息が掠めて数拍、体温が他人となって離れていく。俺は数歩遅れてスマホの元へと歩み寄り録画終了のボタンを押した。 「一度チェックしてみますか」 2508 85_yako_pDONE秀と百々人の会話。(2021/10/19)ワールドエンド・アンチヒーロー「あ、また死んだ」 口に出したのは僕だったかアマミネくんだったか。わからないけれど、この言葉は特に拾われずに独り言になる。どちらが言った言葉にせよ、どちらも思っていたことだから拾い上げてまでシェアをするのは手間だった。 コンティニューの文字なんかもすっ飛ばして、アマミネくんの分身はさっき挽肉になった地点の三分前へと戻される。何度も何度も死んで、何度も何度もトラップにかかり、何度も何度もゾンビの集団にタコ殴りにされ、それをひとつひとつ覚えて次こそはと先に進む。敵の位置を覚えては殺され、鉄球の下敷きになってはタイミングを悟り、と、よくもまぁ挫けずに進めるものだ。 アマミネくんがやっているのはいわゆる『死にゲー』と呼ばれるものだ。どこまで真剣にやっているのかはわからないけれど、合間合間に僕を気にして視線を寄越している様子を見るに、さほど真剣ではないのだろう。僕は僕でアマミネくん本体よりもこのゲームに感心があって、つい視線はアマミネくんの手元に集中してしまう。同じ空間にいて、同じ時を過ごし、お互いを気にしているのに視線はあまり絡まない。そんな時間は悪くない。良くもない。つまり、普通。 4546 85_yako_pDONE解釈を寝かしつけて書いた、性癖だけの鋭百々です。ペディキュアとセックスの話。(2021/10/18)ひみつの、二人 違和感は絵の具の赤に似ている。もうとっくに捨ててしまった絵の具セットの、一番右端にいた赤い色。 たとえばシャワーを浴びたりしながら、どうしようもなく視線が下がったときに僕はそれを見つける。当たり前みたいにくっついてる足の指10本。その全てにべったりと塗られたペディキュアは何回見たって不自然だ。濃くて、べったりとしていて、人間が肉の下に隠さなければいけない色がてらてらとまとわりついている。生とは切り離せないその色は、ひどく美しい。 感情の色だと思う。マユミくんの色だと思う。事実これを塗ったのはマユミくんだから、間違っちゃいない。どうしても欲しいとねだったものは二転三転形を変えて、今はこの色に落ち着いている。 5052 85_yako_pDONEまだ理解が浅い。秀くんと百々人くんのSF(少し不思議)です。(2021/10/10)絵画旅行 秋晴れの日だった。そのたったひとつの印象さえ日常に希釈されて色を亡くしている、ありふれた日になるはずだった。 そういう類の無味なキャンパスを俺たちくらいの学生はノートの余白のように持て余してして、例えば両手をペンキまみれにした子供がいきなり触れてくるような奇跡を待ち望んでいる。でも、得てしてそういった色は思ったように絵にはならず、大抵は混ざり合って泥のような色になってしまう。図工の時間から知っているはずなのに、俺たちはいつまで経っても懲りることがない。 そんな秋晴れの日だ。生徒会の仕事が中途半端な時間に終わり、俺はのんびりと下校していた。帰りに買い物でも行こうか、と思案する。隣に親友の姿はないが、通りの靴屋は勝手にセールをやっているしコンビニのホットスナックは一人分より余計に温まっている。別に、肉まんとピザまんを一人で買ったっていい。誰かと半分こなんてしなくても、晩ご飯が食べられる程度には男子高校生というものは食べ盛りなのだ。俺には俺がいる。自分に似合う靴くらい、ひとりで選ぶことができる。 5626 85_yako_pDONE百々人くんの幻覚。口調と呼び名がサイスタPと若干違います。Pと百々人くんの交流です。(2021/09/27)キムチ以外。 花園百々人にはかわいいところがある。 くぅ、と鳴った音に百々人くんが困ったように笑う。時計を見れば午後三時。育ち盛りはお腹が減る時間だろう。 事務所は平素を鑑みれば、ビックリするほど静かだった。賢くんはあと少しでくるとして、ここにいるのは百々人くんと、いつの間にかソファで眠っていた漣くんだけだ。 学校帰りの子供たちで賑わう平日に比べ、休日は静かなものだった。それでも百々人くんはその静寂を好んでたびたび閑散とした事務所に訪れる。最初は事務仕事を手伝うつもりだった彼も、私の言葉に自分のやるべき仕事を見つけたようだ。のんびりと休んで、たびたび私と一緒に仕事をする。休むこと、それすなわち仕事のうち、だ。 1750 85_yako_pDONE四季漣と彼シャツのラブコメです。(2021/09/22)成長期ビリーバー 彼シャツ。 それは恋人が来てくれるシャツ。あのだぼっとしててかわいい着こなし。萌袖になったりして、なんならワンピースみたいになっちゃったりする魅惑のアレだ。 なにより恋人が自分のシャツを着ているというシチュエーションがたまらない。そんなのお泊まりじゃん。よっぽど親しくないとそうはならないというか、なんというか男の浪漫がギッチギチのミチミチに詰まった服装。それが彼シャツだ。 そんな話をしていたのが、確か数日前だと思う。 彼シャツいいよなぁと頷くハルナっち。真っ赤になりつつも同意するハヤトっち。そしてオレ。 アイドルをやるようになってから特定のアイドルで妄想……想像をするのはちょっとやりにくくて、各々が理想の美少女で妄想を膨らませるなか、オレはお付き合い中の美人さんを思い浮かべていたのであった。 3368 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ114「遊」(2021/08/06)不公平ゲーム「シユー?」 「試遊、な」 「ふーん」 俺の手元を覗きこんでいたコイツは頬に触れそうなほどの距離をあっけなく離す。シユーの意味を聞かなかったのは興味がなかったわけではなく、単純に面白くないという気持ちが勝ったのだろう。 さっき散々プロデューサー相手に騒いでいたから、言いたいことはもうないらしい。それでも気が済んでいるかといえばそうではなく、俺のことをじっと見つめている瞳は不満げだ。 「……なんだ?」 「チビだけかよ」 「オマエはゲーム好きじゃないだろ」 俺の手元には、まだ販売されていないゲームがある。俺が何度かインタビューやトークで「好きなんだ」と話していたゲームの続編、そのテストプレイをなんと俺が担当することになったのだ。 4855 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ98「朝」(2021/04/12)まよなかごっこ 朝がこない国があるらしい。夜にならない日のさかさまだ。表があれば裏があるように、たいていのものにはさかさまがあるんだろう。 朝がこない国は真っ暗なんだろう。きっと寒くて、静かで、透明だ。なんとなしに、悪いものではない気がしている。そこではきっとアイドルでいられないだろうから、行きたいとは思わないけれど。 朝がこない国はずっと夜だということだ。夜について考える。当たり前に思考に居座る、恋人のような獣について考える。 「なんだこれ」 「カーテンだ」 「見りゃわかる」 コイツは新調したカーテンを数回揺らして、どうでもよさそうに呟いた。いままでぶらさげていたぺらぺらのカーテンとは違って、このカーテンは太陽の光を少しだって通さない。カーテンを閉じたら真っ暗になって、昼間でも電気をつけないとならないだろう。 3069 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ97「嘘」(2021/04/02)例えば別れの言葉とか「なんで嘘なんざつくんだよ」 コイツは『できない』とは言わなかったが、演技をする対象のことがわからないというのは『演技ができない』と言っているのと同じことだろう。いつだって当て書きの役がもらえるわけじゃない。コイツの演じる青年は嘘吐きではなかったが、最後、ひとつだけ最初で最後の嘘を吐く。たったひとり、愛する人間のために。 「それは……相手のことが好きで、大切だからだろ」 かと言って俺は嘘は吐かないし、吐けない。嘘を吐こうと思ったことはないが、考えただけで喉の奥に重さのあるモヤのようなものがまとわりついて気分が重くなる。コイツが同じことを思っているかはわからないが、嘘が吐けるタイプではないのはわかる。円城寺さんはどうなんだろう。あのひとは優しいから、優しさから嘘を吐く人間の気持ちがわかるかもしれない。 1429 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ95「見」ダニレナ(2021/03/19)通り雨のあとに「見世物じゃないぞ」 レナートの言葉が自分自身に向けられたものだと認識するのに少し時間がかかった。だってレナートはおれと会話するときは必ずおれの名前を呼ぶからだ。 だから謝罪も反論も出来ずにただ「ああ、」とだけ答えてしまった。向けられた先がわからなかっただけでその言葉が示す意味はわかっていたのに、目線を逸らしもせずにそう答えた。「見るな」って、言われたようなものなのに。 まだ注がれたままの視線にレナートは不満げな顔をする。それでもおれが目を逸らすよりも自分が服を着た方が早いと践んだのだろう。突然の大雨でびしょびしょになったからだをろくに乾かさないままシャツに袖を通してしまった。 これで何も見るものはないだろう。そう告げるレナートの視線とレナートを見つめたままのおれの視線が絡む。レナートの目は不満ではなく困惑に染まっていくから、おれは少し困ってしまう。レナートはエディと会話するときはこんな顔をしないのに。 2076 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ94「花」(2021/03/12)桜が散ったら会いましょう 花冷え、という言葉は円城寺さんに教えてもらった。 桜の花が咲くころに、たまに寒くなることをそう呼ぶらしい。陽の光など忘れたように寒くなる様子や、憎めない裏切りのような寒さをそう呼ぶのだと。 だとしたら、アイツは花冷えのころにやってくると言える。なんだか、ずいぶんとアイツっぽくない。花冷えという言葉から感じる、たとえば翔真さんのような背筋の伸びた美しさがアイツにはどうも当てはまらない。 コイツの美しさは違うだろう。そう考えて、俺は初めてアイツの美しさについて考える。 まず、銀色であることは揺るぎない。ステージの上でしか見られないものだと思うのだが、ふとした拍子に意識を通り過ぎていくような、そういう俺が当たり前に見過ごしている部分にも潜んでいる気もしていてもやもやとする。もやもや、というか、ざわざわ、だろうか──俺がアイツに『美しさがある』と当たり前に思っている。おかしな話だ。まるでゲームのバグみたいだ。 1570 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ90「甘」(2021/2/12)猫が胡桃を回すよう 猫の牙とライオンの牙は本数なんかは一緒らしい。大きさが違うから別物に見えるけど、本数はおんなじで三十本なんだって。 人間の歯は親知らずを入れたらそれよりもちょっと多くて、入れなかったらちょっと少ない。まぁ差がちょっとだから口の中には収まるもんなんだろう。三十本の歯がいま、コイツの口の中に収まっている。 あんぐりと大きくあけた口の中には立派な牙。人間のそれじゃない、猫科の牙だ。 大抵の物事には意味と理由があるって思ってたけど、成長するにつれ──こうやって大人に混じって仕事なんかをしているうちに知った。世の中には意味の無いものがあって、理由を気にしても仕方が無いことがある。だからコイツの歯が猫科のそれになってしまったことについて、俺や円城寺さんの困惑をしれっとした笑顔で流してプロデューサーは「しかたないね」と笑ってその場を締めくくった。 2462 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ83「クリスマス」(2020/12/25)愛してるのやりかた 同業者の中には『クリスマス』が希薄な人間がいるかもしれない。 散々クリスマスの特番に呼ばれて、まだきていないクリスマスを祝う。なんなら正月も。そんな生活をしてても俺たちがクリスマスを見失わないのは、事務所のみんなでこうやってクリスマスを祝う機会があるからだろう。 たくさん笑って、いっぱい食べた。片付けをして、円城寺さんの家に三人で帰った。 ケーキはたくさん食べたから、こたつでアイスでも食べようって笑いあった。一通りくつろいだらアイスの前に風呂だ。実は一番風呂が好きなアイツに順番を譲って俺と円城寺さんはテレビをぼんやりと見る。きっとずっと前に撮ったんだろう映像はクリスマスを祝っていて、俺はぼんやりと楽しかったクリスマス会を思い出していた。 4351 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ79「止」ふわふわのカイレ(2020/11/28)恋じゃなくていいや 運命の女神は気まぐれだ。不運はどこにだって転がっている。世の中は不条理だ。不条理の使い方があっている自信はない。兎にも角にも俺は途方に暮れていた。いや、俺の落ち度はかなり大きい。でも、そもそも雨が降ったのがいけないだけなんだ。 くるりと見回した俺の部屋にもずいぶんと物が増えた。仕事道具だけじゃない、少年兵の頃には考えもしなかった、昔だったら『無駄なもの』と評していただろうものも増えた。同じだけ仲間も増えて、いろんなことをするようになった。 たとえば、ピクニックとか。 さて、先程見回した部屋にある俺のベッド。そこに不機嫌そうに腰掛けているのがレッカという青年だ。同僚で、仲間。切磋琢磨しあういい相手。ずっと一緒にいるから、ふとした瞬間に弟のようにも兄のようにも見える不思議な存在だ。 3025 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ76「寒」(2020/11/06)野良猫は懐かない 最近の寒暖差はなんだと言うのだ。 今月に入ってから少し寒いが、羽毛布団を出すのは億劫で厚着をして眠っていた。そんなことをしていたら一週間前にポカポカ陽気がやってきて、慢心していたらその三日後には凍えていたような気がする。で、羽毛布団を出したら翌日の陽気は九月。ふわふわした熱の塊をベッドの端に押しやって眠れば朝には凍えていて、アイツが床からベッドに移動して俺で暖を取っていた。そんな距離も昨日は遠のいて、今日は寒いのにアイツはいない。寒くなければ来ないアイツも、今日は暖かいと読み違えたんだろう。 アイツは雨の日だとか、寒い日とかにやってくる。今月は来るタイミングを間違えっぱなしだ。ふらりと来た夜が暖かいと、なんだか妙にいたたまれない顔をして、床で転がって静かにしている。俺はそんなアイツを見るのがなんだか嫌だ。 2761 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ75「ハロウィン」(2010/10/30)ハッピー罰ゲーム 玄関の扉を開けば、台風がそこにいた。 「トリック・オア・トリート! チビ、持ってる菓子全部よこしな!」 仮装も何もせずに、コイツはそう言い放って手のひらを差し出した。 俺はと言えば、呼吸や思考が止まるほどではないが、ちょっと驚いた。 「……ハロウィンは知ってるんだな」 「あ? 常識だろ」 常識ではない。まぁ菓子がもらえる祭ってのは記憶してるんだろう。それでもやはり気になってしまうのだ。部屋にコイツを招き入れながら問いかける。 「……いつ知ったんだ?」 コイツの人生の転機はふたつある。俺に殴られた瞬間と、アイドルになった瞬間。出会いから俺はずっとコイツと一緒にいるけれど、知らないことは山ほどある。 「んー……ああ、旅してたときにヤギのいる村でなんかそれっぽいことをやった気がすんだよな。そんときゃ意識してなかったが……あれがハロウィンだろ。なんか言うと菓子がもらえるってのはこっち来て知った」 1914 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ73「奪」(2021/02/05)余生は二人で旅に出ようか 少し寄りたいところがある。そう言ったのは道流だった。 タケルはじゃんけんで負けたので重たい缶詰の詰まったエコバッグを持っていたが、文句を言うことはしない。数歩先を歩いていた漣が面白くなさそうに歩調を緩め、道流の数歩後ろに移動した。 立ち寄ったのはクリーニング屋だった。普段は利用しない店だ。彼らの衣装はいつも他人の手によって整えられているし、クリーニングが必要な衣類には出番があまりない。そもそも、タケルと漣は手入れが必要な衣類自体を持っていない。漣に至っては、ここがどういう店なのかすら理解していなかった。 道流が引き取ったのは真っ黒な服だった。タケルは少しだけ心当たりがある。礼服か、喪服だろう。どちらなのか、それを聞くことはしなかった。 3985 34567