85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 437
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONESF(少し不思議)タケ漣(2019/07/05)月下に恋心 思えばコイツが人間であるという証拠は一つもなかった。だけどそんなことを疑ったことなんてなかったから、それを見たときは驚いた。 男道ラーメンで夕飯を食べて、コイツと一緒に帰り道を歩いていた。コイツは二つ先の角で俺と分かれるはずだった。 冬は寒いから家に来ればいいと思う。だけど、円城寺さんの家にすら行かなかったコイツが俺の家になんてくるはずもない。だから誘いを口にすることもできず、ただ雨が降らないようにとぼんやり考えていた。 寒いのに外のがいいのか。夜はなんでこんなにも静かなのか。眺めた月明かりを湛えた目はどこを見ているのか。視線で撫でた表面のその下、内側を一切見せないその皮膚が青白く見える。 その内側を覗いてみたい。そんな叶うはずもない欲求を抱いた相手はコイツが初めてだったかもしれない。 4499 85_yako_pDONE七夕と道漣(2019/07/03)星の川に愛を願う バレている。この腹の奥底に溜まった泥は隠せていると思うけど、上澄みの部分はきっとバレている。証拠と呼ぶには心許ないけれど、「らーめん屋」と呼ぶ声が、二人きりの時だけ少し甘ったるくなる。ような、気がする。 初めは無意識だったけど、思い返してみれば始まりに心当たりがある。 秋の日だ。晩飯の時だ。タケルと漣、二人の皿に肉が平等に入るように取り分けていたら、肉が一つ余ってしまった。 そのとき、二人の皿よりも肉が少なかった自分の皿に肉を入れればよかった。いや、いれるべきだった。だが、自分の手は自分の物ではない皿の片方にしれっと肉をいれ、ほとんど無意識に、だけど意図的に、その皿を漣の前に差し出した。 その日の夜、眠る前に少し考えて、少し考えて考えるのをやめた。タケルには次の食事と時に肉を多めにやればいい。それで平等だ、と。 2888 85_yako_pDONEカフェパレ腐れ縁。左右わからん。(2018/11/15)観覧車は廻る 神谷、初めてあなたと遊園地に行ったのは学生の頃でしょうか。あの頃は友人みんなとバカ騒ぎをしていて情緒なんて欠片もなかったし、私はあなたにこんな感情を抱いてなかった。総じて楽しい、無自覚な一日でした。 二度目はカフェパレードのみなさんと。私たちは二一才になっていて、ハシャぐ水嶋さんや巻緒さんをあなたはのんびりと眺めていましたね。私はほんの少し年を取っただけで、ただあなたを好きになっただけでこんなにも見える景色が違うのかと驚いていました。賑やかな空気とアトラクションの中にいるあなたは華やかで、美しかった。 夕暮れまでそうして遊んで、空にうっすらと月が見えるようになったとき、水嶋さんが言いました。 「みんな、観覧車乗ろう!」 1820 85_yako_pDONE春隼(2018年……?)45分後の話勝手知ったる春名の家のリビング。家主はお風呂。春名のお母さんが今日は帰ってこないから、お泊まり。 一人きりの六畳一間。誰も聞いてやしない、って思ったら想像よりも大きなため息が出た。 プロデューサーには控えるようにと言われていたこの行為。いや、厳密にはこれは自分のことではないから、と言い訳がましく思う。 先ほどからずっと眺めているスマートフォンの画面にはSNSのタイムラインがどこまでも伸びていて、その全てのコメントにユニットメンバーであり、頼れる兄貴分であり、悪友であり、秘密の恋人でもある「若里春名」の名前が踊る。当然だ。「若里春名」で検索をかけているのだから。 いわゆる、エゴサというやつだ。自分自身の名前を検索しているわけじゃないから、厳密には違うけれど。という言い訳。プロデューサーは見てもいないのに、弁明のようにそう思う。 2828 85_yako_pDONE東雲さんと漣。(2019/06/29)甘い香りに騙されて 牙崎漣が様々な屋根の下を渡り歩いて覚えたこと。その中のほんの一部。 彼が「カフェなんとかのケーキ作るやつ」と呼ぶ男──名を東雲という──の家に行けば甘いものが食べられるということ。甘く満ちる香りの温度を自分は案外好きだと言うこと。パンケーキの生地を生のまま舐めるとやんわりと窘められるということ。 そして、その男は気まぐれに来訪しても自分を無碍にしないこと。 今日、牙崎は甘いものが食べたかった。ラーメンではなく、甘いものが食べたかった。だから、足は彼がらーめん屋と呼ぶ人間の家には向かず、普段は曲がらない角を右に。 当然のように目当ての家の扉を叩けば、いつものように東雲が出迎えた。彼は漣を見て柔らかく笑ったあと、まだ何もできていないこと、これから気まぐれな来訪者の為に何かを作るということを告げた。 995 85_yako_pDONEラーメン食べたい夜に書いた。タケルと漣。(2019/06/24)なんてことない夜になんてことのない夜に うまくいかない日ってのはある。きっと、誰にでも。 今日は行きがけにベッドの足に小指をぶつけた。変装用の帽子が木枯らしに吹き飛ばされて川に落ちた。仕事では納得の行く演技ができなくて撮影を長引かせてしまったし、気に入っている靴の紐は切れた。男道ラーメンは味玉が売り切れていたし、帰り道は猫にも会えない。 今日だけだ、わかってる。だけど、こんな日は何もかもうまくいかない気がしてしまう。そんなもんだから、寒いというそれだけの理由でうちにきた銀色の猫に、なんだか安心してしまった。なんか、それだけはいつもと変わらないことのようなことの気がしたから。 「ラーメン食いてぇ」 その言葉に振り向くと、コイツは一切の遠慮もなく、俺の服を着て我が家の安いベッドの上に転がっていた。風呂上がりの髪がぺしゃりとしている。せめて、今夜みたいに冷える冬の夜くらい、乾かせばいいのに。 4860 85_yako_pDONE穴を掘る漣。遭遇するタケル。(2018年頃?)穴 ザク、ザク、ザク。 定期的に音が聞こえてくる。その音を合図に意識が浮上する感覚。どうやら眠っていたようだ。ザク、ザク、ザク。さして大きくもない音が響いている。その音以外は見当たらない。やたらと静かな空間。 そもそも、俺は眠っていたのだろうか。ぼや、と靄のかかったような思考は寝起きのそれだ。だが、何か違和感がある。でも、その正体が掴めない。まぁ、眠っていたんだろう。 ぱち、と。目を開いても視界は暗いままだった。夜なんだろうか。明かりをつけようとリモコンに手を伸ばすが、手が掴んだのはざら、という感触の何か。 いつも枕元に置いているリモコンがない。いや、そもそも枕がない。あろうことか、布団すらない。 2702 85_yako_pDONE牙崎メイン。全員死ぬ。(2020/01/25)河岸の白魚 全員死んだ。 最初はらーめん屋が血を吐いた。ケホ、と一度咳をしたと思ったら、次の瞬間には両膝をついてアスファルトを血まみれにした。円城寺さん、って言いたかったんだろう。チビが口を開いて「え、」と言ったが、次いで口から出たのは言葉ではなく血で、ぐらりと倒れたチビは派手に倒れて鈍い音を立てた。 意味がわからなかったが、異変は止まらない。あらゆる人間が血を吐いて地面に突っ伏していく。あっという間に人間の絨毯が出来上がった。 らーめん屋の電話を取り出して片っ端から電話を掛ける。下僕、四季、それからもう事務所の人間全員。誰も出やしない。電話の鳴る音をかき消すように派手な衝突音が聞こえていた。 振り向けば、車がそこかしこに突っ込んでぶっ壊れていくのが見える。コンビニだとか、知らないビルだとか、定食屋だとか。割れたガラスが太陽をきらきらと反射していて、今日は日差しが暖かいってことに気がついた。 2051 85_yako_pDONEケーキが食べたい漣の話。(2019年頃……?)優しい人星が見え始めた寒空の下、牙崎漣は苛立っていた。クリスマスという文化に苛立っていた。それは宗教上の理由でも、彼が今たった1人でクリスマスと言う日を歩いているからでもなかった。それは今に始まった話だった。彼はほんの一時間前までは上機嫌だったのだ。 彼が初めて体験したクリスマス。そこで彼が得た恩恵は計り知れない。色とりどりのケーキ。かぶりつけと言わんばかりの骨付きチキン。バラエティに飛んだピザの群。食べ盛りを満足させる、肉がたっぷりと乗ったサラダ。飲み慣れない、しゅわしゅわとした爽やかな飲み物。そして、事務所の全員で交換しあったプレゼント。重ねて言おう、彼は本当に上機嫌だったのだ。 小さな子供もいる事務所だ。帰りを待ちわびる家族がいる人も少なくない。事務所でのパーティーは昼前から始まり、夕方には終わった。後片付けなど面倒だと、誰にもバレないように彼は事務所を出た。本当は、数人にはバレてることに気がついていた。ただ、それが優しさなのかは彼にはわからなかった。 2523 85_yako_pDONEカイとケイン。殺伐。(2019/09/22)みつけてくれて、ありがとう『お前ら人間は死ねていいよなぁ! 俺はただ、壊れるだけだ!』 そう叫んだのはいつだったっけな。空の色なんが覚えちゃいない。でも、こんな曇天じゃなかった気がする。どうでもいいんだけどさ。 死ぬなんて思ってなかったのが偽りの記憶のなかにいるガキの俺。 死ぬつもりはなかったのが人間だと思い込んでいたときの俺。 もう二度と死ぬことができないのが、今の俺。 ああ、壊れるんだな。俺は。 「……抵抗は不可能だ。お前はもうじき死ぬ」 真っ青な髪はこの世界に似合わない。もう、久しく青空を見ていない。コイツの言葉は、俺の世界からもう消えちまったんだ。 「……俺が、死ぬのか?」 俺は、壊れるだけだ。それなのに、何を勘違いしたのかコイツは言う。 590 85_yako_pDONEポテトとハイジョ(2019/02/12)ポテトを食べるハイジョちゃん「お金持ちがファストフードを知らないみたいな幻想、やめてくださいよ」 「自分でお金持ちって言っちゃうかぁ」 「事実ですから」 五人席はないから、一つ椅子を借りてきて各々座る。四季くんが自分の席のことを、お誕生日席だと言っていた。なるほど、言い得て妙だと思う。 人もまばらもこの時間、時間が経っているであろうポテトは買ったばかりでもしなしなとしている。僕はわりとこれが好きだ。ふにゃ、として、油と塩の味。食べ盛り育ち盛りの僕らに必要なジャンクな栄養が、これにはギッシリ詰まってる。 「俺、見てみたかったんだけどなぁ。お金持ちが庶民に誘われて、マックのポテト初めて食べて感動するやつ」 「それ、オレもっす! ジュンっちが『これが庶民の食べ物ですか……』とか言うの、チョー聞きたかったっす!」 1071 85_yako_pDONEパン祭とじろちゃん(2021/02/23)山下春のパン祭 確かに発端はおじさんだよ。 プロデューサーちゃんに何気なく、シールを集めてるって言ったのはおじさん。 なんでかって、るいやはざまさんや、最近はいろんな人がくるから、もう少しお皿が欲しいの、って言ったのもおじさん。 だけど、こんなことになるなんて、いや、こんなことをしてくれるなんて思わないじゃない。 嬉しいんだよ。嬉しいけど、照れちゃうと言うかなんというか。恐縮って言葉が一番近いのかな。 事務所の一角。立てかけられた小さなホワイトボード。そこにマグネットで留められたクリアファイル。そしてボードに書かれた文字。 『パン祭りのシール、集めています』 視線をやれば、そこにはクリアファイルをビッチリと埋めるシール達。ああ、ヤマシタ春のパン祭り。 637 85_yako_pDONE虎牙道とコタツ(2019/02/12)もうコタツから出たくない ついに我が家もコタツを出した。タケルも漣も気に入ったんだろう。漣はうちにくると真っ先にコタツに入るし、タケルも何も手伝うことはないとわかるとコタツに吸い込まれていって漣と小競り合いをしている。 自分もコタツが好きだ。こうやって、一度入ると出るのが億劫になるほどに。それこそ、トイレに行くのもめんどうだ。 「タケル……代わりにトイレに行ってきてくれないか?」 そう投げかければ、漣が醒めた目で見てくる。何を言ってるんだ、と目が訴えている。 だが、タケルはわりとノリがいいのだ。 「仕方ないな。他でもない、円城寺さんの頼みだ」 そう言って本当にトイレに向かうタケル。チラ、と盗み見ると、完全に混乱した様子の漣がうろたえている。 369 85_yako_pDONEおいしい飲み物を飲むタケルと漣(2019/02/10)名前はなくて、あったかい ホットチョコレートを飲む話 レンジで温めた牛乳にチョコレートを一欠片。華奢なスプーンは持っていないから、カレーを掬うための大きなスプーンでくるくるとマグカップの中身をかき回す。 ボクサーをしていた時は、この指がこんなに柔らかな動きをするなんて、思ってなかったわけではないが、意識したことは一度もなかった。ハンドクリームを塗るようになった手は、ようやくアップで撮られても胸を張っていられるようになった。 マグカップの中、熱い牛乳がチョコレートを溶かしていく。湯気に甘い香りが混じって、それから少しして華やかな馴染みのない香りがする。これが、最近のお気に入り。チョコレートに包まれていたラム酒の香り。 6655 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ50「名前」(2020/05/02)眠りの浅瀬で会いましょう 最近、予知夢を見る。 * 予知夢って単語は最近知った。らーめん屋が漫画の話かと笑ってた。漫画じゃなくてオレ様の話だっての。 オレ様には未来が見える。なんというか、オレ様としてはつまらない。オレ様にやましいことなんて一個もないのに、なんだかズルしてるような気分になる。 夢は断片的なもので、見える未来もたいしたもんじゃねえから放っておいているが、見なくて済むなら見たくない。そんなことを思いながらオレ様は一度見たはずの光景を見る。厳密には、少しだけズレた現在に触れる。 「おい、オマエ。聞いてるのか」 チビの表情も、疑問も、感情も、全部見た。でも、本当にどうでもいいことが決定的に違う。現実のほうがいいはずなのに、頭にこびりついているのは夢に響く声。 3322 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ49「上」(2020/04/24)楽園ではすべてがうまくいく 夏が好きだった。昔からずっと。 小学生にとって、夏ってのは楽園の象徴みたいなものだろう。蝉時雨に後押しされた大きい笑い声。焼けるような日差しから逃れるように飛び込んだプールに満ちた塩素の匂い。学校の授業なんかなくて、一日中遊んでいられたあの日々は姿が見えないほどごちゃごちゃにこんがらがって、幸せの形に固まっている。中身なんかはわからない、漠然とした光だ。 高校生になると、夏に対しての意識は変わる。夏の好きなところ、問われたとして俺は言葉が出てくるんだろうか。 楽園はおしまい。蝉時雨はただうるさいだけだし、日差しはランニングのじゃまになる。手に届かない積乱雲と、一滴一滴に嵐を内包した激しい雨。そして、幼い頃はただ美しかったはずの、切なさを引き連れてくる花火。 2024 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ48「ひ」(2020/04/24)ハートに火をつけて エディと一緒にスラムから抜け出て、初めて知ったものがたくさんある。その中で記憶に強く印象づいたのは、レナートのつけているロザリオだ。 あれはきれいでいい。レナートを見ているときっとあれには特別な意味があるんだと思うけれど、人を殺した時にロザリオを握るつらく悲しそうな顔を見ていると、あれが本当によいものなのかと少し考えてしまう。 あれの意義をレナートに聞くのは憚られた。ミハイルは高尚な遊びだとうそぶいていた。リーダーは支えで、キールは枷だと言っていた。きっとどれもが真実なんだろう。 ともあれ、きれいなものはきれいだ。朝日を反射する様だとか、闇から瞳のように光る様だとか、真夏に焦がれる様だとか、そういう輝きが好きだった。ロザリオの変化はどれも、レナートの銀色の髪によく似合っていた。レナートの着るどんな服よりもレナートにぴったりだったから、ロザリオは彼の首にぶらさがってるのが一番間違いがなくていい。 3941 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ47「靴」(2020年頃のはず)ガラスの靴は二年後に「なんだこれ……ヒールの置物か?」 「酒だってよ。ったく、食えるもんよこしやがれってんだ」 今日は撮影だと言っていたから、てっきり円城寺さんのところに行くんだと思ってた。だってここにはあったかい飯も客用の布団もない。 コイツが俺の家にくる理由って本当にない。それでもたまに、本当にたまにこうやってうちにやってくる。そこに意味なんてなくて、そこに理由なんてなくて、何かをするために来た試しがなかったもんだから、何かを片手にこうやってやってきたってのはわりかし非日常的だ。 「そのへん置いとけ」 「は?」 マヌケな声がでたから、きっとマヌケな表情をしていた。コイツはそんな俺を面白がることもせずにあがりこむ。俺んちにはたいしたもんはないってわかってるだろうに。 1970 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ45「普通」(2020/03/27)小さな恋の歌 僕らの中で一番『普通』に近いのは、セブン。と見せかけて、実はファングだったりする。 でもそれは僕らの関わらない世界の『普通』だから、ファングはこの世界じゃちょっとした異端者だ。別にファングは人を殺すから圧倒的に世間の言う『普通』ではないんだけど、その他大勢と同じ神様を信じてる。キリシタン、ってやつだ。 僕は神様を信じたことはないけど、宗教をバカにしたりしない。ただ、散々汚いことやってきておいて最後の最後で神様にすがる人間をバカにしてるだけ。だからファングがどんなに宗教に傾倒してても変わらずに大好きだし、ファングが大好きな神様なら好きになってもいいかなって思ったりしてる。 でも神様なんかより、僕は聖歌が好き。正確に言えば僕はファングの歌が好きなんだけど、親も学び舎もないファングが知ってる歌はこれしかない。 2672 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ43「しろ」(2020/03/26)恋愛はシロウトです 五年近く付き合ってるうちの、チビが酒を飲み始めてからはいつも横にいる。ずっと見ててわかったんだが、チビの酔い方は面白え。いや、めんどくせー時のが多いんだが、今日のこれは、まあ笑える部類だ。 「だから……これは……浮気じゃない……わかるだろ……?」 チビがこの広い家に引っ越して二年。倍くらい大きくなったテレビには、真剣な顔をしたチビが大きく映っている。そんで、オレ様の真横には、テーブルに突っ伏してぶつくさ呟いてる、チビに磨きがかかったチビ。耳の赤さは酒のせいだろう。額をテーブルにこすりつけてなお手放さない缶チューハイは何本目だろうか。なんつーか、チビは安っぽい酒を好んで飲んでいる。 「見るなよ……バカ……何見てんだよ……」 3177 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ41「ふく」(2020/02/29)麗しドレスアップドール 正直に言う。俺に服のセンスはない。 同年代の人と比べたら、俺の服はあまりにも機能性に傾いている。私服とランニングウェアが一緒くたになってるときもあった。服は増えたがデザインは似通うし、同系色の服を好む。服を選ぶポイントは機能性、通気性、それと、ポケットがあるかどうか、だ。 それでもアイドルをやるぶんには問題がなかった。服は用意してもらえるから。私服コーディネートみたいな企画だって、呼ばれるのは俺たちじゃなくて華やかな人たちだ。四季さんとか。 そういうわけで、俺のクローゼットは見栄えしない。そんな状態が二年くらい続いただろうか。今、俺の目の前には色とりどりの洋服が並べられている。 「おら、オレ様が選んでやったんだ。ありがたく受け取りやがれ!」 2392 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ36「差」 Dosの立ち絵だけで書いた幻覚です。(2020/02/04)もう一回! 羨ましいって気持ちよりも、惨めだって気持ちが勝った。 部屋に来い、だなんて言葉、無視してやればよかったんだ。のこのこと足を運んだ俺がバカだった。ほんの少し、期待なんかしてしまって、ああ、とんでもない大バカだ。 ノックもなしに開けた扉。最初に目に入ったのはここの主である銀の蛇ではなく、現在真っ向から対立中の、できることなら会いたくない同期だった。蛇と、さながら大型犬。見慣れた二人は、見慣れない服装をしている。 出会う予定のなかった男は普段のチンピラじみた格好をしておらず、仕立ての良いスーツを身にまとっている。品の良いブルーのスーツは俺が持たない身長と見合ったガタイによく映えた。表情を隠すというよりは相手を威圧することを目的としているであろうサングラスは外され、見慣れない柔らかな瞳が笑っている。そう、明らかにコイツは今の状況を楽しんでいる。 4504 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ34「知識」(2020/01/11)向上心は猫をも絆す 知識なんて最低限でいいと思ってた。それがとんだ思い上がりだったことにこの歳で気がつけたのはよかったことなんだろう。何事も、遅すぎるということはない。 「知識は必ず君たちを助ける」と言われた時、「知識がないと困るよな」って言うことしかわからなかった。困ったことはこの仕事になってから度々あって、その筆頭は台本の漢字が読めないってこと。その都度人に聞くもんじゃない。ちゃんと覚えなきゃ。それってのは必要に迫ってのことだった。 だから「知識があると楽しめる」と知った時はなんだか不意をつかれた感じだったし、その瞬間はピンとこなかった。だって、俺は台本が読めて、買い物をするときに単純な足し算ができればいい。正直、二割引とか言われたって、「安くなるんだな」って程度しか思わない。だから、俺は自分に最低限だけを課し、それ以上を見つめることをしなかった。視野が狭かったんだ。 2559 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ28「変」 Dosの立ち絵だけで書いたデカめの幻覚です(2018/11/19)ハッピーバースデー!「オマエ、変だよ。うん。人間じゃねえな」 目の前の男は確か初対面のはずだ。遠慮のない蜂蜜色の双眸で、頭のてっぺんから爪先までを値踏みするように眺めてからのこのセリフ。ましてや出会い頭、銀髪が揺れる程度に会釈をした男に同じく返した会釈、そうして僅かな世間話をしてからのこれだ。意味などわかるわけもなく、暴言だとわかったとしても反応ができなかった。 俺の反応はどうでもいいらしい。新しく雇われたらしいネゴシエーターの噂に風貌が完全に一致した男が偉そうに御高説を垂れる。 「あのな、人には欲ってのがあるんだ。ああ、三大欲求なんてつまんねえもんじゃねえぞ? あんなのは猿でも持ってるからな。わかりやすいのは地位とか名誉とか……まあこの辺は猿以下に教えてもわかんねえから言わねえけど」 3101 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ27「ごちそう」(2019/11/22)月夜の晩餐 コイツの意識がなくなるまで抱き潰さないと、って焦燥感がこの肺を焼くようになったのはいつからだろう。それは加虐心とか征服欲とか劣情や、ましては愛情なんかじゃなくて、純然たる恐怖だ。力の及ばない生き物がむやみやたらに暴力を振るうような幼稚な手段だ。大型犬を前に獰猛になる小型犬のように、噴き上がる衝動を押さえつけていられない。 そのことに気がついたときの俺の心は俺にしかわからない。絶望なんて二文字じゃ計り知れなくて、呼吸の浅さだけが手がかりになるような、むりやり言葉にするなら靄の中でうろたえるだけの迷子のような心境だ。それほどまでに、今俺の下で真っ白な胸を動かしている、全てを暴いたはずの存在が得体のしれないものに見えて仕方がない。内側を暴いたはずなのに。心臓を飲み込んだはずなのに。 2146 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ24「イタズラ」(2019/11/02)十八歳友の会・八年目 時刻はすでに午前様。でもでもここは勝手知ったるれんの家。 あたしとロールが設立した『十八歳の会』も今や『二十六歳の会』。数年前から定番の開催場所になったれんの家に、都合のついた飲んだくれたちは集結していた。 もう八年。長いような、短いような。仕事に熱中して、環境も変わって、恋する人はしたりなんかして。深く関わったこと預かり知らぬこと、多々大小あれどあたしたちはそれなりの心情を共有しているわけで。 今日の話題、その中心はれんだった。いや、たけるだったって言ってもいいかも。恋バナ、って言ったら少しちがうかもしれないけど、あたしたちはれんがとってもたけるを大切に想ってて、同じくらいたけるに想われているのを知っていたから。 1750 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ20「歌」(2019/10/04)遠くから聞こえる 聞いたことのある歌が聞こえる。夕暮れの足音が近づく窓の外から、子供の声が聞こえてくる。 穏やかなソプラノとアルト。淀みない旋律。本と本の隙間から見つけた絵葉書みたいに、その二重奏は俺の記憶を遠い秋風の向こうから連れてきた。合唱曲なんて、久しぶりに聞いた。 学校行事のコンクールとか、そういうのが近いのだろうか。そういえば、昔はそういう行事に積極的じゃあなかったっけ。あのときの自分が間違ってるだなんて思わないけれど、別の道もあったのかとは思う。横にいるコイツがついさっき耳にした音律をなぞる。ところどころ、キーが違うそれは記憶にある歌よりもずっと愛おしい。 俺はコイツが俺と同じような人生を歩んでいるとは思わなくなっていたから、当然知らないだろうという決めつけのようなものでもって合唱曲の題名を口にした。コイツはふうん、と言ったっきり、またたどたどしく歌い出す。気に入ったんだろうか。ソプラノパートとアルトパートをいったりきたりするコイツは、そういえばハモリパートを歌うのが下手だった。そんなことを思い出して口にする。 2539 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ19「みず」(2019/10/02)足下に星屑 別に隠していたわけじゃないけど、知られるのは気恥ずかしい。それこそ、プロデューサーにしか言えないし、言ってなかった。こんな、幼稚な夢。 雲に突っ込んで視界不良になるのすら愉快だ。星の間をくぐり抜け、真下にある町並みの灯す光を眺めている。こんなに間近にある月に照らされて、俺のシルエットが大地に降りる。風を裂く音を置き去りにして俺はスイスイと夜空を泳ぐ。 みんなは少ししたら飽きてしまったゲームだが、俺にとってはすごく楽しくてわくわくするゲームだった。内容は空を飛ぶだけ。朝、昼、晩。雨の日、雪の日、曇りの日。様々な日の空を渡り歩くゲーム。 勝敗はない。スコアアタックはできるが、飾りみたいなものだ。少しプレイしてお蔵入りになりそうだったのを、借りてきて、なんだかんだでずっと遊んでいる。 4276 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ18「ふく」(2019/09/20)フクワウチ 二人分の体重を受け止めた安っちいマットレスのスプリングはいつもどおり不満げだ。 腰掛けたオレ様が差し出した豆を受け取ったチビは、不思議そうな顔をしていた。 それはオレ様が何かをチビに差し出したってことを驚いてるんじゃなくて、単純に、今日と豆が結びついてないんだってのが、聞いてもいないのにわかった気になっちまった。 セツブン、って呟けば、チビはああ、って声を出す。流れに任せていたら正解に辿り着いた人間の、ちょっとぽかんとしたマヌケな声。チビのマヌケヅラってのはもう少し面白かったはずなのに、オレ様は全然笑えなかった。 「なんでだ?」 問いかけに含まれた意味の全てを理解したとは思えないから、いくつかの答えを投げてよこす。 2507 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ17「あせ」(2019/09/15)リベンジマッチ! 俺とコイツの間には一年と七センチの距離がある。 一年を感じるときは少ないけど、七センチは何気にデカい。見つめる時に目線が上を向く。キスをする時つま先立ちになる。抱き合うと唇が首筋に埋まる。そして、今、とか。 今、俺の脳裏にはどうでもいい疑問と少しの苛立ちがあった。熱帯夜って、どれくらいの気温からそう呼ぶんだっけ。知らないけど、きっと今日みたいな日を熱帯夜って呼ぶんだ。何もしなくても汗が吹き出てくるのに、俺は思い切り背伸びをして、同じように背伸びしたコイツが天井に向けて伸ばす腕からエアコンのリモコンを奪おうと躍起になっている。触れ合った部分の汗がくっつきあって、ますます暑い。コイツ、どういうつもりなんだろう。暑さで耳まで真っ赤だってのに。 2152 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ16「いろ」(2019/09/06)影のてのひら その日は雨で、俺は憂鬱で、食べたメシは味がしなくて、つけっぱなしのテレビは頭に入ってこなかった。 雨が降ればいいって思った。曇天を後押しするようにそう願う。星の見えない道、街灯がチカチカと瞬く道を歩いて、アパートの階段を上る。カンカンカン、って音ががらんとうの頭に反響してひどく痛い。俺はこんなにも雨音を待ち望んでいるのに。 鍵を差し込まずにドアノブをひねる。がちゃがちゃと反抗的な音が脳を揺らす。カンカンカン、がちゃがちゃ。埋まる音を言葉にしてなぞる。観念したように鍵を差し入れる。なんとなしに、負けた気分になる。 合鍵は作ったことがない。渡す相手なんていない。きっとここで倒れたら、俺を抱きかかえるやつなんて一人も居ない。死ぬ予定はないけれど、合鍵がほしくなる。受け取ってほしい相手を描く。乱雑にポケットにそれを放り込んで、勝手に上がり込んで我が物顔でテレビを見ているアイツが浮かぶ。 2627 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ14「ひまわり」(2019/08/23)月の王宮 アイツはヒマワリみたいだ、って。 言ったのは円城寺さんだったかプロデューサーだったか四季さんだったか、はたまた隼人さんだったか。いや、他の誰かかもしれない。何一つ覚えていなくて、理由も知らなくて、だからそうだとも思わなくて。だって、アイツがヒマワリって、なぁ。 でも、百合だとかバラなんかよりは近いのかもしれないって思ってた。仮に、花に例えるとしたら、だ。アイツを例える花。バシっとした確証を与えられないままだった十七歳の夏。疑問は一年後に溶ける。 「ヒマワリはね、太陽の方をずっと見るんだ」 こう言ったのはみのりさんだった。これは覚えている。だって、つい先日の出来事だから。 「確かに漣くんは何かをひとつ、じっと見るよね……それに、漣くんってずっとタケルくんのこと見てたから。当人は気づかないものなのかな。一年くらい前はそれこそ、ずっと見てたよ」 1796 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ13「かお」(2019/08/18)正反対の似た者同士 普段は豹のような男が子犬のように僕の顔を舐めている。鼻からこぼれている血だとか、切れた額から流れる血だとか、まぁ概ねほとんど血なんだけど、僕の顔を伝う液体が舌に絡め取られていく。 「こんなに怪我しちまって……かわいい顔に痕が残らないといいな?」 「ありがとファング。でもね、君が今掴んでる肩は刺されているし、多分だけどアバラも折れてるんだ。顔はいいからそっちを労ってほしいんだけど」 「オレのクローにこんな傷つけやがって……」 まったく人の話を聞かずにファングは僕の頬を撫でる。本当に君は僕の顔が好きだね。そう聞けばニヤニヤとした口調で返される。曰く、「カラダも好きだぜ?」 ファングは僕が好き。僕もファングが好き。お互いのどこを好きかってのは少しずつズレているけど、まぁ、概ねうまくやっている、いわゆる普通の恋人同士。 1672 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ12「おちる/おとす」(2019/08/19)共鳴ノイズ スポットライトに奪われた、心のタガが外れた月夜。 好きだと言った。縋るように抱きしめた。三度目の夜、キスをした。 三度とも、望む答えも恐れた返事もなく、コイツはなんだか不思議そうに、だけど愉快そうに笑っていた。 ただ、ただ、必死な俺を見て、ざまあねえなと笑っていた。 最悪だ。泣いてしまいたいのに涙なんかでない、歪んだ顔をしていたんだろう。アイツはそんな俺に気がついて、何か取り返しのつかないことをしてしまったと言わんばかりに慌ててみせた。もちろん、そんな動揺をさとられないように、偉そうな態度は崩しもせずに。 「……何でそんなツラしてんだよ」 最悪だ。何が悪かったのかなんてわかっていない、蟻の巣を潰す子供のような声。暴力的な無邪気さがあんなに近くに居たコイツをさらっていってしまって、俺だけが取り残される。なんだか、広い砂漠にぽつんといるような。たまに俺が抱くコイツへの畏怖っていうのは、自然に対するそれに似ている。 3359 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ11「よる」(2019/08/05)卒業(二人が高校生)宇宙でテレパス 名前も忘れた本で読んだんだ。夜は宇宙なんだって。 虫の知らせとか、ましてや運命なんかじゃない。これは、たんなる偶然。たまたま、ボールペンのインクが切れただけ。 コンビニで買える、缶ジュース程度の値段のボールペンが俺は一番気に入っていた。どうせ明日の朝、登校ついでに買うんなら、夜涼みがてら今買っちまえばいい。そう思ってパジャマ代わりのジャージのまんま、ポッケに財布だけ突っ込んで家を出た。財布の中身は見てないけれど、流石にボールペン代くらいはあるはずだ。余裕があったらスイカを模したアイスを食おう。そう思ってた。 街灯があったってなくったって月なんか見やしない。それでも、月よりも街灯がやかましいと思ったのは蛾が集っていたから。セミの声に風情を感じることもなく、さっきまで書き取りしていた英単語を思い出そうとして曖昧なスペルを脳でなぞっていたときに、声が聞こえた。 4363 85_yako_pDONEレバニラと道漣(2019/10/25)レバニラ食べる道漣ちゃん らーめん屋ってわかりやすい。 底のところにある感情が見えないやつだって思ってたけど、底が見えない理由なんて単純なんだと思い至った。きっと、らーめん屋の腹んなかが底なしなだけ。ないもんは見えない。そんだけ。 そんな底のない真っ暗闇からこぽこぽと生まれるあぶくとして目に見えるようになった感情は、本当に単純で笑ってしまう。髪をタオルで拭う指先だとか、メシをよこしてきた時の嬉しそうな目だとか、電気を消したあとに必ず言ってくる「おやすみ」の声だとか。隠す気もないどろどろの好意はチビへのそれとは違っていて、まあ、気分は悪くなかったが物事ってのはハッキリさせたい。 「らーめん屋、オレ様のこと好きだろ」 見抜かれて、びっくりするんだろうって思ってた。でも、向けられたのは満面の笑み。 4468 85_yako_pDONE焼き芋と道漣ちゃん タケルくんを添えて(2020/03/09)焼き芋食べる道漣ちゃん「らーめん屋……いや、これがデザートって無理あんだろ……」 「おいオマエ、円城寺さんがせっかく買っておいてくれたんだぞ。……食べきれなくてすまない、円城寺さん」 「いや、これは自分が買いすぎたんだ。気にしないでくれ」 たくさん食べてくれてありがとうな。懐かしいアナウンスに釣られて買ってきた焼き芋は、半分以下まで減っている。でも、九本も買ってしまったんだ。子供の腕くらいある大きな焼き芋はあと三本残っていた。あと一本ずつ、とはいかない。ただでさえたらふく食べた後のデザートに出したんだ。ここまで減ったのは二人がよく食べるからにほかならない。 焼き芋がこんなにあるのに、でっかいハンバーグを焼いて、ご飯を五合も炊いてしまったんだ。歯止めが効かない、というのは違う気がするが、二人にはいくらでも食べさせたくなってしまう。きっと、今まで自分にたらふく食わせてくれた人たちもこういう気持ちだったに違いない。 2338 85_yako_pDONEネイルと道漣(2020/03/19)透明なマニキュア 誤解を恐れずに言うのであれば、自分は漣の見た目が好きだ。 誤解をされたくはないので補足をするが、もちろん中身が一番好きだ。ただ、内面から滲む漣の素直さだとか、凛とした芯の強さだとか、タケルの居ない時に見せる気怠げな様子だとか、そういう自分が好ましいと思う部分をきれいに表してみせる外面も好きだというだけの話。きれいなものが好きな人間は多いだろう。自分はもれなくその一員で、漣の美しさを気に入っている。 ただ、漣はそうではないから自分の美しさをいつだって蔑ろにしてみせる。きれいなものはきれいなままでいてほしい。きれいなものは、もっともっときれいでいてほしい。 それを自分の手で、もっときれいにできたら。これはどういう感情なんだろう。形はわからないけれど自分にはそういう欲求があって、漣はそれを叶えてくれている。 5383 85_yako_pDONEサボテン育てる道漣(2019/10/26)サボテン育てる道漣ちゃん らーめん屋の家に物を置くことが増えた。台本、プレゼント、着替え。きっと人よりは少ない持ち物の居場所が、あの物置のような寮から暖かい畳の上に移動していたことに気がついた時には、何かが決定的に変わってた。その何かがわからないまま、日々は流れる。 サボテンをもらった。別にいらなかったけど、くれるって言うからもらってやった。まんまるくて、手のひらで握ったら隠れそうな弱っちいやつだったけど、それを許さないと言うように全身を武装してる様が気に入った。 片手で持てる小さな小さな鉢は、当たり前のようにらーめん屋の台所に置かれた。ほっといてもらーめん屋が世話すると思ったが、それを言うよりも早く、らーめん屋が「サボテンに話しかけてやるといいらしいぞ」とか言い出した。オレ様が面倒を見るのは決定事項らしい。 1775 85_yako_pDONEクレープ食べる道漣(2020/03/01)クレープ食べる道漣ちゃん 最近は忙しくて三人の予定が合わない。個人の仕事だって増えたし、それぞれの交友関係も広がっている。当たり前に一緒にはいられないのだ。 ところが漣と一緒にいる時間はうんと増えた。ふらふらとしていた漣が、居場所を我が家に決めてくれたからだ。それは保護者を気取った「うちにいてほしい」という言葉ではなく、一人の男として口にした「一緒にいてほしい」という一世一代の告白を漣が受け止めてくれた結果だった。一緒にいてほしいと伝え、特別に好きだと伝えた。返事らしい返事はないが、こうしてこの安アパートに居着いたということは嫌ではないのだろうと自惚れている。 タケルにはそれを伝えた。その上で、タケルの事だって大切だということも。ただ、愛しているのは漣なのだと。 2449 85_yako_pDONEお風呂に入る道漣(2019/11/06)お風呂に入る道漣ちゃん タイヤキを八つも買ったのは、ばあさんが食べ切れるなら買うといいと言ったから。なんでも、八つ買えば『フクビキ』ってのができるらしい。 「一番いいのが当たるとね、温泉に行けるわよ」 そう言ってタイヤキを九つ袋に入れたばあさんが手渡してきたのは、緑色の紙っ切れ一枚。これがあれば『フクビキ』ができる。何をするのかはわからねーが、オレ様は最強大天才だから、一番なんざ余裕だろ。 商店街の入口、机に置かれたよくわかんねーものをくるくる回したら緑色の玉がでてきた。これで温泉に行けるのだろうか。よくわかんねーけど、祝福するようにベルが鳴る。ベルの音より大声でオッサンが言う。 「おめでとう! じゃあこれ、温泉……」 温泉。 2244 85_yako_pDONE鯨の話をする道漣(2020/04/30)孤独の海で会いましょう はぁ、と大きく肺が動く。吸ったのか、吐いたのか。自分のことがあやふやになって、漣の呼吸しか聞こえない。自分がどこまでも希釈されて、精液と一緒に漣の中に流れ込んでしまった錯覚に溺れていく。 ぽすりと布団に倒れ込んで、向かい合う形になった漣の瞳が開くのを待っていた。自分よりも荒い息、朱に染まった肌、乱れた髪。先程まで欲を煽っていたすべてが愛おしく思えてしかたない。正しく数分間、ぼやりと開いた瞳が一瞬揺らいだ後、普段の力強さを取り戻す。「らーめん屋」、とかすれた声が鼓膜を揺らした。 名前を呼ばれて、形が戻る。世界の形か、自分の形か。どちらかのパズルがピタリとはまり、豆電球が支える薄明かりやつけっぱなしだったテレビの音が戻ってきた。クジラは歌う。波に融ける。思い出した事がある。 1391 85_yako_pDONE弱るタケルと励ます漣。カプなし。(2020/10/31)それは影に似ている。 プロデューサーはいつも新幹線に乗るとアイスクリームを食べる。必ず食べるもんだから、相当好きなんだろう。 自分だけじゃない。俺と円城寺さんにはバニラ味、アイツにはチョコ味のアイスクリームをいつだって手渡してくれる。実を言うと、たまにはチョコ味が食べたい日もあるんだけど、それでも俺は黙って薄い真珠色をしたアイスクリームを受け取っている。プロデューサーにはこういうところがあった。なんて言葉で表せばいいのかがわからない、決して賢くはないところが。 新幹線はあまり揺れないから、気がつくととんでもなく遠くに運ばれていたりする。いまだって相当な距離を走ってきた。北へ、北へ、北へ。外だってきっと寒い。それでも新幹線の車内は暖かいから、俺はアイスクリームを買った。プロデューサーもいない、アイツもいない、円城寺さんもいない車内で、チョコ味のアイスクリームをひとつだけ買った。 10671 85_yako_pDONEクリスさんを理解するために書いたら別人感です。(2019/04/30)名前のない魚 古論クリスは歩いていた。通行人の視線にも気が付かずに。 彼、いわゆる美男子は歩を止める。彼の視点は、道端の露天商に注がれていた。 彼は、仲間である青年のことを思い浮かべていた。青年の名は、想楽という。 想楽は実に様々な雑貨を持っている。きっと雑貨が好きなのだろう、とクリスは考えていた。もし、この店に何かいいものがあればお土産にするのもいいかもしれない。きれいな、置物などどうだろうか。意にかなう商品はあるだろうか。すこしだけ浮き立つ心を隠すこともなく、彼は店主と思わしき男性に告げる。 「何か、面白いものはありますか? 飾れる、美しいものがよいのですが」 通行人がそうするように、店主もまた彼に振り返る。目が合うと店主は、すきっ歯を見せて笑ってみせた。 5050 85_yako_pDONEミハイルとテキーラ。Dos設定前に書いたので矛盾してます。ミハイルとダニーが後輩です。(2020/06/28)ミハイルとテキーラと長い夜 柔らかく、それでいて横暴なノックの音。主がわかるほど、おれはイグニスのメンバーには詳しくない。 寝るにも、何かをするにも中途半端な時間だった。寝たふりを決め込んでもよかったが、扉を開けたのは気まぐれだ。どうしたって警戒心が滲む程度に覗いた隙間から、美しい銀の髪が見える。 「……レナートか」 「ああ、今は暇か?」 レナートが部屋を訪ねてくることに不思議はない。おれはそれなりの信頼を勝ち取っているから、仕事の相談をされることだってあるのだ。ただ、それにしてはレナートの持ち物がおかしい。レナートが持っていたのは氷をたっぷり湛えたアイスペールとライムを塩。そしてショットグラスがふたつ、テキーラの瓶が二本。 3652 85_yako_pDONE魔法使い伊瀬谷四季と牙崎漣。四季が誰かに恋をする描写あり。(2019/03/04)いつか必ず 伊瀬谷四季には魔法が使える。 伊瀬谷四季は魔法使いだ。だから、伊瀬谷四季は魔法が使える。当然だ。だって、彼は魔法使いなのだから。 伊瀬谷四季はこのことを隠したりしない。ただ、そんな荒唐無稽なことを聞いてくる人間は当然いなかった。 伊瀬谷四季は大好きな先輩たちにはこのことを話していた。もちろん、真に受けた人間はいなかった。 変化は唐突で、幸福は光だ。まっすぐに、だけど、当たり前に。 その日、伊瀬谷四季の魔法とはまったく関係なく、大河タケルに奇跡が起きた。彼は、今日という日は昨日までの積み重ねで、唐突な変化を予期していたわけではなかった。彼は訪れるであろう幸福を信じていたけれど、それは確信のない明日だった。 3148 85_yako_pDONE薫輝(2018/10/24)カレイドスコープ夢を見た。現実と地続きのようなそれは、一目で夢だとわかるようなものではなかったが、脳は正しくこれが夢だと理解していた。明晰夢というやつだろう。 意識が浮上した時、そこは寝室だった。真っ暗なはずのそこは、なぜかぼんやりと薄暗い。夢特有の都合の良さに、妙に現実味を帯びた時計の秒針が響く。カッ、カッ、カッ、と。 眠った時と寸分変わらない景色に、何故だか君だけがいなかった。二つ並んだ枕は片方だけがぽっかり空いていて、見慣れた赤い頭がないことに少しだけ苛立った。夢に腹を立てても仕方がないが、夢なのだから望み通りに世界が回っていたっていいだろうに。 夢の中だが意識はある。手は思い通りに動いた。体を起こしても、違和感はない。もしかしたら、現実なのかもしれないと思うほどリアルな夢だ。 3543 85_yako_pDONE薫輝。(2018/02/24)共に生きるということ。塩と胡椒をしただけの肉が、じゅうじゅうと焼ける家庭的な音。 その音を聞きながら桜庭薫はため息をつく。 何故、自分が食事を作っているのだろう。自身と、彼との二人分の食事を。 きっかけはほんの些細な雑談だった。 「桜庭って、料理できなかったら一人暮らし大変じゃねぇの?」 ちょうど桜庭のフォークがレタスを突き刺した瞬間。 確か、天道が作った食事を二人で囲んでいたときに、天道が何の気はなしに言ったこの言葉。 「バカを言うな。僕は人並みには食事くらい作れる」 料理ができないだろう、という前提の発言に少しムッとして返せば、そこにあったのはキラキラとしたラズベリー色の瞳だった。 「そうなのか」 裏切られるなんて思ってない、信頼の色。 1046 56789